軽井沢スキーバス事故 社長と元社員に実刑判決 長野地裁

7年前、長野県軽井沢町で大学生など15人が死亡したスキーツアーのバス事故の裁判で、長野地方裁判所は、業務上過失致死傷の罪に問われたバス会社の社長に禁錮3年、運行管理を担当していた元社員に禁錮4年の実刑判決を言い渡しました。

7年前の平成28年1月15日、長野県軽井沢町で、下り坂で加速したスキーツアーのバスがカーブを曲がりきれずに道路脇に転落し、運転手を含む大学生など15人が死亡し、26人がけがをしました。

この事故で、バスを運行していた東京の会社「イーエスピー」の社長 高橋美作被告(61)と、運行管理担当の元社員、荒井強被告(54)は、大型バスに不慣れな運転手が死傷事故を起こす可能性があると予見できたのに、必要な訓練などを行わないまま運行にあたらせたとして、業務上過失致死傷の罪に問われました。

これまでの裁判で、検察が禁錮5年を求刑したのに対し、2人は「運転手に必要な運転技量はあり、事故を予見することはできなかった」などと無罪を主張していました。

8日の判決で、長野地方裁判所の大野洋裁判長は、2人はいずれも運転手が事故を起こすおそれがあると予見できたとしたうえで、荒井元社員に対し、「指導などを行わないまま運転に従事させた。安全管理者として刑法上の注意義務を怠ったことは明らかだ」として、禁錮4年の実刑判決を言い渡しました。

そして、高橋社長に対しては、「荒井元社員による、ずさんな安全管理に問題意識を持ちつつも黙認していた。大型バス事業者として事故を起こさぬよう義務を果たすべき立場なのに、目先の利益を優先して事故を発生させた」として、禁錮3年の実刑判決を言い渡しました。

検察「主張がおおむね認められた」

判決について長野地方検察庁の中村昌史次席検事は、「検察の主張がおおむね認められたものと考えている」とコメントしています。

専門家「管理責任を明確に認めた点で踏み込んだ判決」

今回の判決について、刑法に詳しい日本大学元教授で弁護士の船山泰範さんは、「さまざまな証拠から、社長と当時の運行管理者の2人が、運転手の技量が未熟であると知りながら運行を任せたことについて、事実として認定したことが有罪判決に傾いた大きな前提となっている」と述べました。

そして、「会社の社長や運行管理者の管理責任を明確に認めたという点で踏み込んだ判決といえ、その意義は大きい。バスや船など乗客の命を預かる運輸業界において、どの立場の人がどんな責任を負うのかがしっかりと示されたことで、判決が与える影響は大きいと思う」と指摘しています。

娘を亡くした池田彰さん「遺族の思いが伝わった」

娘の池田衣里さん(当時19)を亡くした父親の彰さんは、「裁判長から実刑という言葉が出るまで無罪もあるのではと思っていたが、実刑と聞き、遺族の思いが伝わったと感じた。ただ裁判が終わっても、娘は戻ってこないのでつらい気持ちは変わらない」と話していました。

次男を亡くした田原義則さん「会社の責任認めたのは大きな一歩」

大学2年生の次男、田原寛さん(当時19)を亡くし、裁判に寛さんの形見のネクタイをつけて臨んだ父親の義則さんは裁判後の会見で、「事故の責任をはっきりさせるという意味で会社の責任を認めたのは大きな一歩だと思った。一方で、事故の予見可能性があったならば、なぜ回避できなかったのかと怒りがこみ上げてきた」と話し、悔しさをにじませていました。

そのうえで今後については、「私は寛の父親として、前を向いて2度とこんなことが起こらないような世の中に変えていきたい。きょうの判決を受けて、安全運行に向けての国交省との意見交換を続けていきたい」と話しました。

西堀 響さんの父親「真摯に反省することを願っている」

大学生だった息子の西堀響さん(当時19)を亡くした父親は、「裁判長から実刑と言い渡された時によかったと思った。長かったような、あっという間だったような気がする」と述べました。

そのうえで、「判決を受けて、2人が真摯(しんし)に反省することを願っている」と話していました。

息子を亡くした大谷慶彦さん「控訴しないでほしい」

息子の大谷陸人さん(当時19)を亡くした父親の慶彦さんは、「無罪となった場合、今後、事故を起こしても責任を問われないと思う事業者が現れるのではと思っていたので、そういう意味でもよい判決だったと思う。息子は2度と戻ってくることはなく苦しみは今後も続く。被告2人には、われわれ家族をこれ以上苦しめないよう控訴しないでほしい」と話していました。

小室結さんの父親「正しく評価してくれた関係各位に感謝」

事故で亡くなった小室結さん(当時21)の父親は、2人の実刑判決を受けてコメントを出しました。
コメントでは、「運転手が亡くなり、立件すら難しいケースと聞いていましたが、実刑判決が下ったことは大きな前進であると感じます。日頃の運行管理などであった数々のずさんさを解明し、正しく評価してくれた関係各位に感謝の気持ちでいっぱいです。2人に少しでも良心があり、プロとして常識的な運営や管理を行っていれば、防げた事故だと思います。被害者遺族としては、被害者たちの失われた人生の長さに比べ、十分な量刑とは感じられませんが、同様の事故再発防止につながる重要な判決結果だと考えます」としています。

西原季輝さんの母親「2人には命が尽きるまで償い続けて」

事故で亡くなった西原季輝さん(当時21)の母親は、「2人が乗客の安全を第一に考えていれば、自分たちの義務を果たしてさえいれば、この事故は起きなかったし、私たちの子どもの命が犠牲になることはありませんでした。刑事責任が認められても、次男が帰ってくることはありません。2人には自らの無責任さに気づき、命が尽きるまで償い続けてほしいです。このような事故が2度と起こらない世の中になることを願います」とコメントしています。

尾木直樹さん「『禁錮』の実刑という判決が出たことは画期的」

バス事故で4人の教え子を亡くした法政大学名誉教授の尾木直樹さんが判決を受けてコメントを発表しました。

この中で尾木さんは「2人に『禁錮』の実刑という判決が出たことは画期的だ。時間はかかったが今回のようにあまりにもずさんな管理をしてきた法人や経営者らの刑事責任を問うことができたことは高く評価をしたい」としています。

そのうえで「15人ものかけがえのない大切な命を奪っておきながら誰も責任を取らないという社会であってはならないはずで、これを機に大事故が起きた時にはきちんと企業や組織の責任を追及できるように法整備をすべきだ。こうした悲惨な事故を2度と起こさないためにも、人の命を最優先にした交通政策、社会の実現を目指していきたい」と結んでいます。