【専門家解説】ロシア情勢 プリゴジン氏とワグネルの今後は…

武装反乱を起こした民間軍事会社ワグネルの代表プリゴジン氏。ロシア国内で武装反乱を起こしたあと一転して部隊を撤収し、その後の消息が途絶えていましたが27日、隣国のベラルーシにいると伝えられました。

プリゴジン氏と、ベラルーシのルカシェンコ大統領との間でかわされたとする“やりとりの内容”が出てきました。そこから見えてくるワグネル、そして、プリゴジン氏の今後について掘り下げます。

※6月28日「NHKニュースウオッチ9」で放送
※動画は10分09秒 データ放送ではご覧になれません

「プリゴジン氏はベラルーシにいる」

ワグネルの代表・プリゴジン氏。今の居場所について、本人の言及はありませんが、ベラルーシのルカシェンコ大統領はプリゴジン氏がベラルーシにいることを明らかにしました。

24日に武装反乱を起こした、プリゴジン氏が率いるワグネル。その反乱が収まるまでの間にプリゴジン氏との間でどんな協議があったのか、その内容だとするやりとりを明らかにしました。

24日の午前10時10分。ルカシェンコ大統領はプーチン大統領と電話で協議したといいます。

(ルカシェンコ大統領)
「プーチン大統領に『急がないように』と提案した。彼は『むだだ。彼は電話にさえ出ない』と答えた」。

そして、プリゴジン氏の連絡先を入手。午前11時ごろから、電話による協議が始まったといいます。

(ルカシェンコ大統領)
「最初の協議は30分ほど。ほとんど汚いことばで話した。普通のことばの10倍、汚いことばを使った」。

プリゴジン氏に、「望みは何か」と問うと

(プリゴジン氏)
「ショイグ(国防相)とゲラシモフ(参謀総長)を引き渡せ。プーチン(大統領)にも会う必要がある」。

ルカシェンコ大統領はどれも受け入れられることはないだろうと伝えたといいます。

すると…。

(プリゴジン氏)
「正義を望んでいる。彼らはわれわれを絞め殺そうとしている。モスクワに向け行進する」。

(ルカシェンコ大統領)
「モスクワに行く途中で虫けらのように潰される」。

ルカシェンコ大統領は部隊を進めることをやめるよう促したということです。電話でのやりとりは、断続的に複数回にわたって行われたといいます。プリゴジン氏について、こうも言及しました。

(ルカシェンコ大統領)
「彼はショイグ国防相と似ていると付け加えたい。彼らの性格は同じで衝動的だ」。

なぜルカシェンコ大統領が仲介に入ったのか

3年間、在ベラルーシ日本大使館で専門調査員として在籍していた北海道大学の服部倫卓 教授は次のように言います。

(服部倫卓 教授)
「ルカシェンコ大統領とプリゴジン氏は、以前から面識程度はあったが特に親しいとか太いパイプがあるとかそういうことではなかった」。

その上で、プリゴジン大統領との協議は、ロシアに貸しを作るチャンスだと考えたのではないかと指摘します。

(服部倫卓 教授)
「(ルカシェンコ大統領は)プーチンの力を借りてかろうじて自分のベラルーシにおける権力を守ってきたわけですよね。救いの手を差し伸べることによってより対等なプーチンとの関係を取り戻したいと、そのための得点を挙げるチャンスであるというようなことをおそらく敏感にかぎとったのではないでしょうか」。

ベラルーシとロシア“軍事的協力関係深まる”

ベラルーシは旧ソビエトの崩壊に伴い独立。隣国ロシアとは同盟関係にあります。29年にわたって大統領の地位にあるルカシェンコ大統領。3年前の大統領選挙では、不正があったとして辞任を求める抗議活動が広がりましたが、この際、プーチン大統領が大規模な経済支援などを行い、窮地から救う形となりました。

ベラルーシは、ウクライナへの軍事侵攻には直接参加していないものの、一貫して支持しています。

6月16日には、プーチン大統領が戦術核兵器をベラルーシに搬入したことを明らかにしていました。

これについて、ルカシェンコ大統領は、27日。
「核兵器の大部分はベラルーシに持ち込まれた。ワグネルは核兵器を守ることはない。これはわれわれの任務だ」と述べ、ワグネルがベラルーシで活動しても、核兵器に関わる任務につくことはないと強調しました。

ワグネルの部隊 今後は

そしてルカシェンコ大統領は、ワグネルの部隊の今後について、部隊に宿営地を提供する考えを示したとされています。

(ルカシェンコ大統領)
「もし(ワグネルの)経験のある指揮官たちがわれわれのところに来るなら、前線にいた彼らはいま何が重要かを教えてくれるだろう」。

ロシアの独立系メディアはすでにベラルーシ国内に複数の宿営地が建設されていると伝えています。

服部倫卓 教授は、今後のベラルーシ国内でのワグネルについて、大人数の受け入れは難しいのではないかと指摘します。

(服部倫卓 教授)
「これまでのルカシェンコの権力哲学からすると、ああいうものを国内に置くことはありえない。ルカシェンコはとにかく誰かが反乱起こさないように、軍や治安機関が台頭しないよう慎重に人事のローテーションをやったりして、自分の権力をとにかく守ってきた人物です。そういうルカシェンコからすると、もろに異物を自分の国の中に抱え込むということは極めてリスクが大きいということは明白だと思う」。

今後のベラルーシとロシアの関係は

(服部倫卓 教授)
「一時的にはかなり大きな貸しをつくりましたよね。今回のルカシェンコの説明を聞いていても、完全にプーチンにマウントとっているかのようなプーチンのろうばいぶりまで表現するような形で明らかにしていますので、ルカシェンコ側にとってみれば今回一つロシア側に対してちょっとした勝利を挙げた形ですけど、今回の1つのことを持って力関係が完全に変わってしまうとかそこまではないかと思います」。

一方のロシア側。

(プーチン大統領)
「唯一(撤退という)正しい決断を下したワグネルの兵士たちに感謝する」。

がワグネルの兵士への「感謝」を口にしたうえ…。

ロシアの治安機関FSB=連邦保安庁も、プリゴジン氏に対して進めていた捜査を打ち切ったと明らかにしました。

しかし、その一方、プーチン大統領はワグネル戦闘員の給与や報奨金などについて

「費用は全額、国家予算から支払われていた」と発言。

さらに、プリゴジン氏が経営する企業グループを通じた軍との事業で、日本円にして年間1350億円を国が支払っていたと指摘。

この使いみちを調査する考えを明らかにしたのです。

こうした発言の背景、ロシアの有力紙「コメルサント」は、「いまや『国民対億万長者プリゴジン氏』となった」と伝え、プーチン大統領が、プリゴジン氏に対する世論を否定的なものに変えようとしていると示唆しています。

ロシアの安全保障に詳しい防衛省防衛研究所の兵頭慎治研究研究幹事は次のように言います。

「ワグネルというのはよう兵組織でもある。よう兵はロシア国内では非合法。ワグネルの資金源が国家予算であった、つまり国庫から支給されていたんだという発言は、異例中の異例の発言だと思います」「場合によってはワグネルに対する国家予算の支出がなくなっていく可能性を示唆するものであるし、プリゴジン氏本人が新たな罪に問われる可能性もある。いずれにしてもワグネルの影響力をなんとかロシア国内では低下させようという、プーチン大統領の強い意志が感じられます」。

ベラルーシの大統領の思惑に関心が集まっています。そのルカシェンコ大統領、プリゴジン氏とワグネルというカードを使って「兄貴」分のロシアのプーチン大統領と巧みに駆け引きを行っているようにも見えます。