極端な安売りスマホ 総務省が新たなルール検討

スマートフォンを1円など極端な安値で販売するケースが広がる中、総務省の有識者会議は、規制の強化に向けた報告書案をとりまとめました。現在、規制の対象となっていない端末の販売についても値引きの上限が設けられることになります。

「1円スマホ」過剰な値引き 総務省が規制の強化

総務省は、スマートフォンの過剰な値引きが携帯電話料金の高止まりにつながっているとして、2019年法律を改正し通信契約とセットで端末を販売する場合は、値引きは税抜きで2万円までとする規制を設けています。

しかし、端末の販売を明記した形で規制が設けられていないことから、販売店では端末の販売価格に対して上限のない値引きが行われ、「1円スマホ」の販売が行われていました。

こうしたなか、総務省の有識者会議は、20日の会合で規制の強化に向けた報告書案をとりまとめました。

過剰な値引きを防ぐための規制強化の案とは?

【端末の販売にも値引きの上限を設ける】
このなかでは、▽セット販売以外の販売方法も規制の対象とし、端末の販売についても値引きの上限を設けるとしています。

【値引きの上限を2万円から4万円に引き上げ】
そのうえで、▽端末の価格が上昇傾向にあることなどから、値引きの上限をこれまでの2万円から4万円に引き上げるとしています。

総務省は、パブリックコメントなどを経て年内に省令を改正する方針です。

端末の過剰な値引きをめぐっては、公正取引委員会がその背景に携帯大手各社による販売店への厳しいノルマがあるとして監視を強化しています。

今回の規制の強化が本来の目的としている携帯電話料金の値下げにつなげるために、携帯大手各社は料金プランのさらなる見直しも求められることになります。

「1円スマホ」いまの規制の網をくぐる形で広がる

数万円から10万円を超える価格の端末を1円で販売する「1円スマホ」は、いまの規制の網をくぐる形で広がってきました。

現在の規制は、2019年に改正された電気通信事業法によって決まりました。規制の対象は、回線の契約と端末の購入をセットで行う場合です。このセット販売では、値引きが税抜きで2万円までと制限されています。

しかし、その一方でセット販売以外については、規制の中で触れられていませんでした。これが規制の抜け穴になっていたのです。

1円スマホは、新規の回線契約や他社から乗り換える契約を結ぶことを条件に「セット販売」しているのが実態です。セット販売の2万円の上限を守りながら、これとは別に規制の対象とはなっていない端末の販売として上限のない値引きが行われていました。

例えば10万円のスマートフォンの場合、
▽セット販売として上限の2万円を値引きし、
さらに、▽端末の販売として7万9999円を値引きし、販売価格を1円としています。こうした販売方法はいまの規制では法律違反とはなりません。

一方、値引きした分の負担については、大手携帯電話会社が奨励金などの形で販売店に支払うことで、事実上の負担をしているという指摘があります。大手携帯電話会社としては、新規の契約につながるメリットがあるからです。

ところが、このところは端末の転売を目的に、回線契約の乗り換えを繰り返しながら1円スマホを購入し続ける「転売ヤー」と呼ばれる人たちが目立ってきました。
さらに、長期で回線を契約している人たちが間接的に値引き分を負担しているという批判も多く、大手携帯電話会社の間からも、1円スマホの規制の強化を求める声があがっていました。

新たな規制で端末は上限のない値引きができなくなる

新しい規制では、現在の規制で明記されていなかった端末自体の販売にも値引きの上限が設けられることになります。

値引きの上限を現在の税抜き2万円から4万円に引き上げたうえで、セット販売や端末だけの販売に関わらず、全体で4万円の値引きが上限となります。これによって、セット販売の値引きの上限の2万円とは別に、端末の販売として上限のない値引きができなくなります。

NTTドコモ「過度な値引き競争の収束に有効」

総務省の有識者会議がスマートフォンの端末の値引きを規制する報告書案をとりまとめたことについて、
NTTドコモの大橋一登料金企画室長は、取材に対し、「現在のルールでは端末を頻繁に変更する人とそうでない人との不公平を助長するという問題がある。今回、総務省から示された見直し案は、われわれが昨年から要望してきた通信契約を条件としない端末の値引きも含めてルールを決めるということで、過度な値引き競争の収束に向けて有効な方向性だと思う」と述べ、期待を示しました。

そのうえで、「健全な市場環境という意味では決められたルールの中で、適度に、バランスのとれた値引き幅で競争するのが望ましい。ルールの見直しによって、お客様どうしの不公平感や転売といった新たな社会問題が解消し、社会やお客様のためになると思う」と話しています。

専門家「すべてに規制をかけるのは難しく、抜け穴もある」

携帯電話の事情に詳しい調査会社のMM総研の横田英明副所長は、規制の背景には1円スマホが高値で転売されてきたことがあるとしています。
横田さんは、「転売する人は、1円の端末を購入し中古の販売店や海外などで売却して、その利ざやを稼いでいる実態がある」と指摘しています。

携帯電話会社はこうした転売を防ぐため1人1台しか買えないようにするなどルールを設けていますが、他社に乗り換えることで別の端末を購入することができる状況になっているということです。

そのうえで「1円で端末を販売するには、割引の原資が必要だが、1円端末と関わりがない長期で通信契約をしている一般ユーザーが負担することになってしまう」と述べ、最終的には利用者にしわ寄せがいくと指摘しています。

一方、携帯電話会社が大幅な値引きをやめられないことについて横田さんは、「ある意味チキンレースで、1社が1円端末を販売し他の3社がやらないと、ライバルにユーザーが流れてしまう。もうからないので、できればやめたいという思いも強い」と話しています。

こうした中で、今回の規制強化については、販売する際に端末の下取りの価格を不当に高く設定した場合、規制の範囲内で1円スマホの販売ができる可能性があるとしています。横田さんは、「ルールが制定されたら、しばらくの間はなくなるとは思う。ただ、すべてに規制をかけるのは難しく、抜け穴もあるため、今後、販売台数が落ちていくと、1円端末が再び市場に出回る可能性は否定はできない」と話しています。