地銀の“2024年問題”公的資金返せるか

地銀の“2024年問題”公的資金返せるか
物流業界で人手不足の深刻化や輸送量の減少が懸念される「2024年問題」。

実は複数の地方銀行に投入された公的資金をめぐっても同じ「2024年問題」が取り沙汰されています。

リーマンショックなどをきっかけに投入された公的資金の返済期限が来年に迫っているのです。

地銀の経営環境が厳しさを増す中、公的資金は返せるのでしょうか。

(山形放送局記者 桐山渉/経済部記者 真方健太朗)

地銀の「2024年問題」とは

ことし4月28日、山形市に本店を置く「きらやか銀行」は会見を開き、親会社で宮城県と山形県が地盤の「じもとホールディングス」とともに金融機能強化法に基づく公的資金をことし9月をめどに金融庁に申請すると発表しました。

申請する金額は160億円から180億円を見込んでいます。
2020年に改正された金融機能強化法の「コロナ特例」を活用したいとしています。

「コロナ特例」とは、コロナ禍で打撃を受けた地域経済を下支えするために設けられた仕組みで、特例に基づく公的資金の申請は全国で初めてとなります。

仮に公的資金が投入されれば銀行としては3度目。

この日、きらやか銀行は、ことし3月期決算の最終損益が過去最大の83億円の赤字となる見通しも明らかにしました。

ただ、この会見に出席した私(桐山)には疑問がありました。

リーマンショックを機に投入された公的資金200億円の返済期限が来年・2024年の9月末に迫っていたからです。

業績が低迷する中で本当に返済できるのか。

会見で川越頭取にこのことを問うと、「来年9月末に期限を迎える公的資金の200億円は予定どおりに返済する」との答えが返ってきました。
さらに「借り換えではない」とも述べ、新たに受け入れた公的資金で過去の公的資金を返済するのではないという考えを示しました。

きらやか銀行のように来年2024年に公的資金の返済期限が迫っている地方銀行は4行あります。

東洋大学の野崎浩成教授(金融、銀行論)は、これを「地銀の2024年問題」と指摘します。
低いリスクで貸し出すことができ、コロナ禍の地銀の収益を支えた実質無利子・無担保の「ゼロゼロ融資」。

融資を受けた企業の返済がことしの夏から本格化し、中小企業の倒産が増えるおそれも指摘されています。

また、多くの地銀は、アメリカのFRBの利上げの影響で保有する外国債券に多額の含み損を抱えています。

野崎教授は、地銀を取り巻く経営環境がさらに悪化すれば、きらやか銀行のほかにもコロナ特例による公的資金を申請するところが出てくる可能性があるとしています。
東洋大学 野崎教授
「新型コロナ特例による公的資金は経営責任が問われず、返済期限も設定しないとされているため、地銀が申請した場合にモラルハザードに陥らないかチェックすることが重要だ。いわゆる『ゼロゼロ融資』の制度が終わった今、もともと厳しかった地銀の経営環境が悪化すれば、公的資金への依存が強まるおそれがある」

川越頭取に聞く 公的資金の返済は可能か 3度目の申請の行方は?

きらやか銀行が5月12日に発表したことし3月期の決算では、最終損益が83億円の赤字に転落。

全国の地方銀行で、昨年度、最終赤字に陥った地方銀行は3行ありますが、赤字額はきらやか銀行が最大です。

来年9月の期限までにどうやって200億円の公的資金を返済するのか。

6月8日、取材に応じた川越浩司頭取に改めて聞きました。
きらやか銀行 川越頭取
「ことし3月末の自己資本が556億円あるので、その中から200億円を返済するつもりだ。そのときに懸念されるのが自己資本比率の低下だが、単体でみると7.6%から5%台になると試算している。ただ、中小企業に資金供与をしていくことを考えると5%では心もとない、7%以上あれば十分対応できると考えている。そこを公的資金による資本の増強も含めて対応したい。使いみちも地元の中小企業への資金供与などで限定されると承知しているので、そういった認識で活用したい」
きらやか銀行には、リーマンショックの翌年の2009年に200億円、仙台銀行と経営統合した2012年には100億円の公的資金がそれぞれ投入されていて、今回で3度目の公的資金の申請となります。
去年5月にも公的資金の申請を表明していましたが、夏になって大口融資先の産業用ロボットメーカーの粉飾決算が発覚。

メーカーはことし2月に民事再生法の適用を裁判所に申請し、きらやか銀行は23億円の取り立て遅延・不能のおそれがあると発表。

この影響で昨年度の決算は最終赤字に転落しました。

きらやか銀行の経営について、地元の経済界からは「メインバンクで粉飾が見抜けないのはおかしい」「ほかの金融機関と比べて融資の審査の基準が緩い」などという厳しい声があがっています。

6月13日には融資先の部品商社が弁護士に債務整理を一任したことで融資額のうち回収ができないおそれがある3億8000万円について貸倒引当金を計上すると発表。

メインバンクではありませんが、この融資先も粉飾決算の疑いが持たれています。

こうした中、金融庁は、きらやか銀行の公的資金申請に対し、慎重な姿勢を変えていません。
金融庁幹部
「自分の取引先の粉飾決算が見抜けないということは中小企業の本業支援がきちんとできていないということだ。これが改善されないと大切な公的資金を任せられない。銀行の赤字補てんに使われないよう、ちゃんと地元の中小企業に使ってもらえるか見極めていきたい」
きらやか銀行は、2020年11月にネット金融大手「SBIホールディングス」と資本業務提携を結び、投資助言契約に基づいてSBI側とともに資産運用を行っていますが、世界的な金利上昇を背景に外国債券の運用状況が悪化。

ことし3月期の決算で有価証券の評価損は176億円まで拡大し、この提携関係も現状は裏目に出ています。

ただ、多くの銀行が外国債券の損失処理を進める中で、きらやか銀行は「時間をかけて回復させたい」としていて外国債券を持ちきる方針を変えていません。

川越頭取は、銀行のビジネスモデルを見直した上で、来年3月期の決算で黒字化する目標を掲げています。

新型コロナの影響を受けた企業を支える専門チーム「企業支援部」を立ち上げ、中長期的な視点で取引先の経営に関わるとしています。

これまでは、業績目標の達成のため手数料の収入が得られるコンサルティングなどの件数を数値目標に掲げていましたが、本来の融資を重視する体制に回帰するということです。
きらやか銀行 川越頭取
「新型コロナの3年間で傷んだ経済はすぐには回復しない。そういう企業実態をしっかりと把握したうえで支援していく必要がものすごくあると思う。地元企業を支えるにはコロナ特例を使わせてもらうのがベストで、3回目とかいろいろ言われるが、私は何を言われても地元の企業を支えなければならない。公的資金をどう使うかは私に経営責任があるしわれわれの経営スタンスを見てもらうしかない。順番でいうと、公的支援の申請を9月に行うことを優先的に進め、SBIホールディングスによる再支援を2番手として考えている。3つ目の策も考えなければならないのかという思いもあるが、現時点では言える状況ではない」。
極めて異例な3度目の公的資金申請。

これが認められるかどうかは、着実に黒字化できるような経営体質に変わることが大前提となります。

なぜ粉飾決算が見抜けなかったのか。

なぜ外国債券の運用リスクが露呈する事態となったのか。

銀行にはこうした経営課題に対する徹底した検証とリスク管理の力を高めることが求められます。
山形放送局記者
桐山 渉
2016年入局
青森局、酒田支局を経て現所属
経済分野の取材を担当
経済部記者
真方 健太朗
2011年入局
帯広局、高松局、広島局を経て現所属