時速100キロ近くか 死亡ひき逃げ1年 逃走続く そのとき現場は

全国に指名手配されている26歳の容疑者。1年もの間、逃走を続けています。

警察は、容疑者の動画をSNSで投稿して情報提供を呼びかけています。総力を挙げた捜査を展開していますが、逮捕に至らないまま1年がたちました。

1年前、大分県別府市で当時19歳だった大学生が命を落としたひき逃げ事件。警察は、容疑者が時速100キロ近いスピードで意図的に追突した疑いもあるとみています。

現場で何が起き、容疑者はどこに逃走したのでしょうか。

(事件に関する情報の提供先は別府警察署、電話番号は0977ー21ー2131です)

逃走を続けたまま1年

全国に指名手配されている、八田與一容疑者(26)です。

身長がおよそ175センチで中肉。都内の大学を卒業したあと、栃木県日光市で生活し、おととし4月に大分県に移り住んで日出町で働いていたということです。

警察は公式ツイッターも活用

大分県警察本部は目撃情報を集めるため、容疑者の動画を公式ツイッターで投稿しています。

容疑者の友人が去年3月から5月に大分県内で撮影した動画には、事件当日に着ていたとみられる黒のTシャツ姿で自転車を押しながら街なかを歩く様子や、公園のような場所で飲み物を飲む様子が映っています。

また、海辺で笑顔を見せながら「いいね、きれいね、沖縄みたいね」などと友人と会話する様子が映っていて、容疑者の表情や声の特徴も分かります。

大分県警の公式ツイッターはイベントや防犯情報などを主に発信しているもので、これまで事件の容疑者の顔写真や動画などを投稿したことはありませんでした。

警察幹部「逮捕に至らず非常に悔しい」

事件から1年となる29日、大分県別府市のJR別府駅前では、警察官がチラシを配って、容疑者の目撃情報の提供を呼びかけました。

県警察本部交通指導課の安藤竜夫次席は「容疑者の逮捕に至っていないのは非常に悔しく、ご遺族には申し訳なく思っている。県警をあげて捜査に全力を尽くしたい」と話していました。

1年前の死亡ひき逃げ事件

事件が起きたのは去年6月29日の午後7時45分ごろでした。

JR別府駅から西に1キロほど離れた別府市野口原の県道の交差点で、いずれもバイクに乗って信号待ちをしていた大学生2人が後ろから走ってきた軽自動車に次々とはねられました。

その衝撃で大学生2人が乗っていたバイクはいずれも数十メートル先まで飛ばされ、このうち原付きバイクに乗っていた当時19歳の大学生が死亡。知人でオートバイに乗っていた大学生は腰などに軽いけがをしました。

警察官が駆けつけたところ、現場の交差点の脇の電柱に軽自動車が衝突した状態で乗り捨てられていました。

車内に残された財布や携帯電話、それに指紋などから車を運転していたのは八田與一容疑者(26)と特定されました。

追突された男性「殺そうとしているスピード」

事件で亡くなった大学生とともに車にはねられてけがをした男性が28日、NHKの取材に応じました。

事件当日、2人は由布市にツーリングに出かけたあと、事件現場の近くにある商業施設に立ち寄っていました。その際、亡くなった大学生が容疑者とみられる男と会話をしていたのを少し離れた場所から見たといいます。

男性は「あとで何の話をしていたのか聞いたら、『大音量で音楽を流していたのでそっちを見た際に何を見ているんだと言いがかりをつけてきたので関わらないようにと思って謝ってからその場から離れた』と言っていました」と当時を振り返りました。

2人はその後、帰宅しようと商業施設を離れ、近くの交差点で信号待ちをしていたところ、事件に遭ったということです。突然、背後から迫り来る恐怖、追突された瞬間の強烈な衝撃はいまも脳裏から離れないと言います。

男性は「容疑者の車はアクセル全開のような異常な音を出していた。バイクのミラーで後ろを見たら車のヘッドライトが一瞬で近くまで迫ってきて死ぬかもしれないと思いました。その時、亡くなった彼と目が合ってその瞬間に突っ込まれました。殺そうとしているスピードだと感じました」と時折、言葉を詰まらせながら話しました。

そして「1年たっても容疑者が逮捕されていないことがとても悔しい。彼は天国に行ってしまったけど彼の分まで生きていこうって心に誓っているので安心して休んでと伝えたいです」と話していました。

時速100キロ近いスピードか 意図的に追突の疑いも

捜査関係者への取材で、当時、容疑者は時速100キロ近くのスピードで車を走らせ、ブレーキをかけずに追突したとみられることが分かりました。

現場にはブレーキ痕がなく、追突する直前の車の様子をとらえた防犯カメラの映像の解析で推定速度が判明したということです。

これまでの捜査で亡くなった大学生は事件の数分前、現場近くで容疑者に呼び止められ、言いがかりをつけられていたことがわかっていて、警察は意図的に追突した疑いもあるとみています。

最重要の未解決事件

大分県警察本部はこの事件を最重要の未解決事件と位置づけ、のべ2万2000人の捜査員を投入しています。

ひき逃げ事件の捜査は通常、交通部を中心に進められますが、今回は殺人や強盗など凶悪事件を担当する刑事部 捜査1課の捜査員も投入されています。

捜査幹部の中には「単なるひき逃げとは考えていない。殺人事件とも言ってもいいほど悪質な事件だ」と話す人もいて、大分県警の総力を挙げた捜査が続けられています。

容疑者の行方は 有力な手がかり見つからず

現場付近の防犯カメラには、事件の直後に黒色の半袖半ズボン姿の容疑者がはだしで路上を走る様子や、交通量の多い片側3車線の国道を強引に横断する様子などがとらえられていました。

その国道の80メートルほど先にある海岸沿いで、捜査員が容疑者が着ていたTシャツを発見しました。詳しく調べたところ、Tシャツに残っていた微物から検出されたDNAの型が容疑者のものと一致したということです。

付近の海中の捜索も行いましたが有力な手がかりは得られなかったということで、警察は逃走の際に脱ぎ捨てたとみています。

しかし、ここからの足取りは分かっていません。

容疑者はどこにいるのか。

これまでに800件を超える情報が寄せられていますが、容疑者の行方につながる有力な手がかりが見つからないまま、事件の発生から1年となりました。

父親「一日も早く出頭して」

最愛の息子を失ってから1年。遺族の日常は戻らないままです。

事件で亡くなった大学生の父親が取材に応じ、「一日も早く容疑者の逮捕を願っていることに全く変わりはありません」と今の心境を話しました。

そして、この1年間を振り返って「あっという間の1年で、いまだに実感も湧かないし、いまだに家に帰ってくる夢をみます。息子は友達思いでみんなに優しくて責任感が強く、将来は海外で起業したいという夢を持っていました。息子でありながら、親友のような存在でした」と苦しい胸の内を打ち明けました。

そのうえで「容疑者には一日も早く出頭して責任をきっちり取ってほしい。そして、1人でも多くの人に容疑者の顔や特徴を覚えていただいて、何かあれば協力していただくということを強く願っています」と事件の早期解決を訴えました。

遺族やその友人などは去年11月、インターネットのサイトを立ち上げて、独自に情報の収集と発信を始めました。去年12月には遺族が事件の解決につながる有力な情報を提供した人に自費で最高500万円の懸賞金を出すことを決めました。

19歳で絶たれた夢

今月16日。事件の発生から1年がたつのを前に現場で花を手向ける男性がいました。亡くなった大学生と高校時代に同じサッカー部に所属し、親交が深かった同級生です。

男性が現場に手向けたのは、13本の白いバラでした。

「バラを選んだのは、彼は華があってかっこいいやつだったからです。そして、13本という数には『永遠の友情』、白いバラには『深い尊敬』という意味があると知ったので、ぴったりだと思いました」

男性は去年からニューヨークの大学に留学していますが、事件が起きたのは渡米する2日前で、「通夜に参列するために渡米を遅らせるか迷いました。でも、彼もニューヨークに行きたいと話していたことを思い出し、彼なら『行ってこい』と言うかなと思い、高校から出す献花の準備だけして、留学に向かいました」と当時を振り返りました。

「海外で活躍する起業家になる」

それが2人の共通の夢でした。

高校を卒業したあとも、互いの大学生活や将来の夢についてよく電話で話していたといいます。

そして、交わした会話を思い出しながら「『今、俺はアメリカの大学で、お前の行きたかったニューヨークで、ビジネスを勉強している。本当だったらお前と向こうで会ったり、話をしたりできたんだろうなと考えたらすごくつらいけど、お前の分までしっかり生きてくから、見守ってくれ』という思いで手を合わせました」と話していました。

そのうえで「前向きな言葉をいつもかけてくれていたので『お前なら大丈夫、頑張ってこい、自分らしく突っ走ってこい』って言ってくれると思います」と空を見つめながら話していました。

警察 引き続き情報提供を呼びかけ

警察によりますと、北海道から沖縄県まで全国各地から寄せられた情報は29日午前9時現在で854件にのぼっていますが、有力な手がかりにはつながっていないということです。

それまで面識もなく、わずかな時間接しただけの被害者に100キロ近くという猛スピードで突っ込んだのはいったいなぜなのか。その動機を解明するためにも、警察には一刻も早い容疑者の逮捕が求められています。

情報の提供先は、別府警察署で電話番号は0977ー21ー2131です。