「危険」な住宅に人が…なぜ?独自調査 石川 珠洲 地震1か月

石川県珠洲市で震度6強の揺れを観測する地震が発生してから、5日で1か月です。現地では今も、被災した住宅を修繕できないまま生活を続けている人たちがいます。

いったいなぜなのか。NHKの調査から見えてきた実情とは。

【1か月前に地区を襲った地震は】

1か月前の5月5日の午後3時前、石川県の能登地方を震源とするマグニチュード6.5の地震が発生し、石川県珠洲市で震度6強の揺れを観測しました。

珠洲市内だけで657棟の住宅被害が確認されていますが、経済的な事情や工事業者が依頼に対応しきれないなどの理由から、住宅を修繕できないまま生活を続けている住民が多くいます。

市内で建物被害が特に多いのは正院町正院で、地震の後に自治体が行った建物の応急的な調査=「応急危険度判定」では、納屋や倉庫を含むおよそ100棟が倒壊や落下物などのおそれがある「危険」と判定されています。

【地区の調査で見えたのは】

今の生活はどうなっているのか、NHKはこの地区を調査しました。

「危険」判定の37棟に住民

玄関先に貼られた赤いステッカーなどをもとに「危険」判定の建物を調査したところ、納屋や倉庫を除く住宅は65棟で、その57%にあたる37棟に住民が暮らしていました。

このほか、空き家が35%にあたる23棟で、住民の公営住宅や親戚の家への避難・転居が確認されたケースが3棟でした。

「危険」判定の住民半数以上で修繕めど立たず

「危険」と判定された37棟の住宅で暮らす人に修繕のめどが立っているかを尋ねたところ
▽「めどは立っていない」と回答した割合が57%
▽「めどが立っている、または修繕の必要がないと考えている」と回答した割合が合わせて11%でした。

また▽公営住宅に住んでいるが19%でした。

転居や避難をしない理由は?

転居や避難をしない理由を複数回答で尋ねると
▽「生活は可能だから」という回答の割合が49%だった一方
▽「危険を感じるが、慣れた場所を離れたくない、離れられない」などの回答が32%
▽「仮設住宅などでの生活に不安や抵抗感がある」といった回答が24%ありました。

珠洲市では65歳以上の人の割合が去年10月時点で52.8%にのぼり、今回の調査で被災した住宅に残っていたのも高齢者が多く、住宅の修繕や転居に踏み切れない理由の1つと考えられます。

石川県の能登地方では、その後も地震が相次いでいて、被災した住宅の修繕や住民の生活をどう支えるのかが課題になっています。

【「危険」でも離れられない理由は】

応急危険度判定で「危険」と判定された住宅に暮らす人たちからは、地震が続くことへの不安を感じながらも自宅を離れられないさまざまな事情が聞かれました。

当面、修繕工事できず

正院町正院で1人暮らしの奥ふみ子さん(88)の自宅は基礎の部分が傾き、敷地のブロック塀が倒れるなどの被害がありました。
業者に修繕を頼んでいますが、依頼が殺到していて当面、工事はできないと言われています。

足が不自由なこともあり、自分をよく知る人が周りにいる地域を離れることには不安を感じるといいます。

奥さんは「今の家でも寝起きはできるし、何かあれば、近所どうし声もかけられます。ほかの場所に移るのは心が落ち着かないので嫌です」と話していました。

「家のことが心配」

澤田洋子さん(81)の自宅は屋根瓦が落ちたり、窓ガラスが割れたりする被害があり、先月30日に取材した時にも窓枠にはブルーシートが張られていました。
澤田さんには、金沢市で暮らす娘もいますが、自宅を離れることは考えていないといい「再び地震が来る怖さはありますが、ほかの場所に行っても家のことが心配になるので一緒だと思います。倒壊まではしないと思うし、悩んでも仕方がないです」と話していました。

「受験控える娘が…」 比較的新しいスペースで生活

岡村好志美さん(48)の自宅は築100年の伝統的な家屋で、地震で外壁の一部が崩れ落ち、柱が傾いたり基礎部分にひびが入ったりしました。

修繕を依頼した業者からは「次に大きな地震が来れば倒壊するおそれが大きい」と言われていますが、工事を開始できるめどはまだ立っていません。
岡村さんは「仮設住宅に移れるなら移りたい気持ちもありますが、受験を控えた高校生の娘の通学や、自分たち夫婦の仕事のことを考えると環境を変えることは難しい」と話しています。

家族はいつ来るかわからない地震に備え、比較的新しい、増築されたスペースで生活を送っていますが、業者から「工事をしても住宅の安全性は十分ではない」と言われているということです。

岡村さんは「経済的に家を建て直すことは難しいし、どこまでお金をかけて修繕すればよいか頭を悩ませています」と話していました。

【「危険」判定の住宅 3割超が空き家】

今回、正院町正院で取材した「危険」判定の住宅65棟のうち、3割を超える23棟が空き家でした。

珠洲市によりますと、空き家の中には、老朽化が進み倒壊の危険などがあるにもかかわらず、所有者と連絡がついていないものもあるということです。

珠洲市は1950年代に3万8000人を超えていた人口が、ことし5月時点で1万2000人台にまで落ち込むなど人口減少が続き、空き家が急増しています。

「危険」と判定された空き家の近くに住む男性は「20年以上放置されていた空き家が傾いていて、次に大きな地震が来れば倒壊してしまうのではないかと心配しています。空き家の前を散歩しているお年寄りを見ていても危険性を感じるので、解体などの対応を早くしてほしい」と不安を語っていました。

【自治体 手続きや精神面のサポートへ】

石川県珠洲市 泉谷満寿裕 市長
危険性が指摘された住宅で生活を続ける人たちについて、石川県珠洲市の泉谷満寿裕市長は「できるだけ修繕をして、慣れ親しんだ自宅や地域で住み続けてほしいと思っているが、高齢であることや経済的な事情からそのめどが立たないか、そもそも修繕するかどうかを悩んでいる人もいる。何から手をつけてよいか、わからない人も多い」と述べ、巡回訪問などを通じて手続きや精神面のサポートを行っていく考えを示しました。

また、被災した住宅の解体・修繕を行う人の費用負担を軽減する市独自の支援を検討していること、自宅での生活が困難な人たちの長期的な住まいを確保するため、国と連携し災害公営住宅を整備することも検討していく方針を示しました。

【専門家 “個々の状況やニーズ踏まえた支援を”】

地震や水害などで住宅が被害を受け応急危険度判定で「危険」とされたものの、そこで住民が生活を続けるケースは過去も相次いでいます。
熊本県立大学 澤田道夫 教授
地域防災に詳しく、7年前の熊本地震で被災者の生活状況などを調査した熊本県立大学の澤田道夫教授は、珠洲市の現状について「危険性がある住宅で住民が生活を続ける状況は熊本地震の際にもあった。地震が継続する中、被害を受けるリスクが高いうえ仮設住宅などに入居した場合と比べて行政からの情報が届きにくく、必要な支援を受けられない懸念もある」と指摘しています。

高齢者が多いことについて澤田教授は「特に高齢者の場合、被災した住宅を再建しても資金返済のあてがないとして最初から諦めてしまうケースがあり、支援の存在を知らないままの人もいる」としています。

その上で「行政にはわかりやすいことばで支援制度を説明することが求められる。例えば被災者が住み慣れた地域に災害公営住宅を整備するなど、個々の状況やニーズを踏まえた支援を行う必要がある」としています。

一方で、規模の大きい災害で被災者のニーズに幅広く対応するためには、珠洲市の財政規模では難しいことが想定され、国や県がより踏み込んだ形でサポートしていくことが必要だと話しています。

「り災証明書」の申請 5日も多くの人が窓口に

今回の地震では、珠洲市内だけで700棟の住宅が被害を受けていて、地震の発生から1か月となる5日も、市役所の窓口には多くの人が「り災証明書」の申請などに訪れて、職員から書類の記入方法を聞くなどしながら手続きを進めていました。
今回の災害には被災者生活再建支援法が適用されていて、被害の程度に応じて国から支援金を受け取れるほか、固定資産税や国民健康保険料、介護保険料などの減免を受けることができます。

被災者の負担軽減のため、珠洲市ではこれまで複数に分かれていた窓口を5月29日から市役所1階の窓口に1本化し「ワンストップ」で手続きを行えるようにしています。

ただ、り災証明を受ける途中だったり、修繕工事を依頼する業者が見つかっていなかったりする被災者も多く、窓口の利用者は、まだ限られているということで、市は今後も周知を図っていくことにしています。

珠洲市危機管理室の女田良明室長は「複数の支援のメニューがあり、まだ手続きができていない人もいるので、まずは相談に来て欲しい」と話していました。

災害廃棄物の受け入れ続く

石川県珠洲市内の蛸島町の市有地に設置されている災害廃棄物の仮置き場では、被災した自宅の片付けが終わらず、壊れた家具や、屋根の瓦などを処分しに来る人たちの姿が見られました。

5日、仮置き場に初めて来たという60代の男性は「片付けが大変で来ることができませんでした。1か月がたったので、地震が収まってほしい」と話していました。また、トラックで来た40代の男性は「もう何十回と来ています。まだ片付けは終わっていなくて大変です」と話していました。

災害廃棄物のうち「たたみ」については、一部を、金沢市が順次受け入れることが決まっていて、5日は午前中、およそ12トン分のたたみが、金沢市の処分場に向けて運び出されたということです。