社会

「同意のない性行為」とは 性犯罪の刑法改正 ポイントを解説

「性被害の実態にあっていない」

こうした被害者の声などを受け、加害者を処罰する法律を大幅に見直した改正案が16日、参議院本会議で全会一致で可決・成立しました。改正法は今後公布され、7月中にも施行される見通しです。

「魂の殺人」とも言われる性犯罪。何がどう変わるのか、法改正のポイントをまとめました。

(※この記事では性暴力被害の実態についても広く伝えるため、一部詳細な内容に触れています。フラッシュバックなど症状のある方はご留意ください)

「引き続き 社会の意識を変える努力を」

16日、改正案が可決・成立したあと、法改正を求め続けてきた当事者などの団体は合同で会見を開きました。

「『感無量』ですが、私たちが求めてきた改正がこれで本当に実現するのか、実感がわかない部分もまだあります」
(支援団体「Spring」 金子深雪さん)

「法改正されたからといってすべての性暴力が処罰され、被害者が救済されるわけではないので、引き続き社会の意識を変えるための努力をしていきたい」
(法制審議会の部会の委員でみずからも性犯罪被害者の山本潤さん)

【なぜ 法改正は求められたのか】

“相次いだ 無罪判決”

性犯罪に関する刑法の規定は、2017年に110年ぶりに改正されましたが、2019年3月に性暴力をめぐる裁判で4件の無罪判決が相次いだことをきっかけに、さらなる見直しを求める声が高まりました。

このうち、愛知県で父親が19歳だった娘に性的暴行をした罪に問われた裁判では、1審の名古屋地方裁判所岡崎支部が娘の同意がなかったことは認めた一方、「著しく抵抗できない状態だったとは認められない」として無罪を言い渡しました。

今の法律では、性行為を犯罪として処罰するには
▽「相手が同意していないこと」だけでなく、
▽加害者が「暴行や脅迫」して犯行に及んだことや、
▽「抵抗できない状態につけ込んだ」ことの証明が必要で、
この要件にあてはまらないという判断でした。

「法律は性被害の実態に合っていない」

愛知の裁判はその後、2審で逆転有罪となり確定していますが、1審で無罪判決が相次いだことを受けて性暴力の被害者や支援者が声をあげる「フラワーデモ」という抗議活動が広がりました。

暴行や脅迫を受けなくても、恐怖のあまり動けなかったり、相手との関係性で抵抗できなかったりするのが実態だと訴え、法律の見直しを求めたのです。

そして、法改正を検討する法制審議会の部会に、刑法の専門家などに加えて性犯罪の被害者も参加して議論が行われ、ことし2月、改正案の要綱を法務大臣に答申し、16日、国会で改正法案が可決・成立しました。

ここからは、法改正のポイントを詳しく説明します。

【改正のポイントは?】

「同意ない性行為は犯罪になり得る」明確に

改正のきっかけともなった「同意のない性行為」については条文が見直されました。

今の「強制性交罪」と「準強制性交罪」を統合して罪名を「不同意性交罪」とし、同意がない性行為は犯罪になり得ることを明確にしました。

そして、罪の成立に必要な要件として、被害者の状態や加害者側との関係性なども考慮して具体的に8つの行為を示しました。

「不同意性交罪」 8つの行為とは

1. これまでの「暴行や脅迫」のほか、

2. 「精神的、身体的な障害を生じさせること」

3. 「アルコールや薬物を摂取させること」

4. 「眠っているなど、意識がはっきりしていない状態であること」

5. 被害者が急に襲われる場合なども想定し、「拒絶するいとまを与えないこと」

6. 被害者がショックで体が硬直し、いわゆるフリーズ状態になった場合なども想定し、「恐怖・驚がくさせること」

7. 被害者が長年にわたって性的虐待を受けてきた場合などを想定し、
「虐待による心理的反応があること」

8. 教師と生徒など「経済的・社会的関係の地位に基づく影響力で受ける不利益を憂慮していること」

こうした行為によって「被害者が同意しない意思を表すことが難しい状態」にさせた場合は罪に問われることになります。

時効は5年延長

さらに、被害にあってからすぐに訴え出るのが難しいという性被害の特徴を踏まえて時効が5年延長され、「不同意性交罪」の時効は今の10年から15年に、「強制わいせつ罪」から変更された「不同意わいせつ罪」は7年から12年になります。

18歳未満の子どもは被害を認識できるまでにより時間がかかることなどから、18歳になるまでは事実上、時効が適用されないことも盛り込まれました。

性交同意年齢は「16歳以上」に引き上げ

性行為への同意を判断できるとみなす年齢も見直され、現在の「13歳以上」から「16歳以上」に引き上げられます。

同意の有無にかかわらず、16歳未満との性行為は処罰されますが、同年代の恋愛までも処罰されかねないという意見も出たため、被害者が、13歳から15歳の場合の処罰の対象は「5歳以上」年上の相手としています。

ただ、13歳未満に対してわいせつな行為をした場合は今と同様に罪に問われます。

新たな罪も

最近の性犯罪の傾向を踏まえた罪が新設されました。
「子ども手なずけコントロールする罪の新設」

その1つが、性的な目的で子どもに近づき、手なずけて心理的にコントロールすることを取り締まるための罪です。

近年、SNSの普及などに伴って被害にあう子どもたちが増えていることから、こうした手口の犯罪を防ごうと設けられました。

16歳未満の子どもに対してわいせつ目的で、
▽だましたり誘惑したり、お金を渡す約束などをして会うことを要求した場合や実際に会った場合、
▽わいせつな画像を撮らせてSNSやメールなどで送るよう求めた場合も罪に問えるようになります。

ただし、被害者が13歳から15歳のケースでは、5歳以上の年齢差があることを適用の条件としています。
「撮影罪」

いわゆる盗撮を防ごうと、わいせつな画像を撮影したり、第三者に提供したりする行為などを取り締まるための「撮影罪」も新たに設けられました。

【専門家の評価は】

今回の法改正は、検討に関わった人から「過去に匹敵するものが思いつかないほどの大改正」との声もあがるほどの大幅な見直しで、性暴力の抑止や被害者救済につながることが期待されています。

「国民へのアナウンス効果あり」

元刑事裁判官で法政大学法科大学院の水野智幸教授は改正の意義について「『同意を得ないで性行為をしてはならない』という規範が法律で明示されるのは、国民に対するアナウンス効果がある」と評価します。

「わかりづらさが解消」

一方、今回の改正について刑事弁護の立場からは「処罰される対象が広がりえん罪を生む危険性がある」という指摘もあります。

これについて水野教授は「これまで裁判官が抽象的な条文を基準に考えていたことを明文化した形で、処罰範囲を拡大するものではないと考えます。ただ、これまでは何が犯罪か抽象的でわかりづらかったので被害の申告や捜査がしづらい面がありましたが、それが解消されるので、本来処罰されるべきものがきちんと捜査され、有罪とされるケースは増えるだろう」としています。

「安易に拡大適用してはいけない」

その上で今後求められることとして「具体的な要件を当てはめる際に安易に拡大適用をしてはいけないし、その意識を捜査機関と裁判所が徹底し、本来処罰されるべきでない人が処罰されないようにする必要がある」と話しています。

改正法は今後、公布され、7月中にも施行される見通しです。

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