NATO発足以来最大規模の空軍演習始まる ロシアを強くけん制か

NATO=北大西洋条約機構の発足以来、最大規模となる空軍の演習が12日からドイツで始まりました。
NATO加盟国から戦闘機など250機が参加し、NATOの抑止力を示し、ウクライナ侵攻を続けるロシアを強くけん制するねらいがあるとみられます。

加盟国中心に25か国 戦闘機など250機と兵士1万人が参加

ドイツ北部の基地などで始まった演習は、ヨーロッパ各国やアメリカなどNATO加盟国を中心に25か国が参加し、戦闘機など250機と1万人の兵士が参加しています。

演習を主導するドイツ軍によりますと、1949年のNATOの設立以来、最大規模の空軍の演習だということです。

また、アジアから唯一、日本の航空自衛隊の幹部もオブザーバーとして参加する予定だとしています。

演習は6月23日まで行われ、主にドイツの上空でNATO加盟国が他国から攻撃を受けた際に、防衛にあたるシナリオを想定し、各国の空軍の連携強化を目的としています。

この中には、ウクライナで大きな被害が出ている無人機や、弾道ミサイルによる攻撃を撃退する訓練も含まれているということです。

ドイツ軍によりますと、今回の演習はロシアによるウクライナ侵攻の前から計画されていましたが、侵攻を受けて空軍力の重要性は一層高まり、NATOの抑止力を示す必要があるとしていて、ロシアを強くけん制するねらいがあるとみられます。

ドイツ軍 北部の空軍基地を報道陣に公開

演習を主導するドイツ軍は9日、演習の拠点の一つドイツ北部の空軍基地を報道陣に公開しました。

この基地はドイツでは最大規模で、NATO加盟国の戦闘機など80機が集結し、一体的な運用に向けて演習を繰り返す予定です。

演習を前にアメリカやトルコのF16戦闘機、それにハンガリーのグリペン戦闘機などが到着し、ドイツのトーネード戦闘機と並んでいました。

また、トーネードとトルコのF16が相次いで離陸し、共同で飛行する訓練をしていました。

演習を立案したドイツ空軍トップのインゴ・ゲルハルツ総監は取材に応じ、2014年のロシアによるクリミアの一方的な併合を受け、NATOの防衛を強化すべきだと考えたことがきっかけだとしたうえで、「去年のウクライナ侵攻を受け、ロシアに近いヨーロッパ東部の同盟国から安心感を得たいという要望が高まっている」と述べ、抑止力を示す意義を強調しました。

また、「ヨーロッパの同盟国からもっと責任を果たすよう求められている。演習でその役割を担えることを示す」と述べ、ヨーロッパの防衛で重要な役割を果たしたいと意気込みを語っていました。

演習に参加するトルコ軍の大佐は、「目的はNATO加盟国との協力関係を発展させ、強化することだ。われわれの経験を同盟国と共有することが重要だ」と話していました。

アメリカのA10攻撃機のパイロットは、「これほどの国が参加し飛行する演習は例がない。A10は主に地上への攻撃にすぐれていて、各国の機体の能力をいかして協力し合うことが、長期的にわれわれを強くする」と話し、連携の強化に期待を示していました。

演習のシンボルマークに日本の国旗も

さらに、基地に飾られた演習のシンボルマークには、参加する25か国の国旗が描かれていて、日本も含まれています。

日本の参加について、ゲルハルツ総監は7日、首都ベルリンでNHKの取材に応じ、「ヨーロッパとインド太平洋の安全保障は切り離せない。NATOは日本と緊密な関係を維持しているため、オブザーバーとして招待した。近く、日本の同僚たちが到着するのをうれしく思う」と話していました。

専門家「この演習は戦うための演習だ」

ヨーロッパの安全保障政策に詳しいドイツ外交問題評議会のクリスティアン・メリング氏は、ヨーロッパでNATO加盟国による大規模な空軍の演習が行われるのは異例だと指摘します。

そして、「NATOは今回のような大規模な演習は必要ないと考えてきたが、2014年のウクライナ危機で認識を改めた。戦争が起きた場合、ヨーロッパの空域で各国のパイロットが連携して活動できることが重要になっていて、この演習は戦うための演習だ」と話し、演習が有事を想定した実戦的なものだとしています。

そのうえで「空軍力は欧米側が得意とするところだが、どの国も多かれ少なかれ空軍の戦力は劣化している」とも話し、戦闘機の老朽化が課題となる中、各国の連携が一層欠かせないとして空軍の一体的な運用での課題を洗い出すことが重要になると指摘します。

また、メリング氏は日本が招かれたことについて、ドイツをはじめ各国がヨーロッパとアジア太平洋地域の安全保障を一体だと見なし始めていることのあらわれだという考えを示しました。

“演習には中国をけん制するねらいも”

そして、「ドイツの将軍たちは、演習がロシアに対する抑止のメッセージだと明確にしているが、ロシアのあとには中国の問題が迫っているという認識がある。ロシアと中国はこの演習の軍事的な側面だけでなく、政治的な側面も注意深く観察するだろう」と話し、演習にはロシアだけでなく、中国をけん制するねらいもあるとの見方を示しています。