同性婚認められていないのは「違憲状態」 福岡地裁

同性どうしの結婚が認められていないのは憲法に違反するとして、福岡県と熊本県に住む3組の同性のカップルが国を訴えた裁判の判決で、福岡地方裁判所は「憲法に違反する状態だ」とする判断を示しました。

福岡県と熊本県に住む3組の同性のカップルは、同性どうしの結婚を認めていない民法などの規定は婚姻の自由や法の下の平等を定めた憲法に違反すると主張して国に賠償を求める訴えを起こしていました。

これに対し国は、裁判で「同性どうしの結婚は憲法で想定されていない」などと争っていました。
8日の判決で、福岡地方裁判所の上田洋幸 裁判長は「同性カップルに婚姻制度の利用によって得られる利益を一切認めず、みずからの選んだ相手と法的に家族になる手段を与えていないことは憲法に違反する状態にあるといわざるをえない」と述べ、個人の尊厳などに基づいて配偶者の選択などに関する法律を制定するよう定めた憲法24条2項に違反する状態だという判断を示しました。

国に賠償を求める訴えは退けました。
同性のカップルが2019年に全国5か所で起こした集団訴訟はこれで1審の判決が出そろい、裁判所の判断の内訳は「憲法違反」が2件、「違憲状態」が2件、「合憲」が1件となりました。

このうち合憲と判断した大阪地裁も、社会状況の変化によっては今後、憲法違反になりうると言及していて、いずれの判決も同性のカップルを法律上の家族と認める立法措置を国にうながす形となりました。

原告側の判決後のようすは

判決が言い渡されたあと、午前11時40分ごろ原告らは「違憲判決」「国会、早よ立法せんね!」と書かれた横断幕を裁判所の前で掲げました。

原告の1人で福岡市に住む、こうすけさん(33)は「憲法に違憲する状態だ」と判断した福岡地裁の判決について「国が同性カップルに対して、公的な保障を一切与えていないのが憲法に違反するとしているが、現状はまだ何も議論がされていないままだ。もっと力強く国会に訴えて欲しかった。今後も訴えを続けていきたいと思います」と話していました。

また、弁護団の共同代表の森あい弁護士は「判決の全文をまだ見ていないので、要旨だけの判断ですが、見るかぎりは違憲状態なので、弁護団としてももっと踏み込んだ判決を言って欲しかったです」と話していました。

言い渡しを聞いた原告は

熊本市に住む原告のこうぞうさん(40)とゆうたさん(39)も福岡地方裁判所を訪れ、判決の言い渡しを直接聞きました。

判決のあとこうぞうさんは「違憲状態の判決がでてほっとしています。司法でも議論を国が進めるべきだという判断がでたので、待ったなしで進めていただきたいです」と話していました。

また、ゆうたさんは「結婚することで得られる利益を同性愛者が得られていないというのを裁判所は認識していて国会で議論すべきだと言ってくださったので『国会、早よ立法せんね』。もうこのひと言につきます」と話していました。一方で「1つの判決で国が動くとは思っていないので一喜一憂せずにこれからも働きかけや、訴えを続けていきたい」と話していました。

松野官房長官「ほかの同種訴訟の判断も注視」

松野官房長官は、午後の記者会見で「国が勝訴したため控訴できないが、現段階では確定前の判決であり、ほかの裁判所で同種の訴訟が係属していることから、その判断も注視していきたい」と述べました。

その上で「同性婚の導入をめぐる課題については、国民各層の意見や国会における議論の状況、同性婚に関する訴訟の動向、それに地方自治体におけるパートナーシップ制度の導入や運用の状況などを注視していく必要がある」と述べました。

専門家「国に制度を作るようメッセージ出した」

判決について家族法が専門の早稲田大学の棚村政行教授は「同性カップルの人たちの暮らしを守る法的な制度や仕組みがないのは非常に重大なことで、個人の尊厳や人格的な利益を踏みにじっていると認め、国に制度を作るようメッセージを出した」と、一定の評価をしています。

一方で「はっきり『憲法違反』とはせず、同性婚を認めるかどうかの判断は国会に委ねてしまった。当事者からすれば同性であることを理由に制度から排除されている不合理さに対し、明確な違憲判断が欲しかっただろうし、国にもっと強いメッセージを投げて欲しかったという思いはあるだろう」と話しています。

その上で、5つの判決について「何らかの手当てをすべきだという点は共通していて、司法全体の大きな流れははっきりしている。このまま国が放置したら賠償という形で国の責任が真正面から問われる可能性もある。国会は速やかに議論を始めるべきだ」と指摘しています。

これまでの同性婚めぐる集団訴訟

同性婚をめぐる集団訴訟は、札幌、東京、名古屋、大阪、福岡の全国5か所で6件起こされています。

2019年に起こされた訴訟は8日で1審の判断が出そろい「違憲」が2件「違憲状態」が2件、憲法に違反しない「合憲」が1件となりました。
【憲法違反】
おととし3月、最初の判決となった札幌地裁は「異性愛者と同性愛者の違いは意思によって選択できない性的指向の差でしかないのに、同性愛の人は婚姻による法的な利益の一部さえ受けられない。合理的な根拠を欠く差別的な取り扱いだ」と指摘し同性どうしの結婚を認めないのは、法の下の平等を定めた憲法14条に違反するという初めての判断を示しました。賠償を求める訴えは退けました。

また、先月30日には名古屋地裁が「同性カップルに対し、その関係を国の制度として公に証明せず、保護するのにふさわしい枠組みすら与えていない」「性的指向という自分で選択や修正する余地のないことを理由に婚姻に対する直接的な制約を課している」として、個人の尊厳と両性の平等に基づいて配偶者の選択などに関する法律を制定するよう定めた憲法24条2項と、法の下の平等を定めた14条の両面から憲法に違反していると指摘しました。

【違憲状態】
去年11月の東京地裁判決は「どのような法制度にするかは国会の裁量に委ねられている」として、今の法律の規定は憲法に違反するとまでは言い切れないとしましたが、同性パートナーと家族になるための法制度が存在しないことについては「同性愛の人に対する重大な障害だ」として、憲法24条2項に違反する状態だと判断しました。

そして、8日の福岡地裁も同性カップルが法的に家族になる手段が与えられていないことについて「個人の尊厳に立脚した憲法24条2項に違反する状態にある」と断言しました。

さらに「結婚するかしないか、誰と結婚して家族を形成するかを自分の意思で決定することは同性愛の人にとっても尊重される人格的な利益だ」とした上で「婚姻制度を利用できない不利益が憲法13条に違反するとまではいえないものの、人格的利益を侵害されている事態に至っていて、個人の尊厳に照らして到底看過できない」と厳しく指摘しました。

【合憲とするも必要性に言及】
去年6月の大阪地裁は「同性カップルと異性カップルが受けられる利益の差は現在ある制度で緩和されつつある」などとして現状においては憲法違反ではないという判断でした。ただ「憲法が同性婚や、それに準ずる制度を禁止していると解釈すべきではない。国の伝統や国民感情、時代ごとの夫婦や親子関係などを踏まえ民主的に決められるべきだ」と指摘し、社会状況の変化によっては同性婚などを認める立法措置を取らないと憲法違反になりうると言及しました。

5件の判決は、いずれも社会の変化や生活上の不利益などを考慮し、同性カップルを法律上も家族と認めるよう、国に立法措置をうながすものとなりました。