6月が発生最多 梅雨の食中毒 家庭でできる対策は?

ジメジメする梅雨の時期。調理した食材からちょっと嫌なにおいがしたら気になりますよね。

注意が必要なのが「食中毒」です。
飲食店だけでなく家庭でも食材の管理をしっかりしていないと食中毒が起こってしまうリスクがあります。

どんな食材で起きやすいの?家庭でできる予防策は?

専門家に取材し、ポイントをまとめました。

6月は食中毒の発生が最多

食中毒は5月から8月にかけて増える傾向にあり、厚生労働省のまとめによりますと去年1年間に全国で発生した食中毒は962件で、このうち6月が128件と最も多くなっています。

大学で集団食中毒

今月5日には、東京 八王子市にある大学の食堂で「冷やしタンタン麺」と「冷やしラーメン」を食べた学生13人が体調不良を訴え病院に搬送されました。

保健所は複数の患者の便から「黄色ブドウ球菌」が検出されたことから、食堂で提供された食事が原因の食中毒と断定。

菌はラーメンのトッピングに使用された食材や、調理に使用したシンク、作業台などからも検出されたということです。

家庭でも注意が必要

食中毒に注意が必要なのは飲食店だけではありません。

家庭でも、梅雨の時期は食材の温度管理を徹底しないと、食中毒を発生させるリスクがあるといいます。

例えば、高い室温の中で食材を置きっぱなしにしたり、弁当に水けの出やすい生野菜を入れたりすると、細菌が増殖して食中毒の原因になる場合があります。

食中毒予防の3原則

厚生労働省は、細菌性の食中毒を防ぐ3原則として以下のポイントをあげています。

▽1つ目は、細菌を食べ物に「つけない」。
調理をする前は、食品や手、調理器具を洗うことを徹底する必要があります。

▽2つ目は、食べ物に付着した細菌を「増やさない」。
食品を常温で放置せず、冷蔵庫や冷凍庫で保存すること。
調理したものはできるだけ早く食べて、残ったものは冷蔵庫で保存することで、細菌の増殖を防ぐことができます。

▽3つ目は食べ物や調理器具に付着した細菌を「やっつける」。
食品を加熱する際は、内部までしっかりと火を通すこと。
加熱の目安は中心部を75度以上で1分以上です。

手洗いのポイント

保健所に手洗いのポイントを聞きました。

まず、手を洗う前に、どれほど汚れがついているのか、蛍光塗料を塗った手にブラックライトを照らすと…。

手のひらや甲、爪の間が白く光っていて、びっしりと汚れがついていることがわかります。特に手のひらは、いろんなものを触ったりするため多く付着しています。

手を洗う際には、はじめに水洗いをして汚れを全体的に落とします。その後、洗剤をまんべんなくつけて、手のひら、甲、指の間をしっかりとこすりながら洗います。

続いて爪の間を手のひらでよくこすり、最後に手首も洗って、流水で流します。

もう一度ブラックライトを当てるとほぼきれいに落ちていますが、爪の間や手のひらのしわのある部分には若干汚れが残っています。

このため保健所では、2回の手洗いを推奨しています。

シンクや調理器具は

シンクの内側にも汚れや菌が付着している可能性があるため、調理が終わったあとスポンジなどで洗い流す必要があります。

シンクを洗浄する際は食器を洗うものと分けて、洗浄用のスポンジを使用。家庭用の台所用洗剤をつけてシンク全体をふきます。洗剤の界面活性剤の効果で汚れを浮かせて洗い流すことが目的です。

スポンジ自体も水でぬれて菌が繁殖しやすい状態なので、定期的にお湯や薬剤で消毒することも大切です。

まな板は長く使っていると、傷の隙間に菌や汚れが残りやすくなるので、洗剤でまな板全体を洗って、塩素や熱湯による消毒が有効です。

(八王子市保健所生活衛生課 和田隆課長)
「梅雨の時期は気温が高くなるので細菌が増殖し、家庭でも食中毒が発生する可能性があります。予防の3原則の中でも、一番は菌を増やさないことが重要なので、手洗いや調理器具の消毒に加えて、この時期は特に食品を室内に置きっぱなしにしない、調理したものはすぐに食べることを徹底してほしい」

この時期に多い「細菌性」の食中毒

食中毒の種類としては主に、ノロウイルスなどの「ウイルス性」、カンピロバクターなどの「細菌性」、アニサキスなどの「寄生虫」によるものがありますが、特にこの時期に多いのが「細菌性」の食中毒です。

カンピロバクター

細菌性の食中毒には、卵につきやすい「サルモネラ」や、肉類につきやすい「カンピロバクター」などがあり、特に「カンピロバクター」は、気温が高くなる5月ごろから夏にかけて増えやすく、生の鶏肉が感染源となることが多いということです。

また、「黄色ブドウ球菌」は健康な人の体にも存在していますが、手洗いや消毒が不十分な場合や手荒れや化のうなどから媒介されて食中毒に陥る可能性が高いということです。

食中毒に詳しい東京農業大学総合研究所の五十君靜信 教授は次のように指摘します。

「6月は気候が変わってくる時期なのでどうしても食材の温度管理が甘くなってしまいます。本当に暑くなってくると、皆さん保冷剤を入れるなど対策を取りますが、この時期は中途半端な時期なので、発生が多くなる1つの要因だと思います」

飲食店での対策は

飲食店ではどのような対策をしているのか。

東京・中央区に本店がある飲食店です。

セントラルキッチンで調理したシューマイやえびチリなどの総菜を、都内に6か所ある百貨店や商業施設の店舗に配送しています。

調理を始める前の手洗い。

泡を手の甲や指の間などすみずみにわたらせて、2回洗います。爪の間の汚れを取るためにブラシも使い、最後はアルコールをふきかけて殺菌します。

カットした野菜は丁寧に洗ったうえで、調理に使うスプーンや包丁もそのつど洗浄し、アルコールでの除菌も欠かしません。

最も力を入れて対策しているのは食材の温度管理です。

細菌は温度が20度以上だと活発に増殖するため、室内の温度は年間通じて18度に保っています。

食材に火を通したあと、粗熱をとる必要がありますが、長く放置すると食中毒の原因となる細菌が繁殖するため、この調理場では急速冷却機を導入しています。

マイナス30度で10分ほど冷やすことで、食材の温度を3度くらいまで下げることができ、食中毒のリスクを減らせるといいます。

(「小洞天」 木村優貴 セントラルキッチン長)
「その場ですぐに食べてもらえるレストランと違い、総菜は提供するまでに時間がかかるので、おいしいのはもちろん大事ですが、食中毒が一番こわいので、菌を増やさないようにしっかり冷やして保管して安心して食べてもらえるように徹底しています」

コロナ禍で減少も 再び増加の可能性

ここ数年、食中毒は減少傾向にありました。

厚生労働省によりますと、おととしの食中毒の発生件数は717件と1996年以降、最も少なくなったほか、去年食中毒にかかった患者数も6856人と統計を取り始めた1952年以降最少となりました。

ここ数年、食中毒が減っている要因について専門家はコロナ禍で飲食店の休業が相次いだことや、外食に行く機会が減ったこともあるのではないかと分析しています。

一方、新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが「5類」に移行したことで、外食する機会が増えたり、食品衛生への認識や消毒の意識が甘くなったりして食中毒が増加するおそれもあると指摘します。

(食中毒に詳しい東京農業大学総合研究所 五十君靜信 教授)
「感染症対策と食品衛生対策は必ずしもすべて一致しているわけではありませんが、食中毒の場所として起こる1番多い場所は飲食店関係なので、食中毒が増える傾向になるのではと心配しています。食品の安全対策をどうすべきか事業者がもう一度見直して行うことが重要です」