イニエスタ「また会いましょう」 ヴィッセル神戸で最後の試合

サッカーの元スペイン代表で、J1のヴィッセル神戸でおよそ5年間プレーしたアンドレス・イニエスタ選手が1日、ヴィッセルで最後の試合に出場し、試合後のセレモニーではサポーターやチームメートに感謝を伝えました。

2018年に加入し、ヴィッセルで5年間プレーしたイニエスタ選手は1日夜に行われた北海道コンサドーレ札幌とのリーグ戦を最後に退団することが決まっていて、ヴィッセルのホーム、ノエビアスタジアム神戸でのホームゲームでは史上最多となる2万7630人のサポーターが訪れました。

イニエスタ選手は今シーズン初めて先発出場して積極的に攻撃を組み立て、前半36分にはペナルティエリア内をみずからドリブルで突破してシュートを打って相手ゴールに迫りました。

イニエスタ選手は得点に絡むことこそありませんでしたが、後半12分までプレーし、交代の際に深くおじぎをしてからピッチをあとにするとサポーターから大きな拍手で見送られました。

試合後にはセレモニーが行われ、イニエスタ選手はサポーターやチームメートに向けて、「5年前に日本に来たときはこの旅がこれほど美しいものになるとは想像もしていなかった。すべては皆さんが示してくれたリスペクトや愛情のおかげです」とあいさつしました。

そのうえで、「お別れを言う日が来たが、自分は『サヨナラ』ということばが好きではない。また必ず帰ってくるので、『また会いましょう』を最後のことばにしたいと思います」と話しました。

その後、サポーターに向けて手をふりながらゆっくりとグラウンドを1周し、最後はホームのサポーターの応援席まで足を運んで、直接ことばを交わすなどしていました。

イニエスタ「誇りと達成感」

イニエスタ選手は試合後の会見で、「神戸に来て心がけてきたことは常に最大限の努力で貢献することと、このクラブにもこの街にもリスペクトを持って向き合うことでした。自分のことを誇りに思ってくれていたり、自分がきっかけでサッカーに興味が芽生えたりした人が多くいることは、自分がここでやってきたことが間違いなかった証明にもなるのですごく大きいことです」と話しました。

そのうえで、「試合のパフォーマンスに関して言えばもっとできたと思いますが、現実としてチームに絡んでいない中で最大限の貢献をできるように出し尽くしました。きょう何をしたということよりは、ここまでやってきたことに関する誇りと達成感を持っています」と充実した表情で話していました。

ノエビアスタジアム神戸の入場者数 史上最多に

ヴィッセル神戸のアンドレス・イニエスタ選手の退団前、最後の試合として大きな注目を集めたこの試合の入場者数は2万7630人と発表されました。

クラブによりますと、これはノエビアスタジアム神戸で行われたヴィッセルのホームゲームとしては、イニエスタ選手が加入1年目だった2018年11月10日のサガン鳥栖戦の2万6603人を上回り、史上最多だということです。

この試合はイニエスタ選手とともにスペイン代表で活躍したフェルナンド・トーレス選手との対決が話題になりました。

野々村チェアマン「大きな役割を果たしてくれた」

Jリーグの野々村芳和チェアマンは、イニエスタ選手のヴィッセル神戸での最後の試合が行われる神戸市のスタジアムを訪れ、「イニエスタ選手がJリーグに来てくれたことで一緒にやった選手たちは大きな刺激を受けたと思うし、スペインの人たちだけでなく、多くの国の人たちが彼の存在を通じてJリーグの情報を得る機会を作ってくれたりと本当に大きな役割を果たしてくれたと思う」と感謝の思いを話しました。

そのうえで、「イニエスタ選手と日本のつながりは、たぶんこれで終わりではないと思うし、これからJリーグと彼との間でどんな関係を持っていけるか、互いにいろんなチャレンジをしていければいいと思う」と話しました。

日本での成績

イニエスタ選手は2018年のシーズン途中に来日し、日本でおよそ5年間プレーしました。シーズンごとのリーグ戦での個人成績と主要なカップ戦のタイトル、そして、その足跡を振り返ります。

ヴィッセル神戸に電撃加入(2018年)

【2018年シーズン】
J1 14試合3得点
イニエスタ選手のJリーグ初出場は2018年7月22日、湘南ベルマーレとの試合でした。8月11日に行われたジュビロ磐田との試合ではゴール前で体を反転させながらトラップして相手のゴールキーパーをかわし、衝撃的なJリーグ初ゴールを決めるなどスペイン時代と変わらぬ、ぬきんでたプレーで日本のファンをわかせました。

【2019年シーズン】
J1 23試合6得点 天皇杯優勝
このシーズンの途中からチームのキャプテンとなったイニエスタ選手は途中けがでの離脱があったもののリーグ戦で確かな存在感を示し、ベストイレブンに選出されました。また天皇杯で優勝し、クラブにはじめてのタイトルをもたらしました。

【2020年シーズン】
J1 26試合4得点 ACLベスト4
前のシーズンの天皇杯優勝でクラブとしてはじめてACL=アジア・チャンピオンズリーグに出場したこの年、イニエスタ選手は開幕からチームの中心として大車輪の活躍を見せました。しかし、ACLの準々決勝でペナルティーキックを蹴った際に右足に大きなけがを負い、長いリハビリの日々を送ることになりました。

【2021年シーズン】
J1 23試合6得点
ACLでのけがのあと、車いすでの生活を強いられましたが、オフの期間を含めて長いリハビリを乗り越えて5月に復帰し、その直後にヴィッセルとの契約を2年間延長しました。徐々に調子を上げると、10月には月間3得点をマークするなどしてチームをけん引して過去最高の3位に押し上げ、プレーオフからながら翌年再びアジアの舞台に挑戦する権利を得ました。

【2022年シーズン】
J1 24試合2得点 ACLベスト8
2022年シーズンはイニエスタ選手にとって苦難の年になりました。イニエスタ選手をはじめ主力選手にけが人が相次いで、チームは開幕から低迷しました。シーズン後半に、この1年で3度目の監督交代で吉田孝行監督が就任して以降は、最大の目標に掲げていたACLの準々決勝でも控えに回るなど大きく出番を減らしました。

【2023年シーズン】
J1 3試合0得点(※6月30日時点)
今シーズンも吉田監督のもと、攻撃の選手にも守備で激しいプレーが求められるサッカーで、チームが首位を走るなかでイニエスタ選手は控えに回る試合が続きました。出場機会を求めるイニエスタ選手とチームの間で話し合いが続けられた末、7月1日の試合をもって退団することが決まりました。

酒井高徳「チームを引っ張る姿は本当にプロ」

イニエスタ選手とおよそ4年間ともにプレーした酒井高徳選手は「きょうの試合でサポーターが示したように、イニエスタ選手がチームにもたらしたものは非常に大きい。プレーや気持ちの面で自分ができることをしてチームを引っ張っていく姿は本当にプロフェッショナルだと感じた。アンドレスを通して選手として人としてどうあるべきかということを学んだので、今後のサッカー人生に生かしたい」と話していました。

山口蛍「一緒にプレーした時間は一生忘れない」

イニエスタ選手と同じ中盤で5シーズンともにプレーした山口蛍選手は「アンドレスを見ていると、僕たちには難しいサッカーが簡単に見えてしまうこともあった。勝ちにこだわる、勝負に徹する気持ちをチームに植え付けてくれたし、一緒にプレーした時間は一生忘れることはないと思う」と話していました。

吉田孝行監督「リスペクト持って先発起用した」

吉田孝行監督は試合後の会見で、「ほかの監督もメンバーを選ぶときは悩むと思うが、イニエスタ選手はずっとスーパースターで、彼にしかわからないつらさもあったと思うし、自分自身も『起用しない』と決断をする難しさはずっと感じていた」と、チーム作りの課程でイニエスタ選手を中心選手として起用しないと決めた苦悩を明かしました。

そのうえで、「きょうは彼へのリスペクトを持って先発起用したし、彼自身いろいろな思いがありながら出ていたと思うが、最後にホームのサポーターの前でプレーを見せられてよかったと思う」と話していました。