ロシアで武装反乱 プリゴジン氏滞在のベラルーシとは?

ロシアで武装反乱を起こしたあと、消息がわからなくなっていた民間軍事会社「ワグネル」代表のプリゴジン氏。隣国ベラルーシのルカシェンコ大統領は、国内にいることを明らかにしたと、ベラルーシの国営通信が伝えました。

ベラルーシとは、どのような国なのか?
また、プリゴジン氏がベラルーシに行くことになった経緯とは何なのか?

これまでの動きを詳しくまとめました。

“プリゴジン氏はベラルーシにいる”

ワグネル代表 プリゴジン氏

ロシアの民間軍事会社ワグネルの代表プリゴジン氏は、ロシア国内で武装反乱を起こしたあと一転して部隊を撤収し、その後の消息は途絶えていました。

ロシアの隣国ベラルーシの国営通信は日本時間の27日、ルカシェンコ大統領が、プリゴジン氏はベラルーシ国内にいることを明らかにしたと伝えました。

ベラルーシ ルカシェンコ大統領

ルカシェンコ大統領は「ワグネルの指揮官たちは戦闘の最前線にいたので、われわれのところに来れば何が重要かを教えてくれるだろう」と述べたほか、ワグネルに部隊の宿営地を提供する考えも示したとしています。

プリゴジン氏も26日、今後のワグネルの活動に関して「ルカシェンコ大統領が解決策を見つけようと手を差し伸べてくれた」と述べていて、ベラルーシにおけるプリゴジン氏の動向が当面の焦点です。

ベラルーシ行きの経緯とは?

プリゴジン氏と接触したとするルカシェンコ大統領。27日に行った演説では、接触するまでの経緯について触れました。

【ルカシェンコ大統領 “ロシアの治安機関通して接触”】
24日の朝にプーチン大統領と話をした際、厳しい状況を知り、さらなる事態の悪化を避けるためロシアの治安機関、FSB=連邦保安庁を通して連絡先を入手し、ロシア南部ロストフ州にいるプリゴジン氏と接触したとしています。

【プリゴジン氏がプーチン大統領との面会求めた】
ベラルーシ大統領府によりますとルカシェンコ大統領とプリゴジン氏の電話による協議は24日午前11時ごろに始まり、ルカシェンコ大統領が「望みは何か」と尋ねると、プリゴジン氏はショイグ国防相やゲラシモフ参謀総長を引き渡すことやプーチン大統領との面会を求めたということです。
ルカシェンコ大統領がどれも受け入れられることはないだろうと伝えると、プリゴジン氏は「われわれは正義を望んでいる。モスクワへ行く」と述べたということです。

【虫けらのように潰されるだけだ】
これに対してルカシェンコ大統領は「途中で君は虫けらのように潰されるだけだ」と警告し、モスクワに部隊を進めることをやめるよう促したということです。
電話でのやりとりは断続的に複数回にわたって行われ、そのなかで「市民に犠牲者が出れば交渉は終わりだ」などと伝え、ベラルーシがプリゴジン氏やワグネルの戦闘員を受け入れて、安全を保証することなどを提案し、最終的にプリゴジン氏は受け入れたということです。

ベラルーシってどんな国?

プリゴジン氏が入国したベラルーシは、ロシアの西側、ウクライナの北側に位置し、32年前の1991年、旧ソビエトの崩壊に伴い独立しました。

現在、国を率いるルカシェンコ大統領は1994年以来、29年にわたって大統領の地位にあります。
ルカシェンコ大統領は、政府や議会の主要なポストをみずからに近い人物で固めつつ、国内で言論統制や反政権派への弾圧を強め、その強権的な統治手法は欧米から「ヨーロッパ最後の独裁者」と批判されてきました。
2020年の大統領選挙では、不正があったとしてルカシェンコ大統領の辞任を求める大規模な抗議活動が広がりましたが、この際、ロシアのプーチン大統領がベラルーシに大規模な経済支援などを行い、窮地から救う形となりました。

ベラルーシはロシアと同盟関係にあり、ウクライナへの軍事侵攻に直接参加していないものの、国内にはロシア軍が駐留していて、軍事侵攻が始まった当初、出撃拠点の1つとなりました。
また、ルカシェンコ大統領も一貫して軍事侵攻を支持していて、去年憲法が改正され、「自国の領土を『非核兵器地帯』にして『中立国家』を目指す」というこれまで明記されていた条文の一部が削除されました。

“核兵器の大部分 ベラルーシに”

6月には、プーチン大統領が戦術核兵器をベラルーシに搬入したことを明らかにし、両国の軍事的な協力関係が深まっています。

核兵器について、ベラルーシの国営通信は27日、ルカシェンコ大統領が「核兵器の大部分はベラルーシに持ち込まれた」と述べたと伝えました。

また、「ポーランドなどはワグネルが核兵器を守ると考えているが、核兵器がワグネルに守られることはない。これはわれわれの任務だ」として、ロシアの民間軍事会社ワグネルがベラルーシで活動しても、核兵器を防衛する任務につくことはないと強調したとしています。

懸念を示す隣国ポーランド“事実上のロシア軍の移転”

ポーランド ドゥダ大統領

一方、ベラルーシの隣国ポーランドのドゥダ大統領は、27日、ロシアの民間軍事会社ワグネルの代表プリゴジン氏とその部隊がベラルーシに移れば「事実上のロシア軍の移転になる」とした上で、「われわれにとって非常に悪い兆候だ」と述べ、安全保障上の脅威になると懸念を示しました。
その上で、ポーランドも加盟するNATO=北大西洋条約機構のほかの加盟国に懸念を伝える方針を示すとともにロシアに近い東欧やバルト3国の加盟国の防衛力強化を急ぐべきだと訴えました。

米 “プリゴジン氏とつながりある団体などに制裁”

また、アメリカもプリゴジン氏に関連する動きを起こしています。
バイデン政権は27日、声明を発表し、ロシアの民間軍事会社ワグネルの代表プリゴジン氏などとつながりがあり、中央アフリカに拠点を置く企業など4つの団体とロシア人1人に対し、資産凍結などの制裁を科したと明らかにしました。
このうち、中央アフリカにある鉱山企業はプリゴジン氏の関連会社で、10億ドル以上、日本円で1400億円以上相当の金を埋蔵していると推定される鉱山の採掘許可を保有しており、ワグネルの活動を資金面で支えていると指摘しています。

アメリカはこれまでにもワグネルが各地で人権侵害に関わっているとしてワグネルの活動を支える団体や個人に制裁を科しており、ブリンケン国務長官は声明の中で「ワグネルが活動してきた場所では、死と破壊が後を絶たない。アメリカは、責任を追及するため、行動を起こし続ける」と強調しています。

プーチン大統領“ワグネルの活動費用を調査”

プリゴジン氏がベラルーシにいると明らかにされた27日、ロシアのプーチン大統領は、戦闘員の給与などワグネルの活動の費用について、国が年間800億ルーブル、日本円にしておよそ1350億円を支払っていたとした上で、使途を調査する考えを明らかにしました。
プーチン大統領としては、「裏切り者」だとして非難したプリゴジン氏の資金繰りに言及することで、改めてけん制するとともにロシア国内での影響力を低下させたいねらいもあるとみられます。