教員給与や働き方改革を議論 過労自殺で息子失った男性の思い

教員の人手不足や長時間勤務が課題となる中、文部科学省は給与のあり方や働き方改革についての本格的な議論を中教審=中央教育審議会の特別部会で始めました。来年春ごろまでに一定の方向性を示したいとしています。

教員の働き方をめぐる議論について、教員だった息子を過労による自殺で失った男性は「犠牲者を出さない職場環境や制度を早急につくってほしい」と話しています。

ことし4月に発表された6年ぶりとなる教員の勤務実態調査の速報値では、国が残業の上限としている月45時間を超えるとみられる教員が中学校で77.1%、小学校では64.5%に上ったほか、「過労死ライン」と言われる月80時間に相当する可能性がある教員が中学校で36.6%、小学校で14.2%となりました。

調査結果などを受けて文部科学省は26日、中央教育審議会の特別部会を開き、給与のあり方や働き方改革などについて本格的な議論を始めました。

具体的には、残業代が出ない代わりに支給される月給の4%の上乗せ分を引き上げるかどうかや、教員の業務の適正化とスタッフも含めた体制の充実、中学校の35人学級などについて議論される見込みです。

参加した委員から「働き方改革を急ぐべきだ」という意見が多かったことから、次回から優先して議論を進めることになりました。

中教審は、来年春ごろまでに一定の方向性を示したいとしています。

官房長官 “今後の具体的な議論に期待”

松野官房長官は、記者会見で「教師不足の解消は喫緊の課題であり、働き方改革の成果は着実に出つつあるものの、依然として長時間勤務の教師も多く、引き続き取り組みを加速させていく必要がある」と指摘しました。

その上で「『骨太の方針』で示された方向性も踏まえ、処遇の改善を含め、働き方改革や学校の指導運営体制の充実を一体的に進めていくことが重要で、今後の具体的な議論に期待する」と述べました。

教員だった息子を過労による自殺で失った父親は

文部科学省で始まった教員の働き方をめぐる議論について、教員だった息子を過労による自殺で失った男性は「犠牲者を出さない職場環境や制度を早急につくってほしい」と話しています。

福井県に住む嶋田富士男さんの長男で中学校の教員だった友生さん(当時27歳)は、9年前に過労のため自殺しました。

友生さんの遺影とともに飾られている腕時計は今も、深夜0時にアラームが鳴り続けています。

生前、短い仮眠を取ったあと、0時ごろに再び起きて授業の準備などをしていたためです。

友生さんが亡くなる1週間前まで毎日つけていた日記には「(午前)2:30までがんばったら仮眠を取ろう」「今、欲しいものは睡眠時間」「休んではいけないという強迫観念」「疲れました。迷わくをかけてしまいすみません」などと当時の心境がつづられていました。

亡くなったあと、当時は授業の準備や野球部の副顧問、研修や保護者対応などの業務が重なり、時間外労働が最大で月160時間を超えていたことが分かり、公務災害に認定されました。

その後、嶋田さんが県などに賠償を求めて起こした裁判では、校長が業務時間や内容を把握して勤務時間を軽減するなど、とるべき義務を怠ったことが認められ、そのまま確定しました。

嶋田さんは「息子が亡くなったとき、教育委員会の責任者の方から『残念だけど、いい先生でよかったじゃないですか』と言われた。子どもたちに好かれて、教員の本分を全うしたという意味だと思うが、労働者として認識されていないと感じた。同僚の先生たちも一緒にいて息子の変化に気づかなかった」振り返っていました。

こうした経緯から嶋田さんは現役の教員や有識者などとともに文部科学省に対する要望活動をしていて、残業時間の上限を超えた場合の管理職や教育委員会の責任を明確にするなど、抜本的な改善を求めています。

嶋田富士男さん

今回の議論について嶋田さんは「給与の上乗せが4%から10%に上がっても残業は減らない。犠牲者を出さない職場環境や制度を早急につくり、息子のように、自分で命を絶つ先生が1人でも減ってほしい。サポートの職員の配置や外部委託など、教員の時間外の労働を減らす取り組みを行い、教員が子どもたちと向き合う本来の業務を全うできるようにしてほしい。労働者の尊厳が守られるような責任ある業務管理をしてもらいたい」と話しています。