知床沖 観光船沈没事故 社長“出航は船長判断でよいと思った”

知床半島沖の観光船の沈没事故で、国の運輸安全委員会の調査に対し運航会社の社長が「出航するかどうかは船長の判断に任せておけばよいと思った」などと回答していたことがわかりました。運輸安全委員会は、調査で明らかになったこれらの事実を記した報告書を29日公表し、来月開かれる「意見聴取会」で識者などから意見を聞くことにしています。

知床半島の沖合で観光船が沈没し、20人が死亡、6人の行方がわからなくなっている事故について、事故原因を調査している国の運輸安全委員会は去年12月、留め具に不具合があったハッチから海水が流入したなどとする経過報告書を公表しました。

委員会では、関係者への聞き取り調査も進めていますが、運航管理の責任者だった「知床遊覧船」の桂田精一社長が「現場では同業他社の船長などと相談して出航などの判断をする体制ができていたので、運航については、船長の判断に任せておけばよいと思った」などと話していたことがわかりました。

ハッチの不具合については「船長から報告を受けておらず、不具合はなかったと認識している」などと回答したということです。

運輸安全委員会はこうした聞き取り結果や当日の気象状況、船体の損傷など調査で明らかになった事実を記した報告書を29日公表し、来月26日に識者や関係者から意見を聞く「意見聴取会」を開くことを決めました。

そこでの意見を踏まえ、事故原因の分析と再発防止策を盛り込んだ最終報告書を取りまとめることにしています。

報告書 船長の経験不足について複数の証言を記載

報告書では、死亡した船長が経験不足だった点についても複数の証言が記載されました。

沈没した「KAZU 1」は、経験豊富な前の船長が雇い止めとなり、その代わりとして、おととし4月、甲板員として4か月の勤務経験のあった男性が船長になりました。

運輸安全委員会によりますと、この海域を航行する船長に必要な経験について、前の船長は「自分が会社に採用される際、船長になるには、甲板員の経験が通算3年間は必要と言われていた」と回答しています。

死亡した船長の技量については「天候判断、海域や地形の把握、コース取りなどの理解度が不足していると感じた」などと同業他社の社員や前の船長らの証言を記載しています。

また、前の船長が雇い止めとなった理由について、桂田社長は「新型コロナウイルスの影響で令和2年には売り上げがおよそ3分の1となり、資金繰りが厳しい状況だった」と答えたということです。

一方、海水が流入したとされるハッチについては事故の2日前に行われた訓練でふたに不具合があり、3センチほど浮いている状態だったということで、事故当日までに修理した様子はなかったとしています。

これについて、桂田社長は調査に対し「船長から報告を受けておらず、不具合はなかったと認識している」などと回答したということです。

このほか桂田社長の話として、船長から運航管理者であっても事務所に常にいる必要はないと言われたとか、事故当日の出航前に、船長との打ち合わせで、天候が悪化したら引き返すと会話をしたことなどが盛り込まれています。

運輸安全委員会によりますと「意見聴取会」は、社会的関心を集めた重大事故の際に開催されるものでこれまでに日航ジャンボ機墜落事故や、JR福知山線の脱線事故など8件で開かれましたが、船舶事故では初めてです。

松野官房長官「安全対策 ハード、ソフトの両面で強化」

松野官房長官は午前の記者会見で「事故の防止や被害の軽減を図るため、旅客船の安全対策についてハード、ソフトの両面で重層的な強化を進めている。引き続き乗客のご家族の声を受け止め、このような痛ましい事故が二度と起こることがないよう政府としてしっかりと取り組んでいく」と述べました。