さいたま市 中学生自殺“顧問の指導 決定的要因と考えにくい”

5年前、さいたま市の中学校に通う男子生徒が自殺し、遺族が部活動の顧問の指導が自殺の原因だと訴えていた問題で、調査委員会が報告書をまとめました。「自殺には複数の要因が関与しており、顧問の指導が直接的もしくは決定的な要因であったとは考えにくい」としています。

2018年8月、さいたま市立南浦和中学校の1年だった男子生徒が「今までありがとう」と書かれた遺書を残し、バドミントン部の練習のために自宅を出た直後に自殺しました。

遺族は、部活動の顧問の指導が自殺の原因となったと訴え、市の教育委員会が第三者による調査委員会を設置し、23日に報告書を公表しました。

この中では、顧問の指導について、男子生徒にきつい口調で指導をしたことはあったものの、「不適切な指導とまでは言えない」とした上で、「強いことばがけによる厳しい指導が続いたことが、部活動への不適応に大きく関与していることは否定できない」と指摘しました。

自殺との関係については「複数の要因が関与しており、顧問の指導が直接的もしくは決定的な要因であったとは考えにくい」としました。

また、男子生徒が自殺する前の3日間、部活動を休んでいる間にゲームセンターにいたのをほかの部員に見られ、顧問が男子生徒の亡くなる前日、母親に電話をして事実確認をしています。

この一連の出来事について、報告書では「決定的な要因とは言えないまでも、自殺に傾倒する大きな契機となったと考えられる」と指摘しました。

調査委「指導死にあたると断言できない」

報告書をまとめた調査委員会は記者会見を開き、和泉貴士弁護士は、教員の不適切な指導で子どもが自殺に追い込まれる、いわゆる「指導死」について、「不適切な指導をしていた事実を裏付けることができず、指導死にあたると断言することはできない」と述べました。

また、報告書では「学校の対応が遺族の心情に寄り添うものではなかった」と指摘していて、和泉弁護士は「子どもが亡くなった直後の遺族の精神状態への理解を欠いた対応があり、その後も適切なコミュニケーションを取れなかったことが、結果的に調査を遅らせる原因になった」と指摘しました。

その上で教育委員会に対し、このような事態が起きた際に学校に適切な対応を促せる専門的なスタッフを育成するよう求めました。

母親“納得できない部分 たくさんある”

報告書の公表を受けて、母親はさいたま市で会見を開き、息子の名前は「怜(れい)」だと明らかにしました。

写真立てをそばに置いて会見し、「報告書に名前を出すことで、怜がいたという、1人の人間として扱ってもらえる気がして、家族で相談して決めました」と述べました。

今回の報告書については、顧問の責任について触れられず、怜さんの自殺との因果関係も認められていないなど、納得できない部分がたくさんあると批判しました。

その一方で「点と点をつなぎ合わせて自死に向かっていったのではないか。報告書の中でいろいろなことがわかって、私たちなりにその背景や怜の気持ちに近づくことができたと思っている」と述べました。

そして、さいたま市教育委員会に対して、今後、部活動の顧問だった教諭への処分を求める要望書を提出することを明らかにしました。

さいたま市教育長「命を救えなかったことに心から謝罪」

記者会見した、さいたま市教育委員会の細田眞由美教育長は、「命を救えなかったことに、心から謝罪します。かけがえのない命が失われたことを重く受け止め、提言を受けて再発防止に全力で取り組んでまいります」と述べました。

また、子どもの心の変化を可視化して、教師たちがいち早く自殺のリスクを把握する仕組みを構築していくとしています。

一方、遺族が部活動の顧問だった教諭の処分を求めていることについては、報告書で直接的な違法な行為や不適切な指導があったとされていないことを理由に処分は行わないとしています。