「路線価」2年連続上昇 北海道が上昇率トップに 背景には?

相続税などの基準となる土地の価格、「路線価」が3日公表され、全国の調査地点の平均は2年連続で上昇し、上げ幅も大きくなるなど、新型コロナの影響からの回復傾向が鮮明となりました。

商業地や観光地などで大きく上昇した一方、オフィス需要の低迷が続く東京都心では横ばいやわずかな上昇にとどまり、回復傾向に差が出る結果にもなっています。

一方、上昇率2年連続全国最高となった北海道では、札幌市中心部で相次ぐ再開発や、先端半導体の国産化を目指す「Rapidus」の工場建設が決まっている千歳市で、今後、住宅需要が急速に高まると見られています。

令和5年分の「路線価」について、各都道府県データとともに詳しくお伝えします。

新型コロナ影響からの回復傾向鮮明に

路線価は、1月1日の時点で国税庁が算定した全国の主な道路に面した土地の1平方メートルあたりの評価額で、相続税や贈与税を計算する基準となります。

ことしの路線価は3日公表され、調査対象となった全国およそ31万6000地点の平均は、去年に比べて1.5%上がり、2年連続で前の年を上回りました。

上げ幅も去年より1ポイント大きくなっていて、新型コロナ禍の影響からの回復傾向が鮮明となりました。

国税庁は、新型コロナに伴う行動制限や入国制限が緩和され商業活動が活発になっていることや、インバウンド需要の高まりなどが背景にあるとみています。

都道府県別の平均では、25の都道府県で去年を上回り、最も上がり幅が大きかったのは▽北海道の6.8%、次いで▽福岡県の4.5%、▽宮城県の4.4%、でした。

都道府県庁所在地の最高価格も去年の2倍近い29の都市で上昇し、▽岡山市の市役所筋は9.3%、▽札幌市の札幌停車場線通りは8.4%上昇しました。

▽全国で最も高いのは38年連続で東京・銀座5丁目の銀座中央通りで、4272万円と3年ぶりに上昇に転じ、上げ幅は1.1%でした。

全国的に、再開発の対象地域やその周辺に加え、商業地や観光地などで大幅な上昇が目立つ一方、オフィス街として知られる東京の千代田区や中央区、港区などでは税務署ごとの最高路線価がいずれも横ばいやわずかな上昇にとどまり、回復傾向に差が生じる形になりました。

都心のオフィス街はリモートワークや在宅勤務の普及などを背景に空室率が高い状態が続いていて、コロナ禍での働き方の変化が路線価にも引き続き影響を与えているとみられます。

都心オフィス 需要喚起に向けた動きも

こうした中、大手の不動産会社の中では、働き方の変化に対応した新たなオフィスを整備することなどで、オフィスビル需要を喚起しようという動きも出ています。

オフィス街として知られる東京・千代田区の丸の内にある高層ビルでは、8階部分を改装してこの春、アフターコロナの働き方を意識したオフィス向けの賃貸スペースにしました。

企業の社員数にかかわらず、出勤する人が少人数でも効率的に使えるよう小規模なものを含む、さまざまな広さのスペースが用意されているほか、入居している企業の社員なら誰でも無料で使うことができる専用のラウンジも設けられています。

ラウンジは広さが600平米以上あり、3つの区画に分けられていて、ちょっとした休憩から商談まで多様な使い方が可能な空間になっています。

ことし5月に入居したソフトウェア企業は、コロナ禍にリモートワークを取り入れた一方、現在は部署ごとに週3日出社する日を設けていて、リモートワークと出社を組み合わた働き方に合う新たなオフィスとしてこの賃貸スペースを選んだということです。

企業の社員は、「自宅でできる仕事がある一方、社員どうしのコラボレーションやイノベーションを生み出すため出社との組み合わせも必要なので、執務スペースだけでなく社員たちがさまざまな用途で自由に使うことができるのはとても助かっています」と話していました。

都道府県別データ詳細

【去年を上回った都道府県】

都道府県別の平均の路線価が去年を上回ったのは25都道府県でした。

去年は、前の年から上昇したのが20都道府県だったため、5つ増えました。

▽北海道は上昇率が最も大きく、6.8%上昇しました。

<東北>
▽宮城 4.4%
▽福島 0.4%
▽秋田と山形 いずれも0.2%
▽岩手 0.1%

<関東甲信越>
▽東京 3.2%
▽千葉 2.4%
▽神奈川 2%
▽埼玉 1.6%
▽茨城 0.4%

<東海・北陸>
▽愛知 2.6%
▽石川 1.1%

<関西>
▽大阪 1.4%
▽京都 1.3%
▽兵庫 0.5%

<中国地方>
▽広島 1.4%
▽岡山 1.3%
▽山口 0.4%

<九州・沖縄>
▽福岡 4.5%
▽沖縄 3.6%
▽熊本 2.3%
▽佐賀 1.9%
▽大分 0.7%
▽長崎 0.6%

上昇率の▽1位は北海道、▽2位が福岡、▽3位が宮城です。

上昇率 2年連続全国最高の北海道 背景には

上昇率は過去10年で最大となり、2年連続で全国の都道府県の中で最も高くなった北海道。

北海道不動産鑑定士協会によりますと、札幌市中心部では北海道新幹線の延伸を見据えてマンションやオフィスの需要が高まっているほか、商業施設が次々と建設されるなど、再開発を背景に不動産市場が好調な動きを見せていることに加えて、札幌市の郊外や周辺自治体でも住宅を購入する動きがあるということです。札幌圏での値上がりが道内全体の平均価格を押し上げた形です。

北海道不動産鑑定士協会の横山幹人理事は「札幌市中心部では、新しい商業施設だけでなく、老朽化したビルの建て替え時期が一斉に訪れていて、そうした古いビルに入居している企業がほかのオフィスを探す動きもあるため、札幌圏は上昇傾向が続くと考えられる」と話しています。

その上で、「資材価格などが高騰するなかで、札幌圏を中心に価格が高くても住宅を購入する層がいる一方、札幌圏以外の地域では今後は下落基調になると思う。道内の不動産市場は、二極化がより鮮明になっていくと考えられる」と話しています。

再開発相次ぐ 背景に「Rapidus」

札幌市中心部で再開発が相次いでいることを背景に、周辺自治体でも住宅を購入する動きが強まっています。

とりわけ千歳市では、先端半導体の国産化を目指す「Rapidus」の工場建設が決まり、今後、住宅需要が急速に高まると見られています。

千歳市は、新千歳空港が立地していることや道内最大の貿易港がある苫小牧市と隣接していることをいかした企業誘致を進めていて、人口が増加傾向となっています。

市内で最も高いJR千歳駅前の「路線価」を見ますと、ことしは1平方メートルあたり8万2000円と、去年と比べて18.8%、5年前と比べると1.8倍あまりに上昇しました。

さらに、先端半導体の国産化を目指して日本の主要企業が共同出資した「Rapidus」が市内に工場を建設することを決めているため、住宅需要は急速に高まると見られています。

千歳市内に店舗がある不動産会社では、「Rapidus」の工場建設が正式に表明されたことし2月以降、建設工事を請け負う企業などから「作業員用の住宅を確保したい」といった問い合わせが相次いで寄せられていて、すでに200人分の規模で住宅を探す動きが出ているということです。

問い合わせが多く寄せられているのは、主にJR千歳駅から徒歩10分程度の1LDKのマンションやアパートで、家賃は月5万円から6万円程度。

需要が高く、空室が出るとすぐに次の契約者が決まる状態が続いています。

特に新築や築年数が浅い物件の家賃相場は徐々に値上がりし、札幌市中心部に迫る勢いだということです。

不動産会社の「常口アトム千歳支店」の大橋一弘支店長は「通勤のため、千歳駅からの距離を重視している企業が多く、駅に近い物件は次々と埋まっている。マンションやアパートの新築工事も行われているが、駅周辺は土地が少なく住宅の供給数は少なくなっている状況で、『Rapidus』の工場建設に伴って住宅需要がさらに増えると期待している」と話しています。

住宅需要の高まりを受けて、千歳市は市有地をハウスメーカーなどに売却し、住宅用地を増やす取り組みを進めてきました。

2019年から去年までにあわせて300区画分に相当する市有地を売却してきましたが、「Rapidus」の進出によってさらに住宅が不足する可能性があることから、今後も市有地の売却を進め住宅用地の確保を進める方針です。

千歳市の森谷淳二まちづくり推進課長は「使われていない土地の活用や市街地を拡大することで、住宅の供給を増やしていく検討をしなければならない。人口増加に伴って住宅需要がさらに増えるので迅速に対応していきたい」と話しています。

【去年を下回った県】

一方、去年を下回ったのは20県でした。

去年は前の年から下落したのが27県だったため、7つ減りました。

<東北>
▽青森 ▲0.3%

<関東甲信越>
▽群馬 ▲0.7%
▽新潟と山梨 いずれも▲0.6%
▽栃木 ▲0.1%

<東海・北陸>
▽福井 ▲1%
▽岐阜 ▲0.5%
▽三重 ▲0.4%
▽静岡 ▲0.3%
▽富山 ▲0.1%

<関西>
▽和歌山 ▲1.2%、
▽奈良 ▲0.2%

<中国地方>
▽鳥取 ▲0.3%
▽島根 ▲0.2%

<四国>
4県すべてで下落
▽愛媛 ▲0.9%
▽徳島 ▲0.7%
▽香川 ▲0.6%
▽高知 ▲0.3%

<九州>
▽宮崎と鹿児島 いずれも▲0.2%

下落率の▽1位は和歌山、▽2位が福井、▽3位が愛媛でした。

【横ばいの県】

▽長野と▽滋賀は、いずれも去年から変動がありませんでした。

専門家の見方は

こうした状況について専門家はどう見るのか。
不動産市況に詳しいニッセイ基礎研究所の吉田資主任研究員に聞きました。

Q.ことしの傾向は?

A.コロナ禍の行動制限が撤廃され、観光客も戻り、それに伴って百貨店の売り上げなどもかなり回復してきています。

こうした状況を背景に、商業地については堅調に回復している印象です。

また、外国人観光客がかなり戻ってきているので、観光地も伸びています。

東京の浅草(雷門通り:去年は前年比1.1%上昇、ことしは前年比7%上昇)は大幅に伸びましたし、神戸の三宮(三宮センター街:去年は5.8%の下落、ことしは2%の上昇)など去年は下落だったのがプラスに転じたところは、観光客の増加が影響していると思います。

一方で東京のオフィス街などは上げ幅が小さく、回復基調に差が生じている傾向がみられます。

Q.なぜオフィス街などは上げ幅が小さくなったのか?

A.オフィスビルを中心に空室が増えていて、それに伴って賃料も下がっていることが影響していると思います。

供給自体がとても多かったこともありますが、別の要因として、在宅勤務やリモートワークの普及があげられます。

出社せずに働くことが定着し、家賃が高い都心にオフィスを設けなくてもいいのではないかと、企業の中にはオフィスのあり方を見直したり、拠点を集約・統合したりする動きが出ていて、空室が増えているんです。

“商業地や観光地は回復基調継続か 都心のオフィス街は注視を”

コロナ禍からの回復ということで、商業地や観光客がたくさん訪れるようなところはこれからも回復基調が続くと思いますが、働き方の変化によってオフィスの使い方も変わってきていて、都心部ではまだ空室が増えたり、賃料が下がったりする懸念もあります。

こうしたエリアは引き続き注視する必要があると思います。