ウクライナ反転攻勢 現地の専門家は 別府キャスターが聞く

ウクライナの専門家は、ウクライナ軍の反転攻勢について、現状や今後をどうみているのか。
ウクライナ国内にいる元国防省高官、そして政府系シンクタンクの防衛アナリストに、「キャッチ!世界のトップニュース」別府正一郎キャスターがオンラインで聞きました。

(6月19日放送 動画は11分52秒 データ放送ではご覧になれません)

ウクライナ国防省 元主任補佐官 オレクシー・メルニックさん

ウクライナ空軍の元パイロットで国防省で主任補佐官も務めた、オレクシー・メルニックさん。
反転攻勢を軍事的な観点から分析しました。

Q.進行中の反転攻勢についての質問から始めます。
ウクライナ当局からは、いくつかの集落の奪還に成功したという発表が聞かれるようになりました。反転攻勢は今どの段階にありますか?

A.現状では、反転攻勢は依然、初期的な段階にあります。ただ、準備のためのいわゆる「形成作戦」は、少なくとも数週間前から始まっていたと言えます。

どこを奪還するか

Q.去年11月、ヘルソンでは解放されて喜ぶ市民の姿がありました。しかし、そのような光景を私たちは今回、まだ見ていません。今回の反転攻勢では具体的にはどの都市の解放が目標ですか?

A.私たちは、今後、励みになるような光景を見ることができると信じています。なぜなら、まだ分かりませんが、メリトポリ・マリウポリ・トクマクなどの都市が今後解放される目標だと考えられます。最高司令官と指導部が、主たる攻撃地としてどこを選ぶかは、大きく注目されます。東部の都市の1つ、たとえばドネツクになる可能性もあります。

理想のシナリオは

Q.反転攻勢が達成できる最善の結果、理想的なシナリオはどのようなものですか?

A.とても野心的な目標は、ウクライナの部隊がアゾフ海沿岸に到達し、ロシア軍が占領している地域を2つに分断することです。この目標が達成できれば、作戦は大成功だ言えます。もしクリミア半島をロシア本土から孤立させることができれば、新たな状況が生まれます。ロシアは国際社会との外交的、政治的な交渉を検討せざるをえなくなるでしょう。といいますのも、クリミア半島の西側と半島内に封じ込められたロシア軍の敗北を避けなければならなくなります。この戦争は新たな局面を迎えるでしょう。

作戦上のリスクは

Q.しかし、ロシアの占領地の中間にできる解放地は、両側から挟み撃ちにされるリスクがあるのではないでしょうか?

A.はい、そのとおりです。
そのリスクが、反転攻勢の作戦計画の段階、そして作戦の実行段階でも十分検討されただろうと、私は確信しています。しかし、重要な点が1つあります。それはもし作戦が成功すれば、西側のロシア軍への物資の補給が遮断されるということです。そこにいるであろう数万人のロシア軍兵士は、食料や燃料、それに弾薬の補給が受け取れずに、非常に困難な状況に陥ります。その結果、彼らはおのずと、死か降伏かの選択に直面することなるのです。

懸念されるロシア側の動き

Q.一方で、この反転攻勢の悲観的で最悪のシナリオは何でしょうか?

A.最悪なシナリオということで、私があえて言いたいのは、ロシアが再び非常に危険な行動に出ることです。例えば、ご存じのように、ロシアはカホウカダムを爆破して、甚大な人災を引き起こしました。ウクライナには、非常に危険な攻撃の対象がたくさんあります。その1つがザポリージャ原子力発電所です。またロシアが戦術核兵器を使用する危険もあります。そういったことが最大の問題になる可能性があり、私が最も恐れていることです。

F16戦闘機 供与は待たず

Q.元空軍パイロットとして、この反転攻勢がF16戦闘機の供与を受ける前に始まったことは、どれほど残念なことですか?

A.やはり時間的な制約があるのです。F16戦闘機が、ウクライナ兵によって最初に展開できるようになるまでには4か月から6か月はかかると見られています。今は6月ですから、4か月後には季節は秋になってしまいます。もしF16が出撃するのを待っていたら、秋になってしまいますが、そうなれば、ウクライナでは雨の季節になり、そして冬が来ます。反転攻勢の成功はないか、成功の可能性は低くなってしまいます。

夏が終わるまでに

Q.反転攻勢はできるだけ夏の間に行って、9月以降の雨季が始まる前にできるだけ進めるべきだと言うことですね?

A.あなたがウクライナでかなりの時間を過ごしたことは知っていますので、ウクライナの秋や冬がどのようなものかはやはりよくご存知ですね。ウクライナの地面の条件は悪化し、戦車が進むことができなくなるし、場所によっては歩くことさえもままならなくなります。その上で、冬にはマイナス10度、時にはマイナス30度にもなるウクライナでは、兵士を単に屋外に配置させておくだけでも大変困難です。ですから、あなたがおっしゃったように、そうした好ましくない気候になる前に、最大限の成果を達成するよう、最善を尽くさなければならないのです。

政府系シンクタンク 防衛アナリスト ミコラ・ビリスコフさん

ウクライナの反転攻勢を支えているのは欧米からの支援です。
その支援を受け続けるためにもウクライナはアメリカをはじめとしたNATO加盟国との関係を重視しています。

政府系シンクタンクの防衛アナリスト、ミコラ・ビリスコフさん。
反転攻勢を続けるウクライナが置かれた状況を外交の観点から分析します。

Q.率直に言って、支援諸国が戦況に対してあまり辛抱強くないと懸念していますか?

A.その点は、たしかに問題になっています。ウクライナとロシアの戦争に限らず、世界の政治では結果がすぐに求められます。

支援する国々の期待の中で

Q.来年のアメリカの大統領選について、ウクライナの指導部はどの程度、懸念していると思いますか?
野党共和党の主要な候補はすでにかなり性急なようです。たとえばトランプ氏は「自分ならば戦争を24時間で終わらせられる」と言っています。

A.まさにそれが、反転攻勢を始めた理由の一つです。本来ならば、守りに徹し、ロシアを消耗させ、武器支援を待つのが理想です。しかし、残念ですが、そんな理想的な世界に私たちはいません。何よりも、戦闘が続いているのは、ロシアの領土ではなく、私たちの領土なのです。私たちが活発に行動している理由の一つは、まさに来年のアメリカ大統領選に向け、ウクライナが成功し、勝者であることを証明する必要があります。トランプ氏をめぐってはさまざまな議論はあれども、彼も勝ち馬に乗るのが好きな人であることはみんな知っていることです。もっとも、幸運なことにアメリカは民主的な共和国で、権力はさまざまな政府機関に分かれています。確かに外交政策という点ではアメリカ大統領は最も重要な人物ですが、議会のコントロールもあります。

来月にはNATO首脳会議

Q.来月のNATO首脳会議では、ウクライナ政府にとって満足のいく結果になると思いますか? それとも、落胆する覚悟はすでにできていますか?

A.ウクライナの大統領が、戦争の当事国が即座にNATOに加盟できないことを理解していることは、彼がこれまでに行っている声明を見ても明らかです。ただ、私が言えることは、「ウクライナの安全保障が、NATOへの加盟により強化される必要がある」という点では意見は分かれていますが、「さまざまな手段によって強化される必要がある」という点では共通認識は得られているということです。

ベラルーシへの戦術核 配備

Q.ロシアが戦術核をウクライナの隣国のベラルーシに配備するという最近の動きをどう見ていますか?

A.私たちは、それをポーランドなどのNATO諸国に対するロシアの脅しの新たな試みと捉えています。ただ、核の脅しは、すでに何回も繰り返され、いわば「脅しのインフレ」が起きています。この結果、脅しの効果はますます減少しています。西側の特に専門家は、ロシアの脅威を相手にしなくなっています。

専門家のインタビューからは奪われた国土を取り戻し、占領下にいるウクライナの国民を救いたいという、ウクライナの焦りも伝わりました。
大規模な反転攻勢は戦争の構図そのものを変える重大な可能性をはらみながら、動きだしています。