滝山病院 根拠不明瞭な診断で薬を投与か 国も実態把握へ

虐待事件が起きた東京 八王子市にある精神科の「滝山病院」で、根拠が不明瞭な診断がされ、副作用のおそれのある薬が投与された可能性があるという指摘を受け、加藤厚生労働大臣は個別事案への言及は控えるとしつつ「不適切な医療の疑いに関しては事実関係を確認した上で厳正に対応する」と述べ、東京都などと連携して実態把握を進める考えを示しました。

東京 八王子市にある精神科病院「滝山病院」では、入院患者を暴行したとして看護師ら5人が逮捕や書類送検されていますが、発覚後、患者の家族などから治療についても疑念を訴える声が寄せられています。

このため、NHKが家族の協力のもと患者10人のカルテを入手し、複数の専門医に分析を依頼したところ、カルテ上5人の患者について根拠となる異常が認められないまま「急性心筋梗塞」と診断され、副作用のおそれがある薬が投与された可能性があると指摘されています。

これについて、30日の閣議後の会見で問われた加藤厚生労働大臣は、個別事案については差し控えるとした上で「不適切な医療の疑いに関しては地方厚生局が調査を行い情報を収集して指導監査し、事実関係の確認を行った上で厳正に対応することになっている。厚生労働省としては東京都などと連携して適切に対応していきたい」と述べ、都などとともに実態把握を進める考えを示しました。

今回の指摘について、滝山病院は「現段階で個別の患者に関する情報を発信する予定はありません」と回答しています。

分析の医師「命に関わる副作用が出る可能性もあった」

NHKの依頼で分析を行った複数の専門医からは、カルテ上の「急性心筋梗塞」との診断に基づき、脳出血など副作用のおそれがある薬が投与されていると指摘しています。

その1人で日本循環器学会のガイドライン策定にも携わった三井記念病院循環器内科部長の田邉健吾医師は「患者の症状や状況をみていたわけではないので、今残っている結果からという制限はあるが、心電図も採血結果も根拠となる異常がないのに急性心筋梗塞と判断してしまっており問題だ。治療に関しても、リスクの高い薬が投与され、命に関わる副作用が出る可能性もあった」と指摘しています。

4年前に滝山病院で亡くなった女性の姉は

カルテを分析した1人で、4年前に滝山病院で亡くなった女性の姉は、当時の対応から病院の治療に不信感を持ったと言います。

50代で亡くなった女性は、統合失調症があり糖尿病で人工透析が必要だったことから、滝山病院を紹介され2年半の間、入院していました。

しかし女性が死亡した際、姉は葬儀業者から「傷んでいるので」と遺体を見せてもらえず、医師からも死因の説明がなかったことから不信感を抱き、カルテをすべて取り寄せました。

今回、カルテを分析した医師たちによりますと、女性の結果からは心電図の波形や血液検査の値などに根拠となる異常がみられないにもかかわらず「急性心筋梗塞」と診断され、薬が投与されていたといいます。

女性の姉は「病院から『心筋梗塞』という話は聞いたことはなく、病状や死因の説明も何もありませんでした。私にとってはたった1人の妹です。そういう扱いをされるのはどうなのか。人として最低限尊ばれるべきじゃないかと思います」と話しました。

滝山病院で治療にかかわってきた医療スタッフが内情証言

医療スタッフはNHKの取材に対し「1ーBと呼ばれる体の状態が悪くなった患者が移される病棟では、多くの患者に『心筋梗塞』の診断をしほとんど同じ治療をしている状況だった。心電図検査と採血だけでエコー検査はせずに判断して、薬剤をずっと使うような治療が続く。スタッフもみんな疑問に思っているが、また心筋梗塞にして同じ治療するんでしょうと、自然と慣れてしまう」と証言しました。

その上で「薬を入れすぎて体中いろんな管が入るため感染を起こせば抗生剤を使うなど、体の中にたくさんの水が入るので最後はみんなむくんで亡くなっていく。ああいう治療を自分の家族にしてほしいとは思えない状況だった」と話していました。