ゲノム医療法 参院本会議で可決・成立 差別防止なども掲げる

遺伝情報に基づき患者に応じた治療を推進することや、差別の防止などを掲げる「ゲノム医療法」が、参議院本会議で賛成多数で可決・成立しました。

ゲノム医療は、個人によって異なる遺伝情報を詳しく解析することで病気の診断や患者に最適な治療法や薬の選択を行う医療で、特にがんや難病などについて研究や治療への応用が進んでいます。

ゲノム医療法は超党派の議員連盟が取りまとめたもので、「幅広い医療分野で世界最高水準のゲノム医療を実現する」としていて、国がゲノム医療に関する基本計画を定めて、研究開発を推進し、個人のゲノムや健康に関する情報を管理・活用するための基盤を整備するなどとしています。

また、遺伝情報によって病気のなりやすさなどが分かることで、保険の加入や雇用、結婚などで差別や不利益な取り扱いにつながるおそれがあると懸念されることから、ゲノム医療法では遺伝情報の適切な管理が行われ、不当な差別が行われないよう、国に対して、医師や研究者などが守るべき事項に関する指針を作り、差別や遺伝情報の利用が広がることで起きうる課題に適切な対応をとるよう求めています。

ゲノム医療法は9日の参議院本会議で賛成多数で可決・成立しました。

ゲノム医療 差別や不利益につながる懸念も

ゲノム医療では遺伝情報を調べることで患者の最適な治療薬の選択につながる一方、病気のリスクがわかるため、医療保険の加入や就職、結婚などで差別や不利益を受けることにつながるのではないかという懸念があると指摘されています。

がん患者などを対象にした意識調査では、40%余りの人が懸念を示したほか、別の調査では3%余りの人が実際に遺伝情報による差別的な扱いを受けたことがあると答えています。

東京大学医科学研究所の李怡然 助教らのグループは、患者のすべての遺伝情報を調べる「全ゲノム解析」の研究について、20代から60代のがん患者やその家族など1万人余りを対象にインターネットを通じて意識調査を行いました。

この中で「病気の治療が可能になるので有益だ」と答えた人は、
「どちらかといえばそう思う」という人も合わせて
▽がん患者で79.0%
▽その家族で72.8%でした。

その一方で「遺伝情報が適切に保護されるか疑わしい」とした人は
▽がん患者で60.8%
▽その家族で62.9%

「遺伝性疾患に関わる遺伝子の変化が見つかった場合、不利な取り扱いを受ける可能性が心配だ」とした人は
▽がん患者で42.7%、
▽その家族で47.5%と、
一定数の人が遺伝情報の取り扱いに懸念を感じているという結果となりました。

3%余が“差別的な扱い受けた” 法規制求める声も

また、東京大学医科学研究所の武藤香織教授らは、遺伝情報に基づく差別などの法規制について20代から60代のおよそ5000人を対象に行った意識調査の結果を8日公表しました。

それによりますと、3.3%の人が何らかの遺伝情報による差別的な扱いを受けたことがあると回答しています。

調査とは別に、実際、去年には千葉県の医療機関で、遺伝性の大腸がんで手術を受けた患者が医療保険の支払いを請求した際に、保険会社から検査の結果などについて照会を受け、給付金の支払いが通常より遅れたとするケースも報告されています。

また、調査では遺伝情報の不適切な取り扱いや差別に対して、
▽罰則のある法律が必要だと答えた人は74.7%で
▽必要ないとした人は25.4%でした。

どのような点について罰則のある法律が必要だと思うか複数回答で聞くと、
▽遺伝情報の第三者への無断提供や転売の禁止について罰則のある法律が必要と答えた人が62.5%、
▽医師や公務員などが遺伝情報を漏らした場合の罰則強化が56.8%、
▽個人の遺伝情報を含む物質の無断利用の禁止が55.2%、
▽雇用や就労での差別の禁止が51.3%、
▽民間保険の加入に関する差別の禁止が43.9%などとなっていました。

武藤教授は「遺伝情報による差別により実効的な法規制を求める声が多かった。ゲノム医療法が成立したが、具体的にどのような事例が差別に当たるのかや、罰則が必要かどうかについて検討を進めてほしい」としています。