いじめ防止対策推進法 成立から10年も後絶たず 見直し求める声

いじめの定義を明確化し、学校などの義務を定めた「いじめ防止対策推進法」の成立から21日で10年となります。各地で依然として、深刻ないじめが後を絶たない現状に、法律の見直しを求める声も上がっています。

「いじめ防止対策推進法」は、大津市の男子中学生がいじめを苦に自殺したことをきっかけに、10年前に成立し、
▽いじめの定義について、「被害を受けた子どもが心身の苦痛を感じているもの」と明確化したほか、
▽いじめによる自殺や不登校などの「重大事態」が起きた場合には、教育委員会や学校が調査を行い、事実関係を保護者らに伝えることを義務づけています。

この法律で、学校ではいじめを早期に発見し、解決しようとする動きが広がり、いじめの認知件数は、2021年度に過去最多の合わせて61万5351件となりました。

一方、同じ年度の「重大事態」は705件で、過去2番目に多くなるなど、深刻ないじめは後を絶たず、教育委員会や学校の対応が遅れたり、重大事態として対応しなかったりしたことで、子どもたちが亡くなる事案も相次いでいます。

▽埼玉県川口市の中学校では、いじめを受けたという男子生徒からの訴えがあったのに認められず、3度目の自殺未遂のあと調査が始まりましたが、その途中の4年前に生徒は自殺しました。

▽北海道旭川市では、女子中学生がからかわれるなどしたあと、雨で増水した川に入っても、学校や教育委員会がいじめの「重大事態」として対応せず、女子生徒はおととし、市内の雪の積もった公園で死亡しているのが見つかり、その後、いじめと認定されました。

法律のきっかけとなった大津市のいじめ事案で、息子を失った男性は、現状について、「ここ最近も10年前と変わらないような事件が起きている。法律がしっかり盤石なものにならないと、子どもの命が守られない」として、より実効性のあるものにするため、法律の改正が必要だと話しています。

文部科学省は、今年度から「重大事態」の詳細な報告を自治体に求め、調査が難航した場合は、必要な助言や支援を行うことにしています。

尾木直樹さん「教員の労働環境改善が子どもの命守る」

大津市のいじめ事案で、市が設置した第三者委員会の委員を務めた教育評論家の尾木直樹さんは、いじめ対策に実効性を持たせるためには、教員が余裕を持って子どもたちに向き合えるような環境を整備すべきだと指摘します。

尾木さんは「学校現場が今のように忙しくて、さまざまなことが、どんどん詰め込みで入ってくるような状況では、教員の余裕は生まれず、目の前の子どもたちの心が見えずに、いじめ対応もおざなりになってしまう。だからこそ、労働環境の改善は喫緊の課題で、その解決が、子どもの命を守ることにもつながる」と話していました。

また、国は、いじめ対策に取り組む自治体に対し、財政面も含めたサポートを行うことが重要だとしています。

そのうえで、尾木さんは「いじめそのものをなくすことは難しくても、子どもの命に関わるような、深刻ないじめをゼロにすることが重要だ。初歩的なことだが、学校や教育委員会がいじめ防止対策推進法の趣旨をしっかりと理解していないケースもあるので、子どもたちをいじめから守るためにも、すべての教員が、法律の趣旨を研修などを通じて繰り返し学び、身につけることが重要だ」と訴えています。

いじめ問題など 相談窓口

文部科学省などは、いじめ問題などの相談窓口を設置しています。

「24時間子供SOSダイヤル」0120-0-78310です。