ウクライナのダム決壊 “数日間で被害拡大のおそれ”英国防省

ウクライナ南部で水力発電所のダムが決壊し、大規模な洪水が発生したことについて、イギリス国防省は、今後数日間で被害が拡大するおそれがあると警告しました。一方、ウクライナ軍が反転攻勢の動きを活発化させる中、今回の洪水がウクライナ側の軍事作戦に与える影響は、限定的という見方もあります。

ウクライナ軍は6日、南部ヘルソン州にあるカホウカ水力発電所のダムがロシア側によって破壊されたと発表し、地元の州知事はおよそ1万6000人の住民が避難を進めているとしました。

またウクライナのゼレンスキー大統領は「この地域には侵攻後も数万人以上が暮らしている。すでに数十万人が飲料水を得られなくなった」と7日、SNSに投稿しました。

一方、ロシア側の地元当局者は国営のタス通信に対し、ロシア側の支配地域で7人が行方不明だとしています。

ダムの決壊をめぐって、ウクライナ側は、ダムはロシア軍によって内部から爆破されたとしているのに対し、ロシア側はウクライナ軍の妨害行為によるものだと主張し、非難の応酬が続いています。

イギリス国防省は7日の分析で「決壊する前、ダムの水位が記録的な高さだったため、大量の水が下流地域に押し寄せた」と指摘しました。

そして、このダムから冷却水の供給を受けるザポリージャ原子力発電所が直ちに安全上の問題に直面する可能性は低いとしたものの「ダム施設の構造物が今後数日間でさらに劣化し、さらなる洪水を引き起こすおそれがある」と被害の拡大を警告しています。

また、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は6日、ダム決壊の責任の所在は、現時点では分からないと指摘しました。

そのうえで、今後の戦況への影響について「ウクライナ側は、ダムの損傷による洪水が反転攻勢の準備を妨げることはないとしている。洪水の影響を受けた地域は、戦闘の最前線から地理的に遠く、影響を及ぼさない可能性が高い」と分析し、ウクライナ側の軍事作戦に与える影響は、限定的だという見方を示しました。

ウクライナ軍の動きをめぐっては、ロシア国防省がすでに各地の戦線でウクライナ軍が反転攻勢を開始したと主張しているほか、イギリス国防省も「戦闘が大幅に増えた」と指摘し、領土奪還に向けたウクライナ軍の動きが新たな局面に入っている可能性が出ています。

専門家「“ロシア側が実行”見方は成り立つ」

ウクライナ南部で大規模な洪水を引き起こしたダムの決壊の原因について、防衛省防衛研究所の兵頭慎治研究幹事は、現時点では事故の可能性も排除できず、断定的な評価はできないとしています。

そしてウクライナとロシアがそれぞれ相手側の破壊工作だと主張していることについては「どちらにとってメリットがあったのかということや、決壊のタイミングを考えると、ロシア側が実行したという見方は成り立つ」と述べました。

具体的には、ドニプロ川下流のウクライナ領の住民に被害が出るほか、ダムから冷却水の供給を受けるザポリージャ原子力発電所でも事故の懸念が高まることから、ウクライナ側にとってメリットは少ないと分析しました。

一方、ロシア側にとってはメリットがあると述べ、その理由として、ドニプロ川に架かる唯一の橋がダムに併設されていたが、破壊されたうえ、下流域が水没して地面がぬかるみ、ウクライナ側が戦車部隊などを進めることが難しくなったと指摘しました。

今後の戦況に与える影響については「ウクライナには複数のシナリオがあったと思うが、ヘルソン州の奪還作戦はやや難しくなった可能性がある。ゼレンスキー大統領が洪水対策にも注力しないといけなくなり、戦闘に集中できなくなる状況も懸念される」としています。

ウクライナと国境を接するロシア西部の州では、ロシア人などの義勇兵を名乗る「自由ロシア軍」や「ロシア義勇軍」が攻撃を繰り返しています。

2つの組織の役割について兵頭研究幹事は「ロシア側からするとこれまでの1200キロの戦線に加えて、ロシア領内の800キロを新たに守らなくてはならない状況になり、戦線が大きく拡大することになる。このため、特に南部と東部からロシア軍を引き離し、分散させるねらいがあるとみられる。ウクライナ軍の反転攻勢の動きにも何らかの形で連動していると思う」とする見方を示しました。

そのうえで、ゼレンスキー大統領が義勇兵組織によるロシア領内への攻撃を把握していたかどうかは確認できていないとして「ゼレンスキー大統領がこれらの組織を100%コントロールできておらず、ロシア領内への攻撃が激化し、戦争がエスカレートする可能性もある」と指摘しました。