マダニ媒介「オズウイルス」で死亡 初めて確認 茨城の70代女性

厚生労働省は去年、茨城県内で心筋炎で死亡した70代の女性について、マダニが媒介すると考えられている「オズウイルス」というウイルスによる感染症と診断されたことを発表しました。
このウイルスに、人が感染して発症したり、死亡したりしたケースが確認されたのは初めてで、厚生労働省はウイルスの特徴や症状などについて、引き続き、調査や研究を行うことにしています。

厚生労働省によりますと、去年夏ごろ、茨城県の病院で発熱や倦怠感を訴えて受診し心筋炎で亡くなった70代の女性の患者について、入院時に右足の付け根にマダニがかみついていたことが確認されていたことなどから、検査を行ったところオズウイルスによる感染症と診断されたということです。

“人に感染 発症や死亡の確認は国内初 世界でも例がない”

「オズウイルス」は、2018年に国内のマダニから検出されたウイルスで、これまでの調査から国内の広い地域に分布している可能性が指摘されていましたが、厚生労働省などによりますと、人が感染して発症したり、死亡したりしたケースが確認されたのは国内では初めてで、世界でも例がないということです。

厚労省 “感染が必ずしも致死的な経過につながるわけではない”

厚生労働省などによりますと、これまでに国内では血液中の抗体検査でこのウイルスに感染したと考えられるケースがあったことから、「感染が必ずしも致死的な経過につながるわけではない」としていて、ウイルスの特徴や症状などについて、引き続き、調査や研究を行うことにしています。

また、詳しい感染経路は分かっていませんが、ウイルスを保有するマダニにかまれることで感染する可能性が考えられることから、厚生労働省は草むらなどマダニが多く生息する場所では長袖、長ズボンを着用しマダニにかまれないよう注意を呼びかけています。

オズウイルスとは

オズウイルスはマダニが媒介するウイルスで、2018年に愛媛県でマダニの一種「タカサゴキララマダニ」から世界で初めて見つかりました。

国立感染症研究所によりますと、オズウイルスに感染して発症したり、死亡したりした人の報告も世界で初めてだということです。

オズウイルスを媒介する「タカサゴキララマダニ」は、関東より西に広く分布していて、これまでに行われた野生動物の調査で、千葉県や岐阜県、三重県、和歌山県、山口県、大分県で、ニホンザルやニホンイノシシ、ニホンジカから感染したことを示す抗体が検出されています。

また、山口県で行われた狩猟者の血液の検査では、2人からオズウイルスに対する抗体反応があったという報告があるということで、感染に気付かないか、感染しても症状が軽くすむ場合もあると考えられるとしています。

今のところ、有効な治療薬はわかっておらず、症状が出た場合は対症療法を行うことになるとしています。

国立感染症研究所は、草むらややぶなどマダニが多くいる場所に入る時には、長袖や長ズボンなどで肌の露出を減らすことが大事で、虫よけも補助的な役割があるとしています。

もし、マダニにかまれているのを見つけた場合は、無理に引き抜こうとせず、医療機関で除去や洗浄などの処置を行い、刺されたあと数週間は体調の変化に注意をして、発熱などがあれば、医療機関を受診するよう呼びかけています。

国内には約50種のマダニ

国立感染症研究所によりますと、国内ではおよそ50種のマダニが確認されています。

マダニによって媒介される感染症もあり、このうちSFTS=重症熱性血小板減少症候群は、去年1年間で116人の感染が報告され、12人が死亡しています。

SFTSは、感染すると発熱や、せき、おう吐や下痢などの症状が現れ、重症の場合は出血が止まらなくなるなどして、死亡することもある病気で致死率は10%から30%に上るとされています。

SFTSに感染したイヌから飼い主に感染したとみられる例が報告されているほか、ネコにかまれた飼い主や、ネコの診療を担当した獣医師らが感染したケースも複数、報告されています。

また、日本紅斑熱は去年460人の感染が報告されていて、頭痛や発熱、けん怠感といった症状が出て、致死率は高くありませんが死亡することもあります。

マダニにかまれないためには…

マダニの多くは、春から秋にかけて活動が活発になり、シカやイノシシといった野生動物が出没する場所に多いほか、住宅の庭や畑にある草むらややぶなど、身近な場所にも生息していることがあります。

国立感染症研究所は、マダニにかまれることを避けるために、野外では首にタオルをまいたり、シャツの袖口やすそを手袋やズボンに入れたりして、肌が露出しないようにした上で、虫よけ剤を使うといった対策が効果的だとしています。

専門家「マダニ媒介の感染症 国内でも多数 十分注意を」

オズウイルスによる感染症で亡くなった人が初めて報告されたことについて、マダニによる感染症に詳しい山口大学共同獣医学部の下田宙准教授は、「オズウイルスは、2018年に新しく見つかったウイルスだが、マダニが媒介する感染症として注意が必要だということがわかった。大きな意味がある報告だ」と述べました。

また、亡くなった人が心筋炎を発症していたことについて、「マダニが媒介するウイルスで心筋炎になったという報告はこれまでなく、非常に珍しいケースだ。今後、原因が分からない心筋炎の患者に対しては、マダニによる感染症の可能性も考える必要がある」と指摘しました。

そのうえで「マダニが媒介する感染症は国内でも多くあり、十分注意が必要だ。マダニは草むらや山、森の中など動物がいるところに多く生息していて、そうした場所で作業するときは長靴や長袖、長ズボンを使い、なるべく肌の露出を避ける必要がある。帰宅したら外で上着を脱いでから家に入ることや、マダニが身体に付着していないか、風呂でよく確認することが大切だ。付着していた場合は医療機関を受診してほしい」と呼びかけています。