海外の投資家の売買データをまとめたものが日本取引所グループの「投資部門別 株式売買状況」です。東京と名古屋の証券取引所で株式の取り引きができる証券会社88社のうち資本金が30億円以上の51社が手がけた取り引きを集計しています。
それではこのデータでいう「海外の投資家」とはどういう人を指しているのか。
東証の定義では、まず外為法上の「非居住者」が「海外の投資家」にあたります。日本の証券会社の海外支店や現地法人は「非居住者」となり、「海外の投資家」に含まれます。
一方、外資系証券会社(東証の取引参加者)の日本支店や日本法人は「居住者」となり、「海外の投資家」に含まれません。このため外資系証券会社の日本法人が自己資金で日本株を売買した場合、これは「海外の投資家」の取り引きにはあたりません。
説明が長くなりましたが「海外の投資家」の典型例は、海外に拠点を置く企業や海外に住む個人です。そこから発注を受けた証券会社(先の51社)が株式を売買した金額が「海外投資家」の売買データとして扱われるわけです。

日本株高支える海外投資家 その意外な“正体”【経済コラム】
東京株式市場では5月22日、日経平均株価が終値としておよそ33年ぶりに3万1000円台を回復しました。この週、海外の投資家は9週連続で株式を買い越し。今や株高の原動力となっています。それではどの国、どの地域の投資家が日本株に影響を及ぼしているのでしょう。アメリカ?アジア?いえいえ、もっと上がいます。そうヨーロッパです。その存在感は他の地域を圧倒しています。「海外の投資家」を深掘りすることで見えてきたこととは…(経済部記者 篠田彩)
日本株を支える“海外の投資家”とは
圧倒的な「欧州」の存在感
さて、ひとくくりに「海外の投資家」として説明してきましたが、日本取引所グループは毎月、海外投資家の地域別の売買動向を公表しています。
地域区分は、「北米」「欧州」「アジア」「その他」(中東、オセアニア、中南米など)の4つに分かれています。
4月のデータをみると、「海外の投資家」全体では、2兆1592億円の買い越しとなり、このうち「北米」が156億円の売り越し、「欧州」が1兆7400億円の買い越し、「アジア」は、4331億円の買い越しとなりました。
地域区分は、「北米」「欧州」「アジア」「その他」(中東、オセアニア、中南米など)の4つに分かれています。
4月のデータをみると、「海外の投資家」全体では、2兆1592億円の買い越しとなり、このうち「北米」が156億円の売り越し、「欧州」が1兆7400億円の買い越し、「アジア」は、4331億円の買い越しとなりました。

海外の投資家というと「北米」、とりわけアメリカをイメージする人が多いと思いますが日本株の売買額でみると、「欧州」は、「北米」の10倍以上、売買シェアは全体の77%と他の地域を圧倒しています。年間のデータで見てもその存在感は際立っています。
「欧州」の売買シェアは、2022年までの10年間で59.4%から74.5%に拡大しました。
中東のオイルマネーや「タックスヘイブン」と呼ばれる税率の低い国や地域からの資金がヨーロッパを経由して日本株に向かったという見方もありますが、なぜ「欧州」の売買シェアがここまで高まったのかその理由は解明できていないという声も多く聞かれました。
「欧州」の売買シェアは、2022年までの10年間で59.4%から74.5%に拡大しました。
中東のオイルマネーや「タックスヘイブン」と呼ばれる税率の低い国や地域からの資金がヨーロッパを経由して日本株に向かったという見方もありますが、なぜ「欧州」の売買シェアがここまで高まったのかその理由は解明できていないという声も多く聞かれました。
「欧州」からの資金流入 その理由は?
実は「欧州」は3月までの2か月間、日本株を売り越しています。特に金融不安が広がり市場が混乱した3月には、1兆3000億円余りの大幅な売り越しとなりました。
しかし4月になると「欧州」のマネーは日本株に大量に流入しました。
それはなぜなのか?
金融不安の後退や日本企業の堅調な業績、それに東証が市場での評価が低い企業に改善を促したことで企業の改革への期待が高まったことなど、さまざまな要因が指摘されています。
もう1つ、「欧州」から中国に投じられたマネーが日本に流れたのではないかという見方もあります。
しかし4月になると「欧州」のマネーは日本株に大量に流入しました。
それはなぜなのか?
金融不安の後退や日本企業の堅調な業績、それに東証が市場での評価が低い企業に改善を促したことで企業の改革への期待が高まったことなど、さまざまな要因が指摘されています。
もう1つ、「欧州」から中国に投じられたマネーが日本に流れたのではないかという見方もあります。

中国国外の投資家は、香港の取引所を通じて上海証券取引所などに上場する株式を売買する「ストックコネクト」という枠組みを利用できますが、このストックコネクトで外国人投資家は4月に半年ぶりの売り越しに転じ、5月も売り越しとなっています。この間、大幅な買い越しとなった日本とは全く構図が逆になっているのです。
これについて、欧州系の外資系金融機関のエコノミストは次のように話しています。
「もともと欧州の投資家は中国に一定の資金を投じていたが、中国がロシアとともに欧米と対抗する姿勢を示していることや中国の景気回復が鈍くなっているという見方があることから、ここにきて中国への投資に慎重な姿勢を示す投資家も多い。一方で欧米より遅れてはいるもののコロナ禍からの回復がみえてきた日本企業への期待が高まっている。欧州の投資家が中国から日本にシフトしている可能性はあるのではないか」
一方、UBS証券の稲寛彰 ETF&インデックスファンド営業部長が注目するのは、ヨーロッパの取引所に上場している中国株を組み入れたETF=上場投資信託の売買状況です。
これについて、欧州系の外資系金融機関のエコノミストは次のように話しています。
「もともと欧州の投資家は中国に一定の資金を投じていたが、中国がロシアとともに欧米と対抗する姿勢を示していることや中国の景気回復が鈍くなっているという見方があることから、ここにきて中国への投資に慎重な姿勢を示す投資家も多い。一方で欧米より遅れてはいるもののコロナ禍からの回復がみえてきた日本企業への期待が高まっている。欧州の投資家が中国から日本にシフトしている可能性はあるのではないか」
一方、UBS証券の稲寛彰 ETF&インデックスファンド営業部長が注目するのは、ヨーロッパの取引所に上場している中国株を組み入れたETF=上場投資信託の売買状況です。

この中国株のETFへの資金の流出入の動きをみると4月以降はほぼ横ばいとなっていて、資金が大きく流出している状況ではありません。
これに対し、4月以降、日本株を組み入れたETFへの資金流入が続いています。このデータを踏まえ、稲氏は次のように指摘しています。
これに対し、4月以降、日本株を組み入れたETFへの資金流入が続いています。このデータを踏まえ、稲氏は次のように指摘しています。

「ことし1月に中国の『ゼロコロナ』政策が終了し、経済活動が正常化したことで欧州から中国株のETFに資金が流入したが、その後、中国が欧米との対立姿勢を強め、地政学リスクが高まったことやコロナ禍からの回復に力強さがないとの見方が出たことから、投資家は中国の状況を慎重に見守っている状況だ。ただ、データを見るかぎり、資金を大きく引き上げるという状況にはなっておらず、『欧州』の投資家の動向にはなお見極めが必要だ。一方、日本株のETFは4月上旬以降、資金が流入している。4月上旬は日銀が植田総裁のもとで新体制がスタートした時期にあたり、金融緩和が継続するとの見方から日本株への注目が集まったと見ている」
今後も日本株を買い続けるのか?
それでは「欧州」の投資家は、今後も日本株を買い続けるのか?
BNPパリバ証券の中空麻奈 グローバルマーケット統括本部副会長は、こう話しています。
BNPパリバ証券の中空麻奈 グローバルマーケット統括本部副会長は、こう話しています。

「海外の投資家は、金融引き締めを続ける欧米の景気減速への懸念が根強い中、消去法として日本株を買っているようにみえる。日本株を積極的に評価しているとまでは言えないのではないか。この先日本株が上昇を続けるには、日本企業そして日本経済が持続的な成長に向けて改革に取り組むことが必要になる」
今や日本株の動向に大きな影響を及ぼす存在となった「欧州」の投資家。
その投資スタンスがこの先どうなるのか。中国への資金の流れも含め、今後も国際的なマネーの潮流がどう変わっていくのか見ていきたいと思います。
今や日本株の動向に大きな影響を及ぼす存在となった「欧州」の投資家。
その投資スタンスがこの先どうなるのか。中国への資金の流れも含め、今後も国際的なマネーの潮流がどう変わっていくのか見ていきたいと思います。
注目予定

株価上昇の勢いが続くかどうかが焦点です。
8日には、コラムで紹介した東京と名古屋の証券取引所での「投資部門別 株式売買状況」が発表されます。海外投資家は5月下旬まで9週連続で株式を買い越していますが、この流れが続くかどうかが焦点です。
また、同じ8日には日本の国際収支が発表されます。貿易収支の赤字の影響で経常収支の減少が続く中、どのような結果となるのか注目です。
8日には、コラムで紹介した東京と名古屋の証券取引所での「投資部門別 株式売買状況」が発表されます。海外投資家は5月下旬まで9週連続で株式を買い越していますが、この流れが続くかどうかが焦点です。
また、同じ8日には日本の国際収支が発表されます。貿易収支の赤字の影響で経常収支の減少が続く中、どのような結果となるのか注目です。