相続した空き家 どうすればよいか困っていませんか?

相続した空き家 どうすればよいか困っていませんか?
実家を相続したけれど、遠方にあって手入れができない。売却したいけれど、どうしていいかわからない。そんな悩みを抱えた人、多いかもしれません。放置された空き家が全国的な問題となる中、そうした悩みを解決しようというビジネスが広がりを見せています。(経済部記者 三好朋花)

増える空き家

空き家が点在する千葉県内のある住宅街。中には、草木に覆われ、長年放置されたとみられる空き家もあります。

近くに住む人は「このあたりは空き家が本当に多い。住んでいる人が高齢になって施設に入ったりして、住まなくなる。草が生い茂って、鳥が巣をつくってしまうこともある」と話していました。
こうした空き家は景観が悪化するだけでなく、一部が崩れて思わぬ事故につながることもあります。また、空き巣などの犯罪も誘発しかねません。

放置された空き家は全国的な問題となっています。こうした中、空き家処分の“困りごと”を解決しようというビジネスが広がっています。

家財も“まるごと”買い取ります

訪れたのは、千葉県茂原市にある中古の戸建です。
白く塗りなおされた外壁に、真新しいフローリングやたたみ。キッチンや浴室などの水回りは新品に入れ替えてあります。

中古住宅の再販会社が扱う、いわゆるリノベーション物件です。

会社によると、この住宅は60代の売り主が、両親から相続したものでした。

しかし、ふるさとを離れた売り主がこの家を訪れるのは、年に数回程度。十分な管理ができず、税金の負担も決して軽いものではありません。
売り主は売却を決断しますが、ここで問題となったのが「家財道具」です。家の中には棚やテーブル、テレビといった大型の家財道具などが長年放置されたままでした。

しかし遠方に住んでいるため、処分も簡単ではありません。複数の不動産会社に相談しますが、残された家財道具が多いことを理由に引き取り手がなかなか見つからない中、この会社から「家財ごと引き取る」という申し出を受け、売却を決めたということです。

実はこの会社が強みにしているのは、こうした家財も含めた中古住宅の“まるごと買い取り”です。
今野課長
「空き家を売りたい方が日に日に増えていると実感する一方で、『荷物をどうしたらいいのか』といった声も届いています。遠方に住んでいて荷物の処分ができないような売り主にも、こちらから荷物も大丈夫ですよとアプローチをかけることで、すごく助かるという声を多くいただいてます」

家財の処分が負担に

国土交通省が2019年度に行った空き家に関する調査では、所有者が空き家にしておく理由として最も多かったのは「物置として必要」という回答で、60%を占めました。
残された家財の置き場がなかったり、家財の処分が負担になっていることが推察されます。

この会社でも、年間の買い取り物件の3割が荷物も含めた“まるごと”買い取りとなっているということです。
今野課長
「住宅資材の値上がり、新築住宅の値上がりで、中古住宅の需要は年々高まっています。家財処分は、コストや時間ともに負担が大きいが、不要物も買い取ることで売却に踏み切れる人もいるのではないでしょうか」

“古い田舎の空き家”は売れない?

空き家の売却を支援しようという取り組みは、このほかにも広がっています。

千葉県に住む男性は去年、石川県の能登半島にある築80年を超える平屋の実家を売却しました。
父親が亡くなって実家を相続して以来、能登と千葉を行き来する2拠点生活を10年ほど送りました。

しかし、自身が高齢になり、移動が負担になったうえ、東京に住む子どもたちもこの家の相続を望みませんでした。このままでは放置空き家となり、子どもや地域に迷惑をかけることになる。

家の売却を決断した男性は当初、自治体の空き家バンクに登録しました。しかし、築年数が古いことに加えて、実家の周辺は過疎が進んでいることもあってか、反応はほとんどなし。

あきらめかけていたときに、男性はあるサービスを知ります。

交渉は個人どうしで

男性が利用したサイトです。このサービスは、物件を売りたい人と、探す人が不動産会社を介さず直接やりとりできるのが特徴です。
売りたい物件、買いたい物件の情報を書き込むのも自分自身。双方が直接やりとりを交わしながら売買につなげる“マッチング”形式になっています。

それまでネットには不慣れだったという男性も、海に近いことなど実家の良さを書き込み、サイトに掲載しました。

すると、ほどなくして、複数の問い合わせが。このうち、同じ石川県内に住む女性と直接面会を重ね、半年足らずのうちに売買が成立したのです。
実家を売却した男性
「関東や関西に住む人にとっては、セカンドハウスとして使うにも距離が遠く、売却には時間がかかるかなと思っていたのに、短期間で売却できたのは意外でした。先祖からの財産でもあり、長年愛着を持って住んでいた家を手放す寂しさや、なんとなくの後ろめたさはありましたが、家を大事にしてくれる方と運よく出会えてほっとしました」
一方、「自然豊かな環境で歴史を感じられるふるさとのような家を探していた」と話す購入者の女性は、インターネットの検索でたまたまこの家の情報に行き着きました。
その家のある地域に行ったことはありませんでしたが、建物が大切に使われてきたことや、自然豊かな周囲の環境も気に入り、購入を決断。現在は週末を中心に家族で過ごしています。
購入した女性
「直接ひざを突き合わせて交渉できたり、お互いの思いを伝え合うことができるのがこのサイトの一番よかったところです。“こういう土地に住んでみたい”だとか“環境がいいな”と思うところがあったら新しく家を建てなくても、ご縁があったら手に入れることもできるよと友人にも言っています」

やりとりは会社がチェック

このサイトは東京にある企業が運営しています。
ネットへの情報掲載や利用者どうしのやりとりは、トラブル防止のためすべてチェック。売買成立後の法的な手続きは、会社に所属する宅地建物取引士が代行します。

2015年のサイト開設以降、これまで700件を超える契約が成立しているということです。

売却した住宅の用途は、セカンドハウスや店舗、それに趣味の拠点などさまざま。

運営会社の社長は、過去の実績から、どんなに条件の悪い空き家でも、活用の方法や価格交渉しだいで、需要は十分にあると分析しています。
藤木社長
「空き家は売れないという思い込みのせいで、そもそも市場に出回っていない物件が多く、これこそが空き家問題の障壁です。住宅は“ついのすみか”だという考えが今は定着していますが、不動産には資産性がある。そうやってみんなが建物を大事にすれば、日本全体の住宅事情がよくなっていきます」

空き家問題解決の糸口は

総務省の調査によると、全国の空き家の数は2018年時点で全国で849万戸。この20年で1.5倍に増えました。

放置された空き家も増える中、国はことし、倒壊のおそれがあるなど、特に危険性が高くなりそうな物件に対して、税優遇を解除するなど対策を強化しています。
空き家になっている理由はさまざま。思い入れのある実家の処分にちゅうちょしたり、戸惑ったりするのは仕方がないことです。

また空き家処分の経験がないことから「処分に手間がかかる」「どうせ売れない」といった思い込みやあきらめもあるでしょう。

もう一度そうした思いを見直して、住居以外の用途も含めて、空き家を再生する方法を幅広く考えてみることが、空き家問題の解決の糸口になると感じました。
経済部記者
三好朋花
2017年入局
名古屋局から経済部
国土交通省を担当