ワグネル武装反乱 ロシア軍最高幹部が事前に計画を把握か

ロシアの民間軍事会社ワグネルの代表プリゴジン氏が起こした武装反乱について、ロシア軍の最高幹部の1人が事前に計画を把握し、プリゴジン氏側に付いたなどと伝えられ、この幹部が拘束されたのかなど消息に関心が高まっています。こうした報道についてロシア大統領府は、コメントを避けました。

ロシアの民間軍事会社ワグネルの代表、プリゴジン氏が起こした武装反乱を巡って、27日付けのアメリカの有力紙ニューヨーク・タイムズは、複数のアメリカ政府高官の話として、ウクライナ侵攻を続けるロシア軍のスロビキン副司令官が、ワグネルによる武装反乱について、事前に計画を把握していたなどと伝えました。

さらに28日、ロシアの英字紙「モスクワ・タイムズ」は、ロシア国防省の情報筋の話として「スロビキン氏は、プリゴジン氏側に付いたためすでに拘束されている」とする見方を伝えたほか、イギリスの経済紙、フィナンシャル・タイムズも29日、複数の関係者の話として「スロビキン氏は数日間、連絡が取れない状況であり、拘束されている」と報じました。

政権に批判的なロシアの著名なジャーナリストはSNSで「スロビキン氏はこの3日間、家族と連絡がとれていない」と投稿しています。

スロビキン氏の拘束が伝えられたことについて、ロシア大統領府のペスコフ報道官は29日、記者団に対し「国防省に問い合わせてほしい」としてコメントを避けました。

アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は一連の報道を受けて28日「クレムリンは、忠誠心がないと見なした人物は、粛清する意図だということを示唆している」と分析し、ロシア軍の最高幹部の1人でプリゴジン氏とも近かったとされるスロビキン氏の消息に関心が高まっています。

一方、プリゴジン氏について、ロシアの独立系メディアなどは、航空機の追跡サイトの情報をもとにプリゴジン氏が所有するプライベートジェット機がベラルーシから、ロシア第2の都市サンクトペテルブルクを行き来していると伝えました。

サンクトペテルブルクは、ワグネルのオフィスビルもある拠点で「戦争研究所」は「プリゴジン氏が一時的にロシアに帰国した可能性がある」と指摘するなど、引き続きプリゴジン氏の動向も焦点です。

スロビキン氏とは

セルゲイ・スロビキン氏(56)は、去年10月、ロシアによるウクライナ侵攻の軍事作戦の総司令官に任命され、指揮にあたるなど、ロシア軍の最高幹部の1人です。ことし1月、ゲラシモフ参謀総長が総司令官に任命されたことにともない、スロビキン氏は副司令官として作戦を支えてきました。

スロビキン氏は1983年、当時のソビエト軍に入隊後、軍人としてのキャリアを積みあげ、2017年にはシリア内戦に介入したロシア軍の指揮を執りました。厳格で冷徹な指揮官として知られるほか、プーチン大統領からの信頼も厚いとされています。

一方、スロビキン氏は、民間軍事会社ワグネルの代表、プリゴジン氏と関係が近いとされてきました。プリゴジン氏は、スロビキン氏について去年10月、SNSで「彼のことをよく知っている。ロシア軍で最も有能な指揮官だ」と評価するなど、信頼しているという考えを示していました。

またプリゴジン氏が弾薬が不足していると国防省を強く非難していた5月には「ワグネルと国防省とのやりとりにおいて、すべての決定を下すのはスロビキン氏になった」と述べ、スロビキン氏はプリゴジン氏との橋渡し役を担っていた可能性があります。

こうした中、プリゴジン氏が武装反乱を呼びかけた直後の6月24日、スロビキン氏はSNSで「ロシア大統領の意志と命令に従え。元の場所に戻れ」と述べ、ワグネルの戦闘員に反乱に加わらないよう呼びかけ、事態の収拾を図ろうとしました。

その後、スロビキン氏の動静は明らかになっておらず、スロビキン氏が武装反乱について、事前に計画を把握していたとも伝えられるなかで、その消息に関心が高まっています。

専門家「軍の中や政権内部に対立構図が潜んでいた可能性」

防衛省防衛研究所の兵頭慎治研究幹事は、ロシア軍のスロビキン副司令官が拘束されたという見方があることについて、「拘束されたのであれば、プリゴジン氏の武装反乱に何らかの形で関与していて、ロシア軍や治安当局の関係者もプリゴジン氏に協力していた可能性が出てきたことになる」と指摘しました。

また、スロビキン氏が反乱を知ったうえで黙認していたのか何らかの手助けをしていたのかが焦点だとしたうえで、「もともとこの反乱はプリゴジン氏とロシア国防省や軍との対立に見られていたが、実は軍の内部でも、ワグネル派と呼ばれる人たちがいて、軍の中や政権内部に対立の構図が根深く潜んでいた可能性がある」と指摘しました。

そして、「プーチン大統領の絶対的な統率力や政治力にかげりがあるのではないかということを印象づける出来事だ。軍や政権内の亀裂が今後どれほど拡大していくのかなどを注視する必要がある」と指摘しました。

またスロビキン氏が拘束された場合、戦況に与える影響については「スロビキン氏はウクライナへの軍事作戦を率いているナンバー2の人物なので、ロシア側の指揮統制に否定的な影響が及び、ロシア軍内部の混乱や士気の低下が生じる可能性もあるのではないか」と話していました。