中国 改正「反スパイ法」が1日施行 取締りの強化に懸念

中国の習近平指導部が国家の安全を重視する方針を示すなか、スパイ行為を取り締まる改正「反スパイ法」が1日、施行されます。あいまいだと指摘されているスパイ行為の定義が拡大され、取締りのさらなる強化が懸念されています。

中国で2014年に制定された「反スパイ法」は、スパイ行為の取締り強化を目的にした法律で、国家の安全を重視する習近平指導部のもと、ことし4月に法改正が行われ、1日施行されます。

「反スパイ法」をめぐっては、スパイ行為の定義についてあいまいだと指摘され、国際社会からは法律が恣意(しい)的に運用されるおそれがあると懸念が示されていました。

今回、改正された法律ではこれまでの「国家の秘密や情報」に加えて「国家の安全と利益に関わる文書やデータ、資料や物品」を盗み取ったり提供したりする行為が新たに取締りの対象になるなど、スパイ行為の定義が拡大されました。

中国では2014年に法律が施行されたあと、日本人がスパイ行為に関わったなどとして拘束されるケースが相次いでいます。

また、ことし5月には、中国でスパイ行為などを取り締まる国家安全当局が、米中両国に拠点を持つコンサルティング会社について、国家のデータを違法に取得したとして捜査を行ったと伝えられるなどしていて、今回の改正をきっかけに外国人や外国企業などへの取締りのさらなる強化が懸念されています。

改正「反スパイ法」とは

中国の「反スパイ法」はスパイ行為の取締り強化を目的に2014年に施行され、国家の安全を重視する習近平指導部のもと、ことし4月、初めて改正されました。

改正された法律ではこれまでの「国家の秘密や情報」に加えて「国家の安全と利益に関わる文書やデータ、資料や物品」を盗み取ったり提供したりする行為が新たに取締りの対象になるなどスパイ行為の定義が拡大されました。

また「国家機関や重要な情報インフラへのサイバー攻撃や侵入、破壊といった活動」のほか「国家の安全に危害を及ぼす行為」や「スパイ組織への参加」「その他のスパイ活動」などもスパイ行為として定義されています。

このほか、中国国内で第三国に対してスパイ活動を行っても、中国の国家の安全に危害を及ぼすとみなせば「反スパイ法」を適用するとしています。

改正された法律では、いかなる中国の国民や組織も、スパイ活動を見つけたら速やかに国家安全当局に通報しなければならないとしています。

さらにスパイ行為の疑いのある者の出国や、国家の安全に危害を及ぼす活動を行う可能性のある外国人の入国を認めないとしています。

スパイ行為で国家の安全を脅かしたとされた場合、中国の刑法に基づいて処罰されるとしていて最高刑は死刑となっています。

スパイ行為などで日本人17人拘束

中国では、2014年に「反スパイ法」が施行されて以降、日本人がスパイ行為に関わったなどとして当局に拘束されるケースが相次いでいて、日本政府関係者によりますと、30日までに少なくとも17人が拘束されているということです。

このうち、9人が中国の裁判で実刑判決となり服役しましたが、裁判は非公開で、中国側はどのような行為が法律に違反したのか具体的に明らかにしていません。

17人のうち、これまでに11人が拘束後に解放されたり刑期を満了したりして帰国したほか、1人が服役中に病気で亡くなりました。

現在も拘束されたり、服役したりして5人が帰国できていません。

このうち、ことし3月には、大手製薬会社のアステラス製薬の日本人駐在員の男性がスパイ活動に関わった疑いがあるとして首都 北京で拘束され、日本政府は男性の拘束に対して、抗議するとともに早期解放を強く申し入れています。

中国に駐在員置く企業など 警戒感高まる

中国の改正「反スパイ法」について、中国に駐在員を置く企業などからは、駐在員らへの取締りが一層強化されるのではないかと、警戒感が高まっています。

海外駐在員の安全対策について、企業へのアドバイスを行っている東京のコンサルティング会社では、このところ中国に駐在員を置く企業などから、改正「反スパイ法」に関する問い合わせや相談が相次いで寄せられているといいます。

具体的には、「駐在員や出張者にどのように注意を呼びかければよいか」とか「中国への出張を中止したり、駐在員を減らしたりすべきか」といった問い合わせが寄せられたということで、ことし3月に大手製薬会社の駐在員が中国当局に拘束されたあとから数多く寄せられているということです。

これに対し、このコンサルティング会社では、日本政府が作成している「安全の手引き」に基づいて注意を呼びかけているといいます。

手引きでは、「中国当局が日本人を拘束する場合、いかなる行為が規制されるかなど、スパイ行為の定義が明らかにされていない」と指摘したうえで、軍事施設や国境管理の施設などを撮影したり、許可をえないまま宗教活動を行ったりすると、拘束される可能性があると指摘しています。

さらに、外国人による集会の開催は強く警戒されているほか、携帯電話やパソコンなどの通信機器は、盗聴される可能性もあることを意識して利用するよう呼びかけています。

「安全サポート」の有坂錬成社長は「多くの企業が戸惑っていて、不安感は非常に大きい。何をしたら法律に違反するのかよくわからないが、中国で働く一人一人が発言などに気をつけていかなければいけないと、改めて注意喚起していく必要がある」と話しています。

日系企業の担当者からは懸念や不安の声

中国で改正「反スパイ法」が施行された7月1日、首都 北京の空港を利用する日系企業の担当者からは、懸念や不安の声が聞かれました。

このうち、北京に駐在している男性は「具体的にどういうことをすれば反スパイ法違反になるのか基準が不明確なので対策が練りにくい。社員にどう教育していくのかを考えなければならない」と話していました。

出張で中国を訪れていた男性は「会社から反スパイ法に注意するよう、きのう連絡があったが、節度ある行動をしていれば大丈夫だと思っている。ただ、帰国できなくなったら大変だし、会社に迷惑をかけるので気をつけなければならない」と話していました。

また、出張で中国を訪れていた別の男性は「中国への出張は、緊張感がほかの国より大きい。仕事で中国とつきあっていかなければならないところもあるので、うまくやっていくしかない」と話していました。