なぜ13万件も?トラブル相次ぐマイナンバー 原因は?

なぜ13万件も?トラブル相次ぐマイナンバー 原因は?
国が取得を呼びかけてきたマイナンバーカード。別人の情報が登録されるミスなどが次々と明らかになっています。

プライバシーは守られるなどと“安心”をPRして国民に取得を呼びかけてきたにもかかわらず、なぜ、こんな事態が起きているのか。

原因や背景を解説します。

(経済部デスク 岩間宏毅)

本人ではない家族名義の口座13万件

マイナンバーをめぐるトラブルがさらに広がりを見せています。

マイナンバーとひも付けることで国の給付金などを受け取る公金受取口座に、本人ではない家族名義とみられる口座がおよそ13万件も登録されていたことが明らかになりました。

デジタル庁は公金受取口座の登録にあたって本人の名義しか認めらないことを周知してきたとしていますが、金融機関の口座を持たない子どもの代わりに、親が自分の口座を登録するケースなどが相次いだとみられています。
河野デジタル大臣は7日の記者会見で、異なる名義のままでは給付金の受け取りが遅れると述べるとともに「対象の方には、お手間をおかけして申し訳ございません。万一、ご自身でない口座が登録されている場合はすみやかにご自身の口座に変更していただきたい」と呼びかけました。

次々と発覚 マイナンバーのトラブル

こうしたトラブルは5月以降、次々と明らかになっています。
▼マイナンバーと一体化した保険証に別人の情報登録
▼公金受取口座を別人のマイナンバーに登録
▼マイナポイントを誤って別人に付与
▼マイナンバー活用の住民票写しなどの交付で別人の証明書を付与
▼本人が希望していないのにマイナンバーカードと健康保険証を一体化
マイナンバーと一体化した保険証に別人の情報が登録されるミスは7300件余り。

また、国の給付金などを受け取る公金受取口座が、家族ではない無関係な別の人のマイナンバーに登録されたとみられるミスも大幅に増えて、748件確認されました。

本人ではない家族名義の口座が登録されたケースについては、ことし2月ごろには国税庁からの連絡を受けて、デジタル庁でも把握していたにもかかわらず、具体的な対応を取っていませんでした。

今回、こうした登録がおよそ13万件にのぼったことを考えれば、注意喚起を行うなど、もっと早く対応すべきだったと考えざるをえません。

国は「人為的ミス」を強調 しかし…

なぜ、ここまでトラブルが広がってしまったのか。

個別の事例によって、原因は異なるものの、これまで国はいずれのミスについても「人為的なミス」を強調してきました。

例えば、公金受取口座では、自治体の窓口で先に登録を終えた人の画面がログアウトされないまま、次の人の手続きが行われたため、無関係の人の情報が登録されるケースがあったとしています。

しかし、トラブルの背景には、より根本的な問題があります。

マイナンバーのシステムには氏名の「ふりがな」がなく、漢字のみが登録されています。
一方、金融機関の口座はカタカナのふりがなで登録されているため、現在はシステム上で両者の名義が一致しているかどうかの照合ができません。

つまり、全くの他人や本人以外の家族の口座でもはじかれることなく、登録できてしまう仕組みとなっているのです。

マイナンバーカード普及推進の裏で…

デジタル化の推進を掲げる政府は、マイナンバーカードの普及を急速に推し進めてきましたが、そのことも今回の相次ぐトラブルとは無関係とは言えません。

マイナンバーカードの交付が始まったのは7年前(2016年)ですが、申請が増えたのは、政府がカードの取得を促すために買い物などに使えるマイナポイントを導入してからです。
マイナンバーカードの申請件数は6月4日時点の累計で、国民の77%にあたる9707万枚余りにのぼり、おととし3月末の2倍以上に増えています。

政府がマイナンバーカードの普及を急いできた背景には、コロナ禍での苦い経験があります。

当時、給付金を迅速に受け取れないといった批判が相次ぎ、行政のデジタル化の後れが浮き彫りになりました。

後れを取り戻そうと推進を急いだ面があったとみられます。

一方で、申請が急増したことで、自治体の窓口は対応に追われました。
マイナポイントでは誤って別人にポイントを付与したケースも相次ぎましたが、トラブルの要因となったのは事務負担を軽減するために取った措置でした。

もともとは手続きの際に本人確認を2回行う仕組みでしたが、簡素化のために本人確認を1回にしたことで、トラブルが相次ぎました。

デジタル化を急ぐあまり、安全性の確保がおろそかになっていなかったか、考える必要があります。
今回のトラブルについて、行政のデジタル化に詳しい武蔵大学の庄司昌彦教授は、1億人を超える国民を対象とするシステムでトラブルをゼロにするのは難しいとしつつも、トラブルを防ぐための準備やトラブルが起きた時の対処に問題があったと指摘しています。
武蔵大学 庄司昌彦教授
「人為的なミスだとしても、どう手続きを行えば抜けや漏れが防げるのか、自治体の窓口の現場のことを考えた制度の設計ができていなかったのではないか。デジタル化は重要だが、急ぐことに見合う準備ができていなかった」

「問題が起きたときに、そうした事例を集めて手順を見直せば、もっと早く対処できる。ところが、公金受取口座のケースでは2月に発覚したにもかかわらず、すぐに調査を始めることもなかった。改善を進めるプロセスが不十分で、こうしたプロセスを機能させることがマイナンバーの信頼性を高めるには必要だ」

損なわれる信頼 政府の対応は?

マイナンバーの制度への信頼が揺らぐ事態に政府の対応が問われています。

政府は一連のトラブルを受けて、既存データやシステムの「総点検」を進めています。
今回およそ13万件の本人名義ではない口座の登録が明らかになった公金受取口座では、デジタル庁がマイナンバーと口座の名義を照合できるよう2025年6月までのマイナンバーに関する改正法の施行にあわせてシステム改修を行うとしています。

それまでの間の対応としては、マイナンバーの氏名の漢字と金融機関の口座の名義のふりがなを照合する新たなシステムを年内をめどに開発し、実用化を検討するとしています。

政府は、現在使われている健康保険証を来年秋に廃止し、マイナンバーカードへの一体化を目指すなどさらに利用を推し進めようとしています。

問題点を検証し、再発防止を着実に進めていけるかが厳しく問われています。

マイナポイントどう使うの?

一方、今回のトラブルのほかにも、マイナンバーカードの取得などで得られるマイナポイントについて、どう使っていいかわからないという声も聞かれます。
マイナポイントの手続きの際、利用者はどの決済サービスにポイントを付与するかを選んでいるので、まずは自身がどの決済サービスにポイントを入れてもらったかを確認します。マイナポイントのアプリにログインし、「申し込み状況の確認」を選ぶと、ポイントがどの決済サービスに付与されたかがわかります。

そのうえで、自身が選んだ決済サービスのホームページを見るなどして、どのような形で利用できるかを確認します。例えば、スマートフォンのキャッシュレス決済であれば、飲食店やコンビニなど利用できる店舗がサービスごとに違います。対象の店舗がわかれば、そこで買い物をする際に、その決済サービスのアプリを起動して、ポイントで払うことができます。

マイナンバーの確認も

また、今回のトラブルを受けて、自身の情報が正しく登録されているかどうかを確認したい人もいると思います。その場合には、マイナンバー制度の専用サイト、マイナポータルにログインして確認することができます。
マイナンバーカードは本人を証明する役割としてだけでなく、行政手続きなどの分野にも利用の範囲が広がります。それだけに政府に対しては、プライバイシーの保護など情報管理の厳格化が求められるのはもちろんですが、私たちも厳しい目を持って、政府の対応を
検証していくことが大切です。
経済部デスク
岩間宏毅
2000年入局
名古屋放送局、経済部、アジア総局、国際部などを経て現所属