将棋「棋聖戦」藤井七冠 4連覇へ ベトナムで初戦を白星で飾る

将棋の「棋聖戦」五番勝負の第1局がベトナムで行われ、6月1日に7つめのタイトル「名人」を獲得した藤井聡太七冠(20)が佐々木大地七段(28)に勝利し「棋聖戦」4連覇に向けて初戦を白星で飾りました。

「棋聖戦」五番勝負の第1局は、ベトナム中部のダナンのホテルに設けられた対局室で日本時間の5日午前11時に藤井七冠の先手で始まりました。

対局は序盤に大駒の「角」を交換したあとテンポよく進み、藤井七冠は午前中から相手陣地へ踏み込んでいきます。

攻めの機会をうかがう佐々木七段でしたが、先に持ち時間をほぼ使い切り、藤井七冠が形勢を有利にしました。

佐々木七段は粘りを見せますが、日本時間の午後9時前に113手までで投了し、藤井七冠が初戦を白星で飾りました。

日本将棋連盟によりますと、将棋の普及のため、これまでにも海外で対局を行っていて、今回は会場のホテルの誘致を受けて、およそ4年ぶりの実施となりました。

海外での対局は初めてとなった藤井七冠は、今月1日に史上最年少で「名人」を獲得して7つのタイトルを保持し、「棋聖戦」は4連覇を目指します。
一方、佐々木七段はタイトル戦への挑戦が初めてで、7月7日に開幕する「王位戦」七番勝負でも藤井七冠への挑戦権を獲得しています。

「棋聖戦」五番勝負はことし8月にかけて日程が組まれ、先に3勝した方がタイトルを獲得し、次の第2局は、6月23日に兵庫県洲本市で行われます。

藤井聡太七冠 初の海外対局「気持ちよく対局できた」

勝利した藤井聡太七冠は、「お互いの玉が極めて不安定な形での戦いが続いて、距離感を測るのが難しい将棋だったかなと感じている。第2局以降は先手と後手が決まっての対局になるのでしっかり準備していい状態で臨めればと思う」と話していました。

そして初めての海外での対局については「来るまではどんな感じかなと思っていたが、来てみるとすばらしい環境を用意していただいて気持ちよく対局できたと思う」と話していました。

佐々木大地七段「大舞台の難しさを感じた」

一方、敗れた佐々木大地七段は、「互角を保っていくということがちょっと難しくて、その辺りで多めに時間を使ってしまったと思う。全体的に大局観、形勢判断の部分や局面の急所が見えていなかったと思うので、本当に力不足を感じる内容だった」と話していました。

そして初めてのタイトル戦に臨んだことについて、「対局自体は和服を着て新鮮な気持ちで戦えたが、慎重になりすぎる部分も多かったというところで、大舞台の難しさを感じた。厳しいスタートにはなってしまったが、気持ちを切り替えて万全の準備で戦えるようにしたい」と意気込んでいました。

海外対局が行われているダナンとは

今回、海外対局が行われているダナンは、ベトナム中部に位置する人口およそ100万人の海沿いの都市です。

高級ホテルが多く立ち並ぶビーチリゾートとして有名で、日本と結ぶ直行便も運航されていることから、多くの日本人も観光に訪れています。

海外からの投資受け入れにも積極的で、近年は日本企業も多く進出していています。

2017年の11月には、APEC=アジア太平洋経済協力会議の首脳会議が開かれ、各国の首脳が訪れました。

対局後には、藤井七冠がダナンからおよそ30キロ離れた古都ホイアンを観光に訪れる予定です。

ホイアンは古くから貿易の拠点として栄え、当時の面影を残す町並みは、世界文化遺産に登録されています。

16世紀から17世紀にかけての朱印船貿易の時代には、多くの日本人が訪れ、日本人によって建設されたと言われている「日本橋」と呼ばれる史跡は、両国の友好のシンボルとされています。

「畳」や「盆栽」日本から運び込む

日本将棋連盟によりますと、今回会場となった現地のホテルには、ベトナムでは調達が難しい畳や盆栽が、対局のために日本から運び込まれました。

会場となった「ダナン三日月」の益子美智緒会長室室長は「対局者の精神面を考え、対局室の雰囲気をなるべく変えないために、和風に近づけるよう対応した。ベトナムは平均年齢が若く親日国なので、今回の対局をきっかけに、日本の将棋を知ってもらえたらうれしい」と話していました。

会場には現地の将棋ファンも

会場となっているホテルには、漫画やアニメをきっかけに日本の将棋を知ったという現地のファンも詰めかけました。

このうち、ベトナムで日本の将棋を普及する活動を行っている「ベトナム将棋クラブ」のチャン・テー・チュンさん(20)は、首都ハノイからかけつけました。

手製のはっぴを着たチャンさんは「2人がベトナムに来てくれてとても光栄に思います。きょうはとても楽しみです。2人とも頑張ってくださいね」と話していました。

初のベトナム開催 昼食やおやつは?

日本将棋連盟によりますと、将棋の海外での対局は今回で25回目で、ベトナムでの開催は初めてということです。

タイトル戦などで話題となる対局中に棋士たちが食べる昼食やおやつは、今回、ベトナムの食事を中心に用意されました。

このうち、現地時間で午前10時のおやつで注文したのは、
▽藤井聡太七冠が、フルーツと豆のベトナム風ぜんざいの「チェー」と「オレンジジュース」
▽佐々木大地七段は、伝統的な餅菓子の「バンヤロン」とライムと砂糖を添えた「炭酸水」

また、現地時間で正午から午後1時の昼食休憩では、
▽2人ともベトナム風のチキンライスの「コムガー」を注文しました。
スパイスとハーブのさわやかな香りが特徴だということで、
飲み物は、
▽藤井七冠がマンゴースムージー
▽佐々木七段が炭酸水を選んだということです。

日本から訪れたファンも

ホテルには、少しでも近くで応援しようと日本から訪れているファンもいます。

このうち藤井さんの出身地、愛知県から訪れている女性は「懸命な姿が魅力だと思います。コロナ禍ですごく閉塞感(へいそくかん)がある中で、日本中を照らしているような感じがしました。つまらない中で、家の中にいても楽しいことを教えてくれました」と応援の理由を話していました。

また、東京から訪れた女性は「藤井さんはいつも私たちが見ていて楽しい将棋を指したいと話している。結果はどうなるか分かりませんが楽しみたいです」と話していました。