緊急避妊薬“処方箋なしで”一部薬局で試験的販売へ【詳しく】

意図しない妊娠をふせぐ「緊急避妊薬」を医師の処方箋がなくても購入できるようにすることについて、厚生労働省は一定の要件を満たす薬局で早ければ夏ごろから試験的に販売を行う調査研究を始める方針を示しました。

「緊急避妊薬」をめぐる議論の経緯、「試験的販売」の詳細などをまとめています。

「緊急避妊薬」現在は“医師による処方”が必要

緊急避妊薬は避妊ができなかったり性暴力を受けたりしたあとで意図しない妊娠を防ぐための薬です。

「レボノルゲストレル」というホルモン剤を成分とする錠剤の薬で、排卵を遅らせる作用などがあり、性行為から72時間以内に1回服用することで、80%以上の確率で妊娠を防げるとされています。

副作用は子宮からの出血や頭痛などが報告されていますが、重大なものはないとされています。

厚生労働省の専門家の検討会で示された資料によりますと、海外ではおよそ90の国や地域で、医師の処方箋がなくても薬局などから購入できるということです。

また、購入にかかる費用はイギリスやアメリカなど7か国のデータでは、日本円でおよそ6000円以下ですが、日本では平均でおよそ1万5000円となっています。

悪用や乱用されるおそれがあるなどとして、日本国内では医師による処方が必要で薬局では購入できないため、支援団体は▽夜間や休日ですぐに受診できなかったり、▽性被害に遭って受診をためらったりしているうちに妊娠し、中絶手術を余儀なくされる人も少なくないとして、薬局での販売解禁を求めていました。

薬局で「試験的販売」開始へ

厚生労働省は26日に開かれた専門家の検討会で、一定の要件を満たす薬局で試験的に販売を行いながら、医師の処方箋がなくても適正に販売できるかを検証する調査研究を始める方針を示しました。

販売を行うのは緊急避妊薬を調剤した実績がある薬局を中心にする予定で、研修を修了した薬剤師が販売にあたることなどの条件を満たす薬局を地域ごとに選定する方針です。

そのうえで販売時の説明などについての薬局に対する調査や、購入した人に対するアンケート調査を行うとしています。

厚生労働省は早ければ夏にも販売を開始し、来年3月にかけて調査を行う方針です。

処方箋が必要な医薬品の一般販売に先立ってこうした調査研究を行うのは初めてだということで、厚生労働省は今後調査の結果などを踏まえ一般販売について可能なかぎり早期に検討するとしています。

医師の処方箋なくても適正に販売できるか検証

緊急避妊薬を一定の要件を満たす薬局で試験的に販売する調査研究は、医師の処方箋がなくても適正に販売することができるのかを検証することを目的に行われます。

調査は、薬局、購入者、産婦人科の3者を対象に行われます。

▽薬局には、すべての販売事例を対象に、購入者に薬の説明や指導ができたかなど販売状況を調べる予定です。
▽購入者には、同意が得られた場合のみ避妊の結果や妊娠検査実施の有無などを調べます。
▽産婦人科へは、購入者のフォローアップの状況などを調べる予定です。

販売を行うことができるのは緊急避妊薬の調剤実績がある薬局を中心に、研修を修了した薬剤師が販売することなどの条件を満たす薬局を地域ごとに選定し、公表することにしています。

処方箋が必要な医薬品の一般販売にあたって、こうした調査研究を行うのは初めてだということです。

厚生労働省は今後、対象となる薬局や具体的な調査内容を決定した上で、夏にも販売を開始し、来年3月にかけて調査を行う方針です。

緊急避妊薬めぐる議論の経緯は

緊急避妊薬を医師の処方箋がなくても購入できるようにする、いわゆる一般販売については2017年にも厚生労働省が専門家による検討会で議論を行っていましたが、悪用される懸念があるとの意見や薬剤師の知識不足などを理由に判断は見送られました。

一方、WHO=世界保健機関は2018年に「意図しない妊娠のリスクに直面するすべての女性と少女は緊急避妊の手段にアクセスする権利がある」として、各国に対応するよう勧告し、2020年4月には、薬局での販売の検討も含め緊急避妊薬へのアクセスを確保するよう提言しました。

こうした流れを受け、国内では2020年12月に閣議決定された男女共同参画基本計画で処方箋がなくても購入できるよう検討することが明記され、厚生労働省は2021年から専門家による検討会で、導入した場合の課題や対応策について議論を再開しました。

その後、およそ2年間かけて議論が行われ、このうち去年12月末からおよそ1か月かけて実施したパブリックコメントでは4万6312件の意見が寄せられ、賛成の意見が9割以上を占めていました。

一方で薬の悪用や産婦人科との連携などを懸念する意見も引き続き寄せられていて、専門家の間では「課題をすべて検証するには時間がかかる」として、一部の地域の薬局で試験的に運用を始め、データを分析するなどして対応を判断すべきだとする意見が挙がっていました。

薬局での販売 求める団体「全国的な販売 早急に実現を」

「緊急避妊薬の薬局での入手を実現する市民プロジェクト」の染矢明日香共同代表は「今後、試験的販売や厚生労働省での検討が行われるとなると、全面的な薬局での販売が実現するのには2年以上かかるという意見もあり、緊急避妊薬へのアクセス自体が阻まれていると感じている」と述べました。

そのうえで「試験的な販売を実施するならできるだけ多くの薬局で取り扱ってほしいし、どこの薬局で入手可能なのかを知ってもらう機会がないと混乱しそうだと思う。また、調査研究で協力するときにプライバシーが守られるのか心配して服用をためらう人もいると思うので、当事者に負担がかからないような形で実施してほしい。いつ妊娠するかは人生を左右する大きな問題なので、国には全面的な薬局での販売を早急に実現してほしい」と話していました。

日本産婦人科医会 常務理事「医療へのアクセス確保を」

日本産婦人科医会の種部恭子常務理事は「薬局で試験的販売をすることで緊急避妊薬を入手するハードルは下がるかもしれないが、当事者は未成年だったり性暴力を受けていたりするなど複雑な背景がある人も多い。薬剤師がこうした事情を聞き取って必要な場合にどれだけ産科医につなげられるかデータを取っていく必要がある」と述べました。

緊急避妊薬はすでに妊娠していた場合には効果はありませんが、種部常務理事は「緊急避妊薬を受け取りに来た時点ですでに妊娠しているというケースもある。こうした人たちがきちんと医療にアクセスできるようにしていかないといけない」と話しています。

そのうえで「避妊を男性に任せず自分で自分のことを決めるためのジェンダー教育や、避妊用の低用量ピルを無料にするなど、社会的な環境の整備も必要だ」と話していました。