【解説】ダム決壊 ウクライナ側 “住民が強制移送される懸念”

ウクライナ南部でダムが決壊し、大規模な洪水が発生したことによる被害が広がっています。

ウクライナ側の当局者は、ロシア軍が住民達の救助活動を怠っているとロシア側を非難しています。さらに懸念しているのが、住民達がロシア国内へと強制的に移送される事態だと指摘しています。

「国際報道2023」油井秀樹キャスターの解説です。

ロシア軍はこれまで、占領地域でウクライナ住民を対象に強制的にパスポートを取得させ、応じない場合はロシアに連行するケースがあると報じられてきました。それだけに、ウクライナ側の間では、ロシア軍が今回の悲劇を理由にウクライナの人たちをロシア人へと変える手続きを加速させるのではと警戒を強めていると言えます。

(ヘルソン州の関係者)
「ロシア軍が被害を受けた住民達を支援するかは非常に疑わしい。おそらく、住民達はロシア国内への避難を提案されるだろう。ロシア軍はこの悲劇を利用して住民をロシア国内に移送させると私は確信している」

軍需産業の強化に乗り出すウクライナ側

ウクライナ側は、ダム決壊への対応に追われる一方で、領土奪還の軍事作戦も進めています。焦点となっている反転攻勢が始まったかどうかは不透明ですが、イギリス国防省は「前線の複数の地域で激しい戦闘が続いている。ほとんどの地域でウクライナ側が主導権を握っている」と分析しています。
ウクライナ側が、戦闘の長期化も視野に乗り出しているのが、自国の軍需産業の強化です。鍵となるのが、ウクライナの国営軍需企業「ウクルオボロンプロム」です。ロシアによる軍事侵攻後、新たに1万人近くを雇用し、7万人態勢で兵器の製造や修理弾薬の生産などを行い、ウクライナ軍を支えていると言います。
(報道担当)
「我々の生産能力は日増しに強化されている。しかし、残念ながら軍の需要にはまだ追いつかない。我々はNATO基準の155ミリの砲弾の製造にも取り組んでいる」

この企業は欧米の軍需産業との連携を進めていて、チェコの企業とはウクライナ軍の戦車をチェコ国内で修理する契約を結んだほか、ドイツの軍需企業「ラインメタル」とは、ウクライナ国内で合同で兵器の生産や修理にあたるとしています。

ダムの決壊に伴いウクライナ軍が反転攻勢の作戦変更をどこまで強いられているのか不透明ですが、長期化に備えてウクライナと欧米の間の軍需産業の協力は加速しているようです。