ウクライナが反転攻勢を本格化 最新の戦況は 専門家はどう見る

ウクライナ国防省は、東部や南部で合わせて7つの集落を奪還したと発表したほか、東部のバフムト周辺でも前進していると主張し、反転攻勢を本格化させています。

一方、13日は、ウクライナ南部でダムが決壊して洪水が発生したと発表されてから1週間となります。

最新の戦況や、ウクライナ軍の動きやねらいを専門家はどう見ているのか。また、ダムの決壊による被害の現状をお伝えします。

ゼレンスキー大統領「戦闘は激しいが、われわれは前進している」

ウクライナのゼレンスキー大統領は12日、新たに公開したビデオ演説の中で「戦闘は激しいが、われわれは前進している」と述べた上で、「ここ数日天候が悪く、雨が任務を困難にしているが、われわれの兵士はいまも成果をあげている」と強調しました。

また、ロシア側が先月掌握を主張した、東部の激戦地バフムトについても「この方面で支配を広げていることに対し感謝している」と述べ、反転攻勢の作戦によって領土の奪還が進んでいるとしています。

ウクライナ軍 3つの地域で本格的な作戦か

ウクライナ軍は反転攻勢を進めていて、東部ドネツク州のバフムト周辺、ドネツク州の西部、南部ザポリージャ州の西部の少なくとも3つの地域で本格的な作戦を展開しているとみられます。
ウクライナ国防省のマリャル次官は12日、これまでにドネツク州西部のマカリウカやザポリージャ州東部のノボダリウカなど7つの集落を奪還し、解放した領土は90平方キロメートルに上るとSNSで明らかにしました。

また、ドネツク州の拠点で先月、ロシア側が掌握を主張したバフムトの周辺でもウクライナ軍の部隊が前進を続け、一部で領土を奪還したとしています。

また、ザポリージャ州では、親ロシア派の幹部が、ロシアが占拠する拠点トクマクや主要都市メリトポリで爆発や砲撃があったとSNSに投稿し、ウクライナ側が作戦を進めているもようです。

ロシア国防省 “2つの州でウクライナ軍を撃退”

一方で、ロシア国防省は12日、ドネツク州とザポリージャ州でウクライナ軍を撃退したと主張しました。

また、ロシア側は、ウクライナ軍に供与されたドイツ製の戦車を破壊し撃退に成功していると強調するなど、双方の攻防が続いているとみられます。
プーチン大統領は、12日、33年前の1990年に国家として主権を宣言した記念日「ロシアの日」にあわせて首都モスクワの式典で行われた演説の中で、「ロシアが困難な状況にある今、われわれの社会は強固に結び付き、特別軍事作戦に参加した英雄たちの支えになっている」と述べ、ウクライナ軍が本格的な反転攻勢に乗り出す中、国民に結束を呼びかけました。

ウクライナ空軍は13日、ロシア軍が14発の巡航ミサイルなどで攻撃を仕掛け、このうち1発が、ゼレンスキー大統領の出身地でもあるウクライナ東部のクリビーリフにある集合住宅に着弾したと発表しました。ウクライナの検察当局によりますと、これまでに6人が死亡、25人がけがをしたということです。

ワグネル代表 “ロシア国防省と今月中に契約結ぶ考えない”

一方、ロシアの民間軍事会社ワグネルの代表、プリゴジン氏は11日、ロシア国防省がすべての志願兵は今月中に国防省と契約を結ぶ必要があるとした命令について、その考えはないと強調するなど、ロシア国防省とプリゴジン氏との間では確執が続いているとみられます。

専門家はどう見ている

反転攻勢を本格化させるウクライナ軍の動きやねらいを専門家はどう見ているのか。

“ねらいは主に南部か 東部にも戦力を分散させるねらいか”

防衛省防衛研究所の山添博史米欧ロシア研究室長は、ウクライナ軍の動きについて「ウクライナは東部と南部のあわせて4方面での作戦があると見られるが、ねらいは主に南部にあると考えられる。アゾフ海の海岸沿いまで部隊を進めることができればロシア軍の補給を断つことができ、ロシア軍がその西側を維持することが難しくなる」と分析しています。
このうち南部ザポリージャ州のロシアが占拠する交通の要衝、トクマクの方面では、ロシア軍が複数の防衛線を準備しているため、今後戦闘が激しくなり、双方に大きな損失が出るおそれもあると指摘しています。

一方、ウクライナ軍の東部での作戦について、ロシア軍に東部にも一定の部隊を配備させることで戦力を分散させるねらいがあるとしています。

その上で、「東部での焦点はドネツク州西部のマカリウカで、集落の奪還が伝えられているのもこのあたりだ。そこからさらに南下すると主要都市マリウポリに至るが、そこではロシアの防衛線は手薄で、そこまで部隊を進められればザポリージャ州の主要都市メリトポリを挟み撃ちできる」と述べました。

今回の反転攻勢でウクライナが目標とする成果は、雨で地面がぬかるみ、部隊を進めるのが難しくなる前、10月ごろまでに主要な都市を奪還することで、軍事支援の成果を示し、国際社会から継続して支援を受けるねらいがあると分析しています。

ダム決壊 洪水発生から1週間 現状は?

また、13日は、ウクライナ南部ヘルソン州にあるカホウカ水力発電所のダムが決壊して洪水が発生したと発表されてから1週間となります。
大規模な洪水の被害が拡大していて、ウクライナ政府は、これまでに少なくとも10人が死亡したほか、子ども7人を含む42人が行方不明になっていると明らかにするとともに、避難している人たちへの支援を続けています。

ウクライナのゼレンスキー大統領は11日、避難する人が乗ったボートをロシア軍が攻撃していると述べ、「その攻撃の一つで3人が殺され、10人がけがをした。ロシアが占領する地域から避難するところだった」と強く非難しています。
オーストリアに本部があるIAEA=国際原子力機関のグロッシ事務局長は12日、ウクライナの水力発電所のダムの決壊によるザポリージャ原子力発電所への影響などを確認するためウクライナに向かっているとSNSで明らかにしました。

現地ではゼレンスキー大統領と会談を行うほか、みずからザポリージャ原発を訪れ状況を確認するとしています。

IAEAは、ダムが決壊した影響で原発に冷却水を供給する貯水池の水位が低下しているものの、非常用として使う別の池などには数か月分の冷却水が確保できていると説明していて、グロッシ事務局長はみずから現地を訪れ原発の安全への影響を確認する考えです。