先物主導で株価上昇?海外投資家はどう動いた?【経済コラム】

株価の上昇が続いています。16日の東京株式市場で日経平均株価は3万3706円で取り引きを終え、終値としてバブル期以来、33年ぶりの高値を更新しました。この株高の原動力となっているのが海外の投資家。その取り引き手法をめぐって「先物主導」「先物から現物に移った」などという声も聞こえてきます。海外の投資家はいったいどう動いているのか取材しました。(経済部記者 斉藤光峻)

海外投資家の売買額は先物が現物を上回る

東京証券取引所によると、6月5日から9日までに東京と名古屋の証券取引所で海外の投資家が株式を買った額は、売った額を9854億円上回り、11週連続の買い越しとなりました。

買い越しが11週続いたのは2013年1月以来、10年5か月ぶりです。これは株式と売買代金を受け渡すいわゆる「現物取引」の金額です。

一方、海外の投資家は、日本株に関連した「先物取引」も活発に行っています。日本取引所グループが取り扱う「日経225先物」と「TOPIX先物」が主な投資対象です。

6月5日から9日までの期間、この先物取引の金額も4315億円の買い越しとなりました。

それでは海外の投資家が日本株を売買した金額は現物と先物のどちらが多いのか。5月のデータをみると、現物は115兆円、先物は259兆円となっています。

なぜ先物が現物を大きく上回っているのか。

理由の1つは、取引の単位が大きいということです。例えば、「日経225先物」の取り引きの1単位は、日経平均株価の1000倍です。日経平均株価が3万円だとすると、日経225先物は3000万円を1単位として取り引きします。このように取り引き1つ1つの金額が大きいため、売買額も膨らむこととなります。

2つ目の理由は、元手が少なくても多額の売買ができることです。担保として証券会社に証拠金を差し入れると、この何十倍もの大きな金額を動かすことができます。これを「レバレッジをかける」といいますが、こうした先物取引ならではの特性が売買金額を大きくしています。

なぜ急ピッチで日本株が買われるのか

それではこの「先物取引」がなぜ今の海外投資家のニーズにあっているのか。

みずほ証券の三浦豊シニアテクニカルアナリストは、その背景には「乗り遅れることへの不安」とでもいうべき心理状態があると指摘します。

みずほ証券 三浦豊シニアテクニカルアナリスト

いま、世界では日本株に注目が集まっています。

欧米と比べてコロナ禍からの回復が遅れていた日本経済。インバウンド需要が拡大し、賃上げの流れも生まれつつあります。

企業の業績も好調。“投資の神様”ウォーレン・バフェット氏も日本株を買い増す考えを示しました。

そして東証も市場での評価が低い企業に改善を促しています。

これからいよいよ本格的な回復に向かうのではないか。そう考えた海外の投資家が「日本株を買わないで乗り遅れることへの不安」を感じ、急ピッチで日本株を投資先に組み入れているのではないか。

そこで手っ取り早く日本株を買うために、短期的な売買を行う海外のヘッジファンドなどが、少ない元手で大きな取引ができる「先物」に目を向けている。

三浦さんはこう解説します。三浦さんが注目するのは、ことし4月以降、6月に至るまで、海外の投資家が先物(「日経225先物」と「TOPIX先物」)を買い越していることです。

この2か月余りの先物の買い越し額は2兆3800億円。現物は同じ期間で5兆5300億円を買い越しています。

このように現物と先物がいずれも買い越しだった時期としては、アベノミクスの初期のころ(2012年12月から2015年夏にかけて)があります。このときも海外の投資家が日本株を買う姿勢を強め、株価は大きく上昇しました。

ただ、グラフを見るとわかるように、このときは現物の取引額が先物を圧倒していました。

みずほ証券 三浦豊シニアテクニカルアナリスト
「4月以降、海外の投資家は日本株の指数先物を買い越しているが、その規模は、株高が続いたアベノミクスの初期のころを大きく上回っている。アベノミクス初期には海外の投資家は日本株の現物を中心に買っていたが、最近では先物を買う動きが目立っている。この結果、先物が主導する形で現物の株価が上昇するという流れになっている」

日経平均株価とTOPIXの特性の違い 海外の投資家はどう動いた?

海外の投資家は日本株に関連する先物をどのように買っているのか。

複数の市場関係者が指摘するのは、海外投資家が日本株を一気に買い増す場合、流動性が高い「日経225先物」を買う傾向があるということです。

「日経225先物」は日経平均株価を対象とした先物取引です。日経平均株価は、構成銘柄の株価を単純平均して算出するという特性から、株価水準が高く値動きの大きな、いわゆる「値がさ株」の影響を受けやすいことで知られています。

一方、2100を超える銘柄で構成されるTOPIXをもとにした「TOPIX先物」は、時価総額が大きな大型株に影響されやすいという特徴があります。

こうした日経平均株価とTOPIXとの特性の違いに着目した「NT倍率」という指標があります。日経平均株価をTOPIXで割ったもので、この数字が高いほど日経平均株価の上昇率がTOPIXのそれより大きいことになります。

NT倍率は5月以降急激に上昇し、6月に入ってやや緩やかな上昇カーブとなっています。

これについて野村アセットマネジメントの石黒英之シニア・ストラテジストは、次のように話しています。

野村アセットマネジメント 石黒英之シニア・ストラテジスト
「東京証券取引所が市場での評価が低い企業に改善を促したことで、市場では企業の改革への期待が高まっていたが、5月の決算発表の場で企業が株主への還元策として自社株買いなどを行う方針を示したことで、海外の投資家が日経225先物を買う動きを強めたのではないか」

現物の売買代金も拡大

一方、現物株の売買の動きも活発になっています。

株価が本格的な上昇を始めたことし3月下旬、東証プライム市場の1日当たりの売買代金は2兆円近くから3兆円台後半で推移していましたが、6月については、3兆円台半ばから5兆円台後半まで拡大しています。

市場では、海外の投資家が先物だけでなく現物株を買う姿勢を強めているのではないかという見方もあります。

先物主導 過去には急落のケースも

ただ、気になる指摘もあります。

先物主導で株価が急上昇した場合、突然、株価が急落することがこれまで何度も見られたということです。

この先、株価はどこまで上昇するのか。何かをきっかけに急落するリスクもあるのか。

海外投資家が先物市場でどのような動きを見せるのか引き続き注意してみていく必要があります。

注目予定

来週22日にはインフレ率が40%近いトルコの中央銀行が政策金利を発表します。

トルコのインフレ対策をめぐっては、「高い金利は経済を冷やす」と主張するエルドアン大統領の意向に沿う形で、物価上昇が続く中でも中央銀行が「利下げ」という異例の対応を継続してきました。

こうした中、トルコ中央銀行では初の女性総裁となるエルカン新総裁が就任しました。

最初の金融政策を決める会合でどのような判断を示すか注目です。