水素エネルギー普及へ 政府が基本戦略決定 官民15兆円超投資へ

次世代のエネルギーとして注目される水素。

水から作ることができ燃やしても二酸化炭素を排出しないことから今後、需要が拡大していくと見られています。

水素の燃料電池を使ったバスや乗用車など、徐々に私たちの身の回りでも目にすることが多くなってきました。

こうしたなか政府は6日に6年ぶりに「水素基本戦略」をとりまとめ今後15年間で官民で15兆円を超える投資を行うとしています。

水素の開発、普及は進むのか?
各国の動きも含めて詳しくまとめました。

「水素基本戦略」とは?

政府は6日に水素や再生可能エネルギーに関する関係閣僚会議を開き「水素基本戦略」を正式に取りまとめました。

日本は世界に先駆けて水素社会を実現させようと、2017年に「水素基本戦略」を策定し、水素を燃料とする燃料電池車の普及や火力発電への活用などに取り組んできました。

その後、欧米などでも温室効果ガスの排出量削減に向けて、技術開発や投資が盛んになっていることから、今回6年ぶりに戦略を改定しました。

9つの技術を「戦略分野」として重点支援へ

この中では、日本が強みを持つ水を電気分解して水素を作る「水電解装置」や、自動車やデータセンターでの活用が期待される「燃料電池」など9つの技術を「戦略分野」と位置づけ、重点的に支援することにしています。

また、水素のサプライチェーンの構築に向けて、海外から水素を運搬する船の大型化などの技術開発も進める方針です。

今後15年で15兆円投資 2040年には利用量を6倍に

政府ではこうした取り組みに対して、今後15年間で官民あわせて15兆円を超える投資を行い、2040年の水素の利用量を今の6倍の1200万トン程度にまで引き上げたいとしています。

水素導入へ 海外の政策は

今後、水素の需要が拡大していくことを見越して、海外でも政府による生産設備の増強や、インフラ施設の整備を支援する動きが加速しています。
このうちアメリカでは、製造時に発生する二酸化炭素の排出対策がとられたクリーンな水素の生産量を2030年までに年間1000万トン、2050年までに年間5000万トンに増やす目標を掲げています。

この目標に向けてアメリカでは50兆円を超える気候変動対策を行い、水素の製造事業者に対して10年間の税額控除を行うなどして生産拡大を後押しする方針です。

EU=ヨーロッパ連合は、2030年より前にロシア産の化石燃料に依存する構造から脱却できるよう、EU全体で年間1000万トンの水素を製造できる体制の構築を目指し、生産設備の増強などに1兆円を超える支援を行っています。

このほか中国では、いずれも2025年に水素を使ったFCV=燃料電池車を5万台に、再生可能エネルギーを使って生産された水素を年間10万トンから20万トン製造できるようにする目標を掲げるなど、世界で開発や普及に向けた動きが加速しています。

水素のインフラ投資が急ピッチで進む欧州 オランダの現状は

オランダのロッテルダムは、世界最大とされる港の石油化学コンビナートを利用して、水素の製造から輸送までを担うサプライチェーンの中心地になろうとしています。

その起点となるのが、港の一角で建設が始まった水素の製造プラントです。規模は世界最大の200メガワット。2026年ごろまでに同じ規模のプラントが少なくとも4つ操業する計画です。
作られた水素はコンビナートのタンクも使って貯蔵。あらたに敷設するパイプラインに加えて、いま石油や天然ガス用のパイプラインも使って、ドイツなどヨーロッパ各国に供給しようとしています。将来は、アフリカなど外国からも大量の水素を輸入する計画です。
ロッテルダム港の広報担当者は「既存のインフラは水素の実用化を急ぐうえで大きな利点だ。ロッテルダムからは大量の石油や天然ガスがドイツなどに輸出されているが、数年のうちには同じように水素が輸出されるようになる」と話していました。

さらに、ロッテルダムでは投資を呼び込む動きも活発です。先月開かれた水素ビジネスに関わる展示会には、128の国から去年の倍の5600にのぼる企業や団体が参加しました。会場には、国名を正面に掲げたブースが目立ち、オランダの水素ビジネスに参入しようという各国の企業が商機を探っていました。
こうした水素ビジネスは、オランダ政府も後押ししています。スフレイネマーヘル貿易・開発協力相は「ロッテルダムはオランダに限らずヨーロッパにとって、非常に重要な拠点となる可能性がある」と話していました。

ヨーロッパでは、ドイツやフランスなど各国が将来の水素ビジネスの主導権を握ろうと競い合って投資を進めています。

西村経産相“国内での普及に向けた支援の検討 加速したい”

水素基本戦略が取りまとめられたことについて西村経済産業大臣は、閣議のあとの記者会見で「エネルギー危機という状況で世界中で水素が注目され、いまや世界の国々が水素をめぐって激しく競争している状況だ。脱炭素への関心も高まるなか、国内での普及に向けた支援についても検討を加速していきたい」と述べ、化石燃料との価格差を埋める支援策も含め検討を急ぐ考えを示しました。

官房長官「需要・供給の両面から大規模に普及させていく」

松野官房長官は「水素は、脱炭素、エネルギー安定供給、経済成長の『一石三鳥』をなし得る産業分野だ。規制・支援一体型の制度のもと、需要・供給の両面から大規模に普及させていく」と述べ、関係閣僚に対し、新たな戦略に基づいて、連携して取り組みを進めるよう求めました。

日本の現状と課題は

日本は2017年に世界に先駆けて水素の国家戦略をまとめ、水素を燃料として使うFCV=燃料電池車を導入するなど、水素技術を確立してきました。しかし水素の導入拡大に向けては販売価格の高さが課題となっています。

水素は石炭や天然ガスといった化石燃料と比べると製造にかかるコストが高く、水素を購入する事業者の需要がなかなか伸びないという課題があります。

需要が伸びなければ、水素を貯蔵するタンクや水素ステーションなどのインフラ整備も進まず、コストが高止まりする悪循環になります。

このため政府としては水素と化石燃料との価格差を補助し、販売価格の引き下げに向けた支援を行う方向で制度の検討を進めています。

また効率的なサプライチェーン=供給網を構築するために、パイプラインなどインフラへの支援も行い、今後10年間で大規模な拠点を3か所、中規模な拠点を5か所国内に整備したい考えです。

また水素の製造装置を作る事業者に対しては、研究開発だけでなく量産化に向けた支援も行い、水素関連のビジネスを国内だけでなく海外にも展開できる一大産業に成長させたい考えです。

日本国内企業からは技術開発への支援進展に向け期待の声

山口県周南市にある化学メーカーでは、塩水を電気分解する技術を応用して水素を製造する「水電解装置」の開発を進めています。
現在は試作品をもとに、水素の発生量や安全性を確認していて、ことしの夏ごろから水電解装置の量産を始めることにしています。

この会社では、同じ山口県内に土地を確保し、新たに工場を建設することにしています。この工場を1年間、フル稼働させた場合、数十台の水電解装置を製造できるということです。

会社によりますと、すでに国内外の企業から問い合わせが来ているということで、今後、海外への輸出も視野に事業化を進めることにしています。
「トクヤマ」の電解事業化グループの田中宏樹さんは「水素の需要を喚起するということで政府の戦略に期待したい。水電解装置は日本が技術的に優れているのでその優位性をどういかせるかが大事だ。海外メーカーとコスト面の競争が激しくなっているので、官民一体で取り組んでいきたい」と話していました。