IOC=国際オリンピック委員会が主催する「オリンピックeスポーツシリーズ」は、シンガポールで始まり、日本を含め64の国と地域から100人以上の選手が参加しました。
競技に先立って行われた開会式ではIOCのバッハ会長が、バーチャルで登場し「スポーツの世界ではバーチャルであろうと、身体的であろうと誰もが平等です。オリンピック精神のもと、ベストを尽くし、モットーである『より速く、より高く、より強く』を実践してください」とあいさつしました。
初の対面での競技は10種目で行われ、このうち自転車競技の決勝では、ステージに上がった選手たちが固定された自転車のペダルをこぎながらゲーム内で競っていました。
また日本の企業が開発したゲームも種目に採用されていて、このうち野球では日本人の選手らが競技に臨み腕前を競う姿も見られました。
eスポーツをめぐっては、将来の大会競技としてもIOCが検討している一方で、スポーツとして認めるかどうかという議論やゲーム依存などの課題も指摘されていて、その動向が注目されています。
IOC主催 初の対面eスポーツ世界大会開催 シンガポール
IOC=国際オリンピック委員会が主催する、初の対面でのeスポーツの世界大会がシンガポールで今月25日まで開かれました。ゲームを競技として行うeスポーツをめぐっては、将来の大会競技としてもIOCが検討していて、その動向が注目されています。
eスポーツ 期待と課題
eスポーツは近年、世界中で若者を中心に親しまれるようになり、競技人口と競技を動画で視聴する人などを合わせると数億人に上るとされています。
世界各地で大会が開かれるなど、市場は年々拡大していて、日本国内でも、日本eスポーツ連合によりますと、2021年の市場規模は78億円余りで、2025年にはおよそ180億円に拡大すると見込まれています。
ことし9月に中国・杭州で開幕するアジア大会では、初めてeスポーツが正式競技に採用されるなど、その人気を取り込もうとする動きが加速しています。
一方で、課題も指摘されています。
eスポーツをめぐっては、身体運動を伴わないものもあることから、スポーツとして認めるのかどうかという議論があるほか、WHO=世界保健機関は2019年に、生活に支障が出るほどゲームに依存している状態を「ゲーム障害」という病気として認定し、世界的に対策が求められています。
WHOが定義する「ゲーム障害」は、テレビやパソコンなどでゲームをしたい欲求を抑えられない状態を指し、具体的には、
▽ゲームをする頻度や長さ、始めたりやめたりするタイミングなどを自分でコントロールすることができず、
▽健康を損なうなどの影響が出ているにもかかわらずゲームを続けてしまう状態を指しています。
そして、こうした状態が少なくとも1年以上続き、家族関係や社会的な生活に影響を及ぼしている状態としています。
ゲーム会社や競技団体の思惑は
今大会で競技として行われる10種目のうち、日本発のゲームは野球の「パワフルプロ野球」、モータースポーツの「グランツーリスモ」の2種目があります。ゲーム会社は、IOCが大会を主催することでeスポーツの認知度が高まることに期待を寄せています。
ゲームを開発した、大手ゲームソフトメーカーの山本竜彦さんは「30年近く作っているわれわれのコンテンツが世界で輝く場を設けられ、幸いだ。野球ゲームをつくると同時に、野球の振興、普及にも貢献していきたい」と話していました。
また、大会では、それぞれの種目を開発したゲーム会社と国際競技団体が連携していて、このうち野球ではゲーム会社とWBSC=世界野球ソフトボール連盟が協力しています。
野球は、オリンピックで2008年の北京大会を最後に、世界的な普及率が低いことなどを理由に実施競技から除外され、東京大会では追加競技として復活しました。
来年のパリ大会では再び外れ、競技団体としてはeスポーツを通じてすそ野の拡大につなげたいねらいです。
WBSCのリカルド・フラッカリ会長は「eスポーツはより多くの若者とファンの注目を集めることができ、より多くの人がリアルスポーツに参加する、非常に大きな動きにつながっていくと期待している」と話していました。
eスポーツ 日本人選手は
eスポーツの野球の競技に出場した森翔真さん(23)は、会社員をしながら、練習に励んできました。
子どものころから野球が好きでしたが、高校で入った野球部では先輩との関係になじめず、一時は学校に行けなくなった時期もあったといいます。
そうした中でも、野球のゲームは続け、2018年から3年間、NPB=日本野球機構などが野球のゲームを使ったeスポーツ大会を開催した際には選手として参加しました。
24日に行われた決勝は日本人選手どうしのたたかいとなりましたが、森さんは、コントローラーをたくみに操作して、ホームランを連発し、得点を重ねて、優勝を果たしました。
森さんは「小さいころから野球が好きで、大変な時期もありましたが、ゲームに助けられてきました。これまでの努力が報われて感無量です。このまま、eスポーツが将来のオリンピックで採用されたらすごくうれしいです」と話していました。
IOC委員「われわれはかかわる必要がある」
IOC=国際オリンピック委員会は、eスポーツを将来の大会競技として検討しています。
IOC委員でeスポーツを担当する、ダビド・ラパルティアン氏はNHKの取材に対して、「われわれにはさまざまな目標がある。まず、観客を若返らせ、若い世代がいる場所にすることだ。デジタルプラットフォームを使い、身体活動との橋渡しをすることで人々がより多くのスポーツをできるようにする」と述べ、eスポーツを取り入れることで若い世代を取り込みたいというねらいを示しました。
そのうえで、IOCがeスポーツに関与することについて、「eスポーツ業界は巨大で、われわれはこのコミュニティーにかかわる必要がある。IOCが今回のようなイベントを主催することは、われわれがバーチャルもフィジカルも両方できることを示すいい機会だと考えている」と述べました。
一方で、ゲーム依存など、指摘されている課題への対処については「議論しているところだ」と述べるにとどまりました。