カタツムリ 最近見ないの なんでなん?

梅雨の生き物と言えば、カタツムリ。
最近、見かけましたか?

実は今、絶滅のおそれもあるんです。
背景には、とってもせつない事情が。
それを知れば、あなたにもカタツムリへの愛が芽生えるかも。

(大阪放送局なんでなん取材班 井上紗綾 井手遥)

最近見ましたか?

大阪の公園でカタツムリについて尋ねました。

「子供のころはほんまに登下校の時に石垣の所にひっついていたけど、最近あまり見かけない」(30代)
「幼稚園のときに遠足で見たのが最後」(小学生)
「妻と散歩に来るんですけど、最近見ぃひんなったなって、ちょうど話してたところ」(50代)

皆さん同じような答えでした。
たしかに、最近見ていないですよね。
「子供のころは、梅雨の時期にあちこちにいたのになあ」と懐かしがる様子も。

関西の半数以上が絶滅のおそれ!?

実はカタツムリのなかまは、亜種なども含め、日本国内でおよそ1000種類います。

関西には200種類ほど生息していますが、そのうちの半数以上の116種類が絶滅のおそれがあるとされています。

衝撃的な数字です。

カタツムリいなくなっちゃうの?
危機感を覚えた私たち取材班が訪ねたのは研究を続けて55年の“カタツムリ博士”。
滋賀県立琵琶湖博物館の中井克樹 特別研究員です。
中井先生によると、カタツムリが減っている背景には、カタツムリが好む落ち葉がたくさんある場所やしめった土壌が減っていることがあるといいます。

(中井先生)
「地面をはい回る種類にとっては落ち葉のカバーがとても重要。活動していないときに安心・安全に休める場所が残っているかが大切です」
高度経済成長期以降の宅地開発などにより、カタツムリが好む場所はだんだん失われて建物や道路などに変わり、カタツムリが安心して住める場所が減ってきたというのです。

緑は戻りつつあるのに…

一方で、最近は環境意識の高まりから、緑を植えようという動きが活発になっているはず。

都市公園などの面積が10年間で1割ほど増えているというデータも。

カタツムリが住みやすい場所も少しずつ増えているのでは?

(中井さん)
「緑豊かな環境が戻ってきても、いったんその場所からいなくなったカタツムリが別の場所から自力で入り込むことはなかなかできないんですよ」

え?せっかく住みやすい場所ができたのに?
どういうこと?

そもそもカタツムリは体から出す粘液を使って移動します。
その粘液を保つためには湿った環境が必要です。
乾いたアスファルトの上では、体の水分が奪われるため、移動するのはとても危険。

緑のある公園が増えたとしても、道路などで遮られていると、新たな公園に移って「すみか」とすることは難しいのです。

今いる場所でがんばります

住みやすい環境を求めて移動する生き物はたくさんいますが、カタツムリにはそれができません。

(中井先生)
「移動はできないし、したくもないでしょうね。いまいる場所はそれまで無事に過ごせた安全な場所だからあまり動きたくないんですよ」
今いる場所で、一生懸命、生きていく。
それがカタツムリの生き方。
環境と運命を共にするしかありません。
いったん「すみか」が失われると、そこにいたカタツムリはもう戻ってこないのです。

さらに、コンクリートやアスファルトなどが増えると、街全体の風とおしがよくなって、乾燥が進みます。

そうした街の乾燥が都市部で生きているカタツムリの命を脅かしていると指摘する専門家もいます。

私たち人間にとっては小さな変化ですが、カタツムリにとっては命にかかわる問題です。

カタツムリはどこにいる?

街なかですっかり見なくなったカタツムリ。
どこに行けば、元気な姿を見られるのか。

大津市で中井先生とカタツムリを探しました。
中井先生が案内してくれたのは、緑に囲まれた公園や神社です。
カタツムリが大好きな落ち葉やこけがたくさん。
さらに、湿気が多い雨上がりの日を選びました。
手には軍手。
カタツムリには寄生虫がいるおそれがあるので、素手で触らないほうがいいそうです。

捜索を始めておよそ30分。
すぐ見つかると思ったものの、なかなか見つかりません。

(中井先生)
「ちょっとピンチ。困った。なんでこんなにいないんだろう」

取材班も焦り始めたそのとき、スタッフが1匹見つけました。

体長1センチ以下の小さなカタツムリ。
「オトメマイマイ」です。
オトメマイマイ
成長してもこれ以上大きなサイズにはなりません。

ここからは、次々と見つかりました。
「オオケマイマイ」には、殻の周りにたくさんの毛がついています。
オオケマイマイ
毛があることで周囲に溶け込み、どこにいるか見えにくくなるんです。
殻の形も平べったく、石垣などの狭いところにも入ることができます。
すぐに隠れてしまう少し臆病なカタツムリです。

こちらは「クチベニマイマイ」
クチベニマイマイ
体長3~4センチほどとひときわ大きく、関西で多くの人がイメージするのがこのカタツムリです。

殻も身も白っぽく、日光にも強いのが特徴で、広葉樹の幹などをはって移動します。

地域ごとに変化を遂げた生き物

種類によって、形も色も全く違います。
カタツムリは、住む地域の環境に合わせて変化を遂げてきた生き物。
だからこそ全国でおよそ1000もの種類が確認されているのです。

カタツムリを知ることは、地域の環境を知る手がかりにもなるんです。

この日は、3時間半で5種類12匹を見つけることができました。
(中井さん)
「ここはカタツムリたちが暮らすのにはよさそうな場所だと思って探しました。ぽつぽつ目につく状態だったので、それなりにまだいるかなという印象でした」

今回の取材で見つけたのはどれも絶滅のおそれがある種ではないですが、街なかで見られなくなってしまったカタツムリが、緑に囲まれた場所では見つけることができてほっとしました。

人間にできることは

見つけたカタツムリを公園などに放せば、また身近で見られるようになるのでは?
そう思って中井先生に聞いてみると。

(中井先生)
「カタツムリはそれぞれの環境に合わせて独自の進化を遂げてきた生き物です。安易に人の手で別の場所に移すと、その場所の本来の生態系が損なわれる可能性があります。カタツムリに限らず、野生の生き物を人の手で移動させることはしてはいけません」

たとえ善意でも、野生の生き物を移動させると、さらなる環境破壊に加担してしまうおそれがあります。

そもそも環境の変化に敏感なカタツムリは、新しい環境に適応できずに生きていけない可能性もあります。

見かけても捕まえずにもとの場所に戻してあげて、写真などで楽しんでください。

「梅雨とカタツムリ」

そんな風物詩をこれからも残していけるように、あなたの住む地域にどんなカタツムリがいるのかぜひ探してみてください。