【会見詳細】役所広司さん カンヌ映画祭で受賞 “夢のような”

先月、世界3大映画祭の1つ、フランスのカンヌ映画祭で最優秀男優賞を受賞した俳優の役所広司さんが13日、東京都内で会見を行い、受賞の喜びを語りました。

【記事の後段に、記者会見での詳しいやりとりを掲載しています】

カンヌ映画祭で最優秀男優賞 渋谷のトイレを舞台に

役所広司さんは、ドイツの世界的な映画監督、ヴィム・ヴェンダース監督が東京・渋谷の公共トイレを舞台に撮影した映画「『PERFECT DAYS』(原題)」で寡黙な清掃員役を演じ、先月、カンヌ映画祭で最優秀男優賞を受賞しました。

役所さんは13日、東京千代田区の日本記者クラブで行われた会見にホームレスの役で共演した田中泯さんとともに出席しました。

会見で役所さんは「夢のような仕事でした。賞の発表の瞬間に監督をはじめスタッフがすごく喜んでくれたのを感じて、ぼく自身感動したのを覚えています」と喜びを語りました。

今回の作品については「一人の清掃員の男を淡々と追って、表現していく。人間を作り上げていく中で自然に社会や物語が動く瞬間が表現されていて、お客さんにとって解釈の余地を残したような映画になっていると思う」と話しました。
また、自身が演じた役について「毎日仕事をして、大衆浴場に行き、軽く酒を飲みながら食事をして文庫本を読み、幸せな眠りにつく男の役ですが観客にはとても美しい生き方として伝わったのだと思います」と語りました。

そして、今後について「1つずつの作品に、命を懸けてというのは大げさかも知れないが、影響を与えてくれたたくさんの人たちのためにも映画界に貢献できたらと思います」と話していました。

映画の宣伝会社によりますと現時点では日本での映画の公開は未定だということです。

【会見詳細】

世界が注目する役所さんの演技、そしてトイレを舞台にしたという異色の作品の魅力について、役所さんと田中さんの会見を詳しくお伝えします。

会見冒頭では

(役所広司さん)
「この映画は、これまで自分がやってきた日本映画とは全く違う形の作品です。配給も映画会社も無い中で、渋谷の公共トイレを舞台に、最初はショートフィルムというイメージもありましたが、ヴィム・ヴェンダース監督が担当して長編映画にしようと始まりました。いままでやったことのない映画と役を与えてもらい、監督はヴェンダースさんで、本当に夢のような仕事でした。なおかつカンヌ映画祭のコンペティション部門に選んで頂き、最優秀男優賞というものを頂きました。映画の力を感じさせる映画が完成していると思います」
(田中泯さん)
「僕は役所さんと比べる必要すら無いくらい俳優としては、まだまだひよっこですが、今回ヴェンダース監督は私にダンサーとして声をかけてくれました。映画の中でも踊ってばかりです。ずいぶん長い時間踊りましたが、映画の中では、ほんの少ししか出てきません。ですが、ヴェンダース監督からは『映画の魂の部分をやってくれているはずだ』と言って頂き、ほっとしています。楽しいというか、驚きの現場を経験させてもらいました。おまけにカンヌまで行ってレッドカーペットを歩くという初めてだらけの経験で、得しちゃったなと思います」

Q.最優秀主演男優賞を受賞した喜びは?

(役所広司さん)
「発表の瞬間に、監督をはじめ一緒に行ったスタッフがものすごく喜んでくれたのを感じて、ぼく自身感動したのを覚えています。日本でもスタッフが喜んでくれているだろうと思うと、僕は幸せだなと思っていました。賞をもらうたびに、この賞に恥じないような俳優になりたいと思います。(出身の『無名塾』を主宰する)仲代達矢さんには、スイカを届けるためにおうちを訪ねた際に玄関で拍手してもらい、お土産にシャンパンをもらいました。授賞式のあいさつでは、第一声で『賞が大好きです』と言ったのですが、日本ではそれしか報道されていません。その前にプレゼンターの女優さんから『男の人って賞が大好きよね』という言葉がありました。それを受けてのジョークのつもりで言ったのですが、会場でもそんなにはウケませんでした。日本だと『こいつは賞だけが好きなんだな』と思われると思ったので、今日はこれを言いたかったです」

Q.オファーを受けたときの印象と、出演を決めた理由は?

(役所広司さん)
「公共トイレを舞台にした清掃員というキャラクターでしたが、その話を聞いたときに役柄に魅力を感じました。トイレの清掃員ということから始まる物語について、すごくイメージが膨らみました。監督はヴェンダース監督にお願いしたいという話だったので、これはぜひ、こんなプレゼントはないと思い参加しました」

(田中泯さん)
「ホームレスの役ですが、監督からは、木の霊であったり、光の霊であったり、人間が存在すら意識しないような、私たちの環境にあるものの代わりをやってくれ、それを踊りで示してくれと言われました。撮影は本当に楽しく、ダンサーでよかったと思いました。まさに『パーフェクトデイズ』でした」

Q.「『PERFECT DAYS』(原題)」という作品について

(役所広司さん)
「この映画はアート映画といえばそうですが、いわゆるとっつきにくいアート映画ではなくて、1人の清掃員の男を淡々と追っています。その男を細かく追っていく、表現していくことで人間を作り上げていくと、その中で自然と、社会や物語が動く瞬間が表現されています。おそらくお客さんにとっては、解釈の余地を残したような映画になっていると思います。それぞれのお客さんが、それぞれの感じ方をしてくれる映画になっていると感じています」

(田中泯さん)
「役所さんはアート映画といいますが、僕はこの映画を全然アートだと思いません。僕はこの映画こそ、普通の映画だと受け止めてほしい。これこそ、普通の人間が見るべき映画なんだと思って欲しいと思います」

(役所広司さん)
「この映画はアートではありません。人間ドラマです。よろしくお願いします(笑)」

Q.それぞれの役柄について、どう感じた?

(役所広司さん)
「清掃員のスタッフの方に、2日くらい掃除のしかたを教わりました。この清掃員の『平山』という男は、毎日仕事をして、大衆浴場に行き、軽くお酒を飲みながら食事をして、好きな文庫本を読んで幸せな気分で眠りにつきます。お金があれば何でも手に入る世の中で、平山はおそらくほとんど財産というものはもっていませんが、こんなに毎日の暮らしに満足して眠りにつくというのは、とても美しい人間の生き方のように伝わるのではないかと思います。僕らも『平山のような生き方は羨ましいね』と現場で話していました。(田中)泯さんの役は、誰も見ようとしない、誰も声をかけない、そういうホームレスの男ですが、清掃員の男にはいつも彼が見えています。平山には誰も見向きもしないような人が見えているのかなと」

(田中泯さん)
「僕には全く台詞はないし、台本でも『いる』としか書いていない。撮影現場にいて何となく待っていると監督がやってきて、この木のそばでもうすぐ木漏れ日が差すから踊ってくださいと言われる。木漏れ日が差すとすぐ本番で、そして『OK』といわれる。結構長く踊っていたのに映画の中では数秒だったりしますが、本当にうれしかったです。僕が映画やテレビに出るようになってから、『さぁ踊って』と言われたのは初めてかも知れません。それが映画に参加することになるとは、僕にとっては宝です」

Q.役所さんの「日本映画を世界に」という目標に近づいた?

(役所広司さん)
「今回の作品は普通の日本映画ではありません。映画というのは商業的にビジネスとして成功しなければいけないが、必ずしもそればかりを追いかけていると、映画界がやせていくような気がします。そういう意味では、ヴェンダース監督の自由な発想で始まり、どうしても興行的に成功させなければいけないという制約もなく、ひとつの映画を作り上げるというのは、日本映画にとっても良い例になるかなと思いました」

Q.注目が集まるいまこそ、日本映画界に意見を

(役所広司さん)
「国内だけではなく世界レベルの映画を作ろうというときに、企画開発をしたり、次々に生まれてくる人材を育成したりしないと、映画自体が豊かにならないし、個性的では無くなる気がします。そのためにはお金が必要なので、それをどうやって捻出していくか。これからの日本映画界で、よりよい環境が整うように頑張っているのだと思います。そのために、いま映画監督の有志で作る『日本版CNC設立を求める会』という団体が立ち上がっていますが、この取り組みをよく理解して、もう一歩前に進めていきたいと思います。僕自身が力になれることがあればと思います」

Q.役所さんのこれからの俳優活動は?

(役所広司さん)
「67歳にもなるので、体力も落ちてきていますし、これからそんなにたくさんの作品には参加できないと思います。1つ1つの作品を大切にして、命を懸けてというのは大げさかもしれませんが、影響を与えてくれたたくさんの人たちのためにも、、尊敬している監督たちへの恩返しをしていきたいです。日本映画には素晴らしい先輩たちがたくさんいるので、そういう時代に少しでも戻れるように、映画界に貢献できたらと思います」