【解説】ウクライナ反転攻勢開始か ダム決壊で避難中に砲撃も

ウクライナでは、ダムの決壊で大規模な洪水が発生。救助活動が続けられていますが、避難中だった人たちに対しても砲撃が行われ、けが人が出る事態となっています。
こうした中、東部や南部では、ウクライナ軍の攻撃が活発になり、反転攻勢の動きが本格化しているという見方が出ています。

(6月9日にニュースウオッチ9で放送した内容です)
(動画は7分50秒。データ放送ではご覧になれません)

浸水した街で続く砲撃

8日のヘルソン州。街は浸水したままです。水位は下がり始めているものの少なくとも1週間、浸水は続くという見通しが示されています。その街から、次々と住民が助け出されています。

「悲劇だ。戦争は悲劇だ。私たち全員にとって」

屋根にある窓から手を振る女性。周囲は浸水しています。その女性に話を聞くことができました。

「水位が急激に上がっていて、30分から40分ごとに10センチあがった」

女性はその後、近所の家にボートで避難し、一晩過ごしたといいます。翌日、外を見ると…。

「ことばを失った。すばらしい場所だったのに何もなく、すべて水に覆われていた」

ただ、救助活動は、危険と隣り合わせです。

ウクライナやアメリカ、それに日本などの国連大使らは、避難中の人たちに対して砲撃が行われ医療隊員などを含む少なくとも9人がけがをしたと明らかにしました。
ゼレンスキー大統領は、今もロシア側の砲撃が続いているとして、非難を強めています。
「彼らは浸水したヘルソン州で砲撃を続けている。避難所まで砲撃している」

米シンクタンク“3地域で反転攻勢開始”と分析

こうした中、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は8日、ツイッターに、「ウクライナの反転攻勢が始まった」と投稿。東部ドネツク州のバフムト周辺や、ドネツク州の西部のほか、南部ザポリージャ州の西部の3つの地域で反転攻勢を開始していると分析しています。

このうち、ザポリージャ州の西部について「ウクライナ軍が8日にかけて局地的ではあるが顕著な攻撃を行い、ロシア軍が防御した模様だ」とした上で「ウクライナ軍はまだ、大規模な予備兵力の一部しか投入していない」という見方を示しています。

ロシア“ウクライナ軍が前線突破を試みたが撤退”と発表

一方のロシア。ショイグ国防相はザポリージャ州で8日未明、ウクライナ軍がロシア軍の前線の突破を試みたと発表しました。
「本日午前1時30分、ザポリージャ方面でウクライナの1500人の兵士と150台の装甲車がロシア軍の防衛線を突破しようと試みたが、(ウクライナ軍は)大きな損失を出して撤退した。敵は目的を達成することができなかった」

津屋解説委員“反転攻勢はすでに始まっている”

ウクライナの反転攻勢はどういった段階にあるのか。国際安全保障担当の津屋解説委員は。
「反転攻勢というのは戦車などの大規模な部隊を進攻させて、そこを面で奪い返すというかたちになるわけですけど、それを行うための予備的な作戦というものも含めて考えるのであれば、反転攻勢はすでに始まっているということが言えると思う。ただし一番大事な最後の最終的な作戦つまり戦車を中心とする大規模な部隊が進撃を行う進攻作戦を行うという、これはまだ始まったとは言えないというふうに見ています」

ダム決壊後のウクライナの出方については。
「今回、ダムが決壊して、ここに水があふれてしまった。ドニプロ川を渡って進攻を行うということが、難しくなってきたので、ウクライナ軍としては、作戦を見直さざるをえないという状況。ただし作戦そのものが、すべてなくなるというわけではなくて、ウクライナ軍としては、こうした今回のような事態も想定してプランBと言いますか、第2、第3の作戦計画というものも検討してきたと思うんですよね」

英 経済紙“ドイツ製の戦車投入で反転攻勢本格化”

さらに、ウクライナ軍の戦車をめぐっても新たな情報が。

イギリスの経済紙、フィナンシャル・タイムズはウクライナ側の軍関係者などの話として、ウクライナ軍がドイツ製の戦車を投入した最初の攻撃を行い、反転攻勢を本格化させていると報道。

ロシア側の映像情報からドイツが供与した主力戦車「レオパルト2」の可能性があるということです。

これに先だって、ロシア国防省が公開したこちらの映像。ロシア側は、ウクライナ軍の「レオパルト」を撃破したと主張しています。
ところが、このロシアの主張について専門家は。
「ロシアの軍事ブロガーたちはこれについて投稿し始め、『これはレオパルト戦車の映像ではない』と言っている。こうしたロシア側の誇張には2つの目的がある。1つ目は、紛争におけるロシアの優位を示すこと。2つ目が、差し迫ったウクライナの反転攻勢から注意をそらすことだ」

津屋解説委員“情報が少ない時 何かを始めようとするサイン”

さまざまな情報が入り乱れる中、ウクライナ側は大規模な反転攻勢については「開始の宣言はない」とするにとどまっています。

これについて津屋解説委員は。
「戦争でよく言われるのは、情報が少なくなってきた時には、本当の事が行われている。ですから、ウクライナがですね、動画で何も言わないで、というような動画を発信したのもですね、やはりこれから本当に何かを始めようとしているというひとつのサインという風に見れると思います」