日銀 植田総裁「株高の背景は企業の高収益」【会見の詳細も】

日銀の植田総裁は、16日の記者会見で日経平均株価が33年ぶりの高値を更新するなどこのところの急速な株価の上昇にバブルの兆候がないかと問われ「企業収益が高い水準にあることが株高の背景だ」という認識を示しました。

(記事の後半では、会見での発言についても詳しくお伝えします)

この中で植田総裁は、このところの急速な株価上昇についてバブルやその兆候があると考えていないかと問われ、「株価の動きや水準について具体的にコメントすることは差し控えたい」と述べました。

その上で、いまの株高について、「日本が比較的堅調な成長を続け、企業収益も高水準で推移すると予想されていることが、大きな原因ではないか」という見方を示しました。

また、株式など資産価格の上昇が消費や設備投資にプラスの影響を与える可能性もあるとした上で、「行き過ぎるとある種の金融的不均衡につながり将来マイナスの影響を及ぼすリスクもあるので、注視していきたい」と述べました。

さらに、日銀が金融緩和を続けていることがどの程度、株価上昇に影響しているのかと問われ、「理論的には金融緩和で金利が低い状態は株にとってはプラスの影響をもたらす要素だ。ただ金融政策は動いていないので足元の株高の要因は、経済や企業収益の見通しが大きいと思う」と述べました。

一方、植田総裁は、消費者物価の上昇率が日銀が目標とする2%と比べて大きく上振れているとして「これが国民の大きな負担になっていることは強く認識している」と述べました。

ただ、物価を下げるために金融引き締めを行えば経済を冷やすことになり、そのことによるマイナスのほうが大きいという認識を示しました。

【会見の詳細】

会見冒頭「長短金利操作を含めて現状維持」

植田総裁は冒頭、16日の決定内容について「長短金利操作を含めて現状維持することを全一致で決定しました」と述べ、いまの大規模な金融緩和策の維持を決めたことを明らかにしました。

長短金利操作「ある程度のサプライズやむを得ない」

植田総裁は、今の大規模な金融緩和政策の柱である長期金利と短期金利を操作する長短金利操作=イールドカーブ・コントロールの修正の考え方について問われ、「政策の効果と副作用について、きちんと比較考慮しつつ、政策を決めていく。1つの決定会合から次の決定会合の間に、さまざまな新しいデータや情報が入ってくるので、それに基づいて前回と違った結果になるということも含めてある程度のサプライズが発生するということも、やむを得ないというふうに思っている」と述べました。

金融政策「速やかな正常化にはリスクも」

消費者物価は日銀が掲げる2%の目標を上回る水準まで上昇していますが、日銀は粘り強く金融緩和を続ける方針です。

これに関連して植田総裁は、「速やかに金融政策を正常化した場合、2%の物価安定目標を十分達成する前にインフレ率が下がってしまうリスクがある」と述べました。

その上で「インフレ率がオーバーシュート=行き過ぎてしまう場合と、目標を達成せずにインフレ率が下がってしまう場合、それぞれにどのような対応ができるか比較考量すると、物価の目標を達成せずに下がったときの方が難しいと今は判断している」と述べました。

物価が目標を上回っても当面は金融緩和を続けることが適切だという認識を示した形です。

資産価格の上昇「行き過ぎるとリスクも」

植田総裁は株価など、足元の資産価格の上昇について、「根底に日本経済の将来の見通しが改善している、あるいは企業収益の見通しがよくなっているこということがあるとすると将来のそういう姿を先取りして株が動いているということなので、将来よいことが起こるという可能性はあるのだと思う。株ないしその他の資産価格の上昇が一部消費、あるいは設備投資にプラスの影響を与える可能性もあるかと思う」と述べました。

その上で、「ただしもちろん行き過ぎるとある種の金融的不均衡につながって将来どこかでマイナスの影響を及ぼすというリスクもあるわけなので、注視していきたい」と述べました。

株価上昇「企業の高収益が大きな原因」

植田総裁は、日経平均株価が33年ぶりの高値を更新するなどこのところの急速な株価上昇はバブルではないかという指摘があると問われ、「申し訳ないが株価の動きや水準について具体的にコメントすることは差し控えたい」と述べました。

その上で、いまの株高について「日本が比較的堅調な成長を続け、企業収益も高水準で推移すると予想されていることが大きな原因ではないかと思う」と述べました。

そのうえで、日銀が金融緩和を続けていることがどの程度、株価上昇に影響していると思うかという質問には「理論的には金融緩和で金利が低い状態は株にとってはプラスの影響をもたらす要素だ。ただ金融政策は動いていないので足元の株高の要因は、経済や企業収益の見通しが大きいと思う」と述べました。

円安「具体的なコメントは控える」

外国為替市場で円相場が再び、1ドル=140円台の円安水準になっていることについて植田総裁は「為替の水準や変動理由、その評価について具体的にコメントすることは差し控える」と述べました。

その上で「円安でプラスの影響を受けるセクターとマイナスの影響を受けるセクターとさまざまだが、いずれにせよファンダメンタルズ=経済の基礎的な条件に沿って為替レートが安定的に動いていくことが重要だ」と述べました。

物価高「国民の大きな負担と強く認識」

植田総裁は、足元の物価高について「ヘッドラインのインフレ率は3.5%ということで、文字どおり2%のインフレ目標と比べれば大きく上振れているわけで、これが国民の大きな負担になっていることは強く認識している」と述べました。

その上で、「ただ、この原因は海外発のコストプッシュインフレーションでそれは日本の金融政策で直接どうこうするということはなかなかできない。インフレを是が非でも下げたいということであれば、ものすごい金融引き締めをして金利を上げて、経済を冷やすということは考え得るわけだが、それはそのことによるマイナスのほうが大きいととらえている」と述べました。

物価「下がり方 やや遅い」

日銀の植田総裁は、物価は、今年度半ばにかけて上昇率が縮小していくという見方を示しています。

これについて、記者会見で「このところ出てきたデータを見ると、今は、下がってくる局面にあるが、下がり方が思ってたよりもやや遅いかなという感触は持っている」と述べました。

その上で、先行きについては、「まだ下がっていく局面が始まったところにある段階だと思っている。この先、年度半ばにかけてさらに下がっていく。その段階で、4月の見通しよりも上ぶれたまま推移をするのか、今までやや上振れていた部分がなくなる形で急速に下がってくるのか、そこは不確実性が高い」と述べました。

物価の先行き「不確実性は極めて高い」

日銀の植田総裁はあしもとの物価について、「コストプッシュの影響は徐々に減衰して、今年度半ばにかけて物価上昇率のプラス幅は縮小していくとみている」と述べました。

一方「企業の価格設定行動は変化の兆しも見られていると思っている。注目してみている」と述べ、企業の値上げの動きに注目していく考えを示しました。

その上で、物価の先行きについて「企業の価格設定や賃金引き上げの影響含め、不確実性は極めて高いと考えている。具体的にどの程度の見通しになるかについては次回、7月の展望レポートで数値的な見通しを出すことになる。丹念に精査していきたい」と述べました。

値上げ・賃上げ「設定行動に変化が見られる」

植田総裁はこのところの企業の値上げや賃上げの動きに、「変化が見られる」という見方を示しました。

植田総裁は「企業はこれまでは同業他社が価格を上げないのではないかと懸念して我慢してしていたが、自分が上げて他社も上げるだろうとなった。賃金をめぐっては他社が上げている中で自分も上げないと、労働者を雇うことができないとなった。企業の賃金や価格の設定行動に変化が見られつつある。こうした動きは非常に重要なものだ」と述べました。

一方で、「こうした動きがどの程度持続するかについては非常に不確実性が高い。さらなるデータや情報の収集に加えて私どもの中でも少し分析を深めて長期的に続く動きなのかどうか認識を深めたい」と述べました。

「25年間の金融緩和政策のレビュー 専用ページで掲載へ」

植田総裁は、4月の決定会合で1990年代後半以降の金融緩和政策の多角的なレビューを実施すると表明しました。

これについて「まずは過去25年間に実施してきた非伝統的金融政策の効果について、副作用も含めて金融市場や金融システムに及ぼす影響を分析したいと思う。レビューでは多様な知見を取り入れつつ、客観性や透明性を高める観点から、日銀内での分析だけでなくさまざまな取り組みを行う。来月中をめどに日本銀行のウェブサイトの中に 多角的レビュー専用のページを設け、順次掲載していくことを考えている」と述べました。