水素社会をけん引するのは、山梨県?

水素社会をけん引するのは、山梨県?
燃やしても二酸化炭素を出さないクリーンなエネルギーとして注目が集まる「水素」。

水素社会の実現を目指す政府は今月、6年ぶりに「水素基本戦略」を改定。

今後15年間で官民で15兆円を超える投資を行う方針を示しました。

この改定を追い風に水素事業の拡大を目指しているのが、山梨県です。

実は山梨県はいま、水素を作る技術で全国有数の研究拠点となっているんです。

水素事業に力を入れる山梨県の事情や課題を取材しました。

(甲府放送局記者 清水魁星)

水素に力を入れる山梨県

水素関連の研究施設が集まる山梨県甲府市の米倉山です。

この施設の中心となっているのが、水素を作る「水電解装置」です。

太陽光や風力などの再生可能エネルギーで水を電気分解して水素を作る仕組みです。

なぜ山梨で水素が盛んに?

そもそもなぜ、山梨県は水素を作りはじめたのでしょうか。

その理由は、太陽光発電で余った電気を有効活用するためでした。
日照時間が長い山梨県では太陽光発電が盛んですが、発電量は天気任せ。

日ざしが強かったり、電気の需要が少なかったりする日は、発電しすぎて余った電気がムダになってしまうんです。

水電解装置は、この余った電気で水を分解し、水素を作ります。
山梨県企業局新エネルギーシステム推進室 宮崎和也室長
「電気はそのままだとためておくことが難しいですが、水素であれば長期間貯蔵できる。ためておいた水素は燃料電池の発電に使うことも出来るし、石油や天然ガスといった化石燃料の代わりに燃やして使うこともできるので、脱炭素化に向けたエネルギーとして価値がある」

強みは水素の製造量

水素の将来性に早くから注目し、水電解装置の開発に乗り出した山梨県。

最大の強みが、水素を製造する効率の高さです。
装置の心臓部と呼ばれる部分には、長年、県とタッグを組んできた大手繊維メーカーの東レが開発した特殊な素材を使用。

水素の製造量が飛躍的に向上しました。
東レ HS事業部門 橋本勝主任部員
「水素イオンの通しやすさが従来製品の2倍ということなので、単純に水素製造量もこのフィルターのおかげで2倍になる」
山梨県などが開発した水素製造装置はこれまでに、大手飲料メーカーなど国内企業4社が導入を決定。

さらに、インドやイギリス・スコットランドでも導入に向けた調査が行われています。
山梨県企業局新エネルギーシステム推進室 宮崎和也室長
「我々にはフィルターというストロングポイントがあって、技術は間違いなく世界トップクラスである。そして米倉山で2年間、水素を作り続けている実績もほかのどこの国にも負けないと思っている。実績でアピールしていきたい」

国も重要技術に指定

この水電解装置をめぐっては、水素社会の実現を目指す政府も高い関心を示しています。
今月6日、6年ぶりに改定された政府の「水素基本戦略」。

新たな戦略の中で、水電解装置の技術は、「戦略分野」の1つに指定され、研究開発や量産に向けて重点的に支援が行われることになりました。

山梨県は今後、政府の支援を追い風に県の水電解装置の導入を拡大していきたいとしています。
山梨県企業局新エネルギーシステム推進室 宮崎和也室長
「県の水素事業がビジネスとして本格化して儲けを出すことができれば、県民に利益を還元することができる。さらに米倉山を中心に水素関連の企業や研究機関が集まることによって、大きな経済効果も期待できる」

課題は早期の海外進出

しかし、装置の普及には課題もあります。

それが海外勢の急激な成長です。

日本よりも再生可能エネルギーの普及が進むヨーロッパでは、水電解装置の導入計画が次々と浮上。

国をあげて技術開発を進めていて、装置の量産や大型化といった分野ではすでに日本が遅れを取りつつあります。

専門家は山梨県が水電解の分野で勝ち残っていくためには、先行する海外への進出が欠かせないと指摘します。
九州大学 水素エネルギー国際研究センター 佐々木一成センター長
「1つの自治体だけで取り組みを進めると、今後の発展性という点で限界がある。山梨県はグローバルなビジネスを行う企業と手を組んで、世界的な取り組みに発展させる必要がある。山梨県が日本をリードして水電解の技術開発、そして社会実装をけん引してほしい」

取材後記

私はこの1年あまり、水素担当として山梨県や民間企業、それに諸外国の水素事情について取材を続けきました。

この間、EUやアメリカ、そして日本と、水素社会の実現に向けた取り組みが世界的に加速していると実感しています。

山梨県の技術が水素社会でどんな役割を果たすのか。

これからも取材を続けていきたいと思います。
甲府放送局記者
清水魁星
2020年入局
県政や市政、経済を担当