“極限”への挑戦 物流を変えろ!

“極限”への挑戦 物流を変えろ!
社会問題化する物流のひっ迫。

国内のトラック運送の事業規模19兆円のうち、その大半を占めるのが「企業間物流」だ。

しかし、効率化がなかなか進まずトラックの荷室の6割は荷物が埋まらず、空気を運んでいると言われる。

そこで荷主となる企業どうしが連携し、トラックの荷物を混載して運ぶことで効率化を極限まで進めようという新たな取り組みが始まっている。

そのシステムの核となるのはスーパーコンピューターをはるかに上回る計算能力を持つ量子コンピューター。

“ハイテク混載”の現場に潜入した。

(経済部記者 榎嶋愛理)

カナダの量子コンピューターがわずか40秒で計算

神奈川県相模原市内にある物流倉庫。

大型トラック2台分の荷物を1度に運べる“ダブル連結トラック”に食料品などが次々に手際よく積み込まれている。
積み込まれる荷物を見ると社名も種類もバラバラ。

ここが“ハイテク混載”が行われている現場だ。
NEXT Logistics Japan 梅村幸生 社長
「ここでは食品メーカーや自動車部品など業種・業態を超えたいろんな形の荷物をパズルのように組み合わせて運んでいます。一見、簡単そうですが、実はとても難しいことなんです。どういう組み合わせで積むのかや車軸にかかる重さのバランス、それに匂いのある荷物と一緒に運んではいけないもの、いつまでに届けないといけないかなど、さまざまなことを配慮したうえで積み合わせを考える必要があります」
この混載の方法はシステムが計算して自動で算出したものだ。

日野自動車の子会社「NEXT Logistics Japan」と国内のベンチャーが開発したシステムで、その核となるのは量子コンピューターだという。
車軸にかかる荷重や荷室のバランス、荷物の形状や大きさ、さらに混載するタイミングや輸送先などのあらゆる情報を組み合わせて、その日その時間の混載のプランを立てなければならない。

カナダの企業が運営する量子コンピューターとシステムを接続し、数十万通りの選択肢からわずか40秒で最適解をはじき出す。
人間が考えて決めようとすると、2~3時間はかかってしまうという。

開発にあたっては、担当者が営業所に張り付き、荷主やドライバーに荷物の積み方などの意見も聞き、現場のリアルな声をシステムに反映させたという。
この物流倉庫では9台のダブル連結トラックが東京ー兵庫を日々往復し、1日およそ300トンの荷物を運ぶ。

2022年の秋にシステムを導入して以降、トラックの平均積載率は6割を超えるようになり、取材したこの日の積載率は71.5%だった。
混載の取り組みによって、これまでにトラックから排出されるCO2も26%削減できた計算だ。

国内のトラック運送の事業規模19兆円の大半を占める企業間物流。

混載などの効率化がなかなか進まず、トラックの荷室の6割が空気を運んでいるとも言われてきた。

この物流倉庫での積載率の数字は、大きな進化といえそうだ。

また、荷室に取り付けられたカメラで“見える化”し、積載率の効果を荷主側にも分かるようにしている。
さらに、ドライバーが運転に専念できるような環境づくりにも取り組む。

このシステムに加えて、開発中の完全自動運転のフォークリフトを導入することで、ドライバーが荷物の積み降ろしの順番を待つ“荷待ち”の時間も短縮する。

さまざまな荷主企業が手を結ぶ

このハイテク混載に参加する企業は徐々に増え、現在は40社を超える。

飲料メーカーや自動車メーカー、日用品を扱う会社や製紙会社など業種はさまざまだ。

異業種どうしの協力には大きなメリットがあるという。

荷主として企画の立ち上げ時から参加している企業は、異業種とやることに大きなメリットがあるとみている。
参加企業 アサヒロジ 島崎市朗 副社長
「同業者とも共同配送をやっていますが、どうしてもシーズンのボリュームが似てしまうんです。単純に同方向の混載は同業者の方とやったほうがやりやすいですが、社会問題を解消するためには、行って帰ってくるトラックの積載率をあげないといけない。そういう意味では異業種の方ともやったほうがいいと思うんです。開発されたシステムは荷主やドライバーのノウハウが入っていて、現場の“職人的”な要素も盛り込まれていて、画期的だと思います。2024年問題は誰かが解決してくれる話ではありませんし、自分たちの荷物だけ運べればいいということでもありません。業種の垣根を越えて対応していきたいと考えています」

目指すは“究極の効率化”

このハイテク混載のシステムは、参加企業が増えれば増えるほど荷物のバリエーションが広がり、トラックの荷室のいわばパズルのピースが埋めやすくなるという。

さらに、システムのオープン化を進めていく方針だ。

実際に起こりうる当日キャンセルへの対応や、運ぶ荷物の予測などもできるように2025年度にかけてさらにバージョンアップも計画している。
NEXT Logistics Japan 梅村幸生 社長
「参加いただく企業さんが増えると荷物の種類やタイミングの組み合わせが増えて、もっと効率があがると考えています。また、2024年問題は日本全体の課題ですので、解決するには同時多発的に取り組みを進めなければいけません。そこでシステムのオープン化も決断しました。いずれはトラック輸送だけでなく、鉄道・船舶、そういうものと組み合わせて、計算できるようにもしたいです。オールジャパンとして日本の物流が成り立たなくなるのをどうにかしないとという意識で、取り組みを広げていきたいと考えています」

取材後記

「2024年問題」とも言われる物流のひっ迫。

企業にとっては確かに“問題”であり、さまざまな取り組みが求められる。

ただ、2024年に行われる時間外労働の上限規制は、そもそもは物流業界のトラックドライバーの労働環境の改善が目的だ。

今回取材したシステムは、トラックドライバーの年収の改善につなげることも目的にしているという。
いまの業界平均のおよそ460万円がハイテク混載を進めることで600万円から800万円に改善できると予測している。

物流のひっ迫は、企業にとっても経済にとっても悪影響が非常に大きいのは周知の事実だ。

目線を変えてドライバーなどの担い手の環境改善につなげる議論や取り組みも深めなければならない。
経済部記者
榎嶋 愛理
2017年入局
自動車業界を担当