生成AI 学校でどう教える?子どもへの影響は?

生成AI 学校でどう教える?子どもへの影響は?
人と会話しているかのように自然な文章で質問に答える「ChatGPT」などの生成AI。理科の実験や道徳の授業で使う学校も出始めています。

教員からは「業務が楽になる」という意見の一方「劇薬になってショック反応を引き起こしかねない」という声も。

教育現場、そして子どもたちにどんな影響をもたらすのか。現場を取材しました。
(松山放送局 記者 荒川真帆/社会部 記者 戸叶直宏/徳島放送局 記者 有水崇)

生徒の質問に“わずか数十秒で”返答

まず取材したのは、愛媛県にある愛媛大学教育学部附属中学校です。
3年生のクラスで、水溶液の性質を学ぶ授業が行われていました。

熱心に実験に取り組む生徒たち。すると終盤、先生はこんな風に呼びかけました。
真木大輔 教諭
「では今から『振り返り』に入っていきます。質問してくれたらAIが返しますので、ぜひ試してください」
生徒たちは、タブレット端末で、実験の「成果」や、うまくいかなかったこと、疑問などを入力。データを送信した、わずか数十秒後、画面には「教師からのコメント」欄に、もう文章が表示されていました。
「マグネシウムがお酢に溶けたのは、どういった変化が起きていたのか」と質問を書いていた生徒には…
生成AI 回答
「マグネシウムがお酢に溶けると、マグネシウムが酸化され、水素ガスが発生します。この反応は『酸化還元反応』と呼ばれます」
「実験がうまくいかず、今後改善したい」と反省を述べた生徒には…
生成AI 回答
「実験の改善を考えているという姿勢、すばらしいです。このようなチャレンジ精神を持っていることは理科学習で大切なことです。引き続き頑張ってください!」
これらのコメント、先生が高速で打ち返したわけではなく、生成AIが返したものです。
AIに「150字以内」で「分かりやすく」「肯定的な」文章になるよう条件をつけて指示しておいたのです。

一見すると先生からの打ち返しと遜色ないように見えますが「AIに返答される」のは、どんな気持ちなんでしょうか。
生徒
「本当にちゃんと答えてくれるのかなという疑いがありましたが、自分が聞きたかったことに対して返答をちゃんとしてくれたので驚きました」
生徒
「授業内容をしっかりと分析できていて『すごい』と思いました。人と同じような感じでAIがコメントしてくれたので、素直にうれしいなと思いました」

AI導入の理由は「忙しさ」

この活用方法を考えた理科の真木大輔 教諭に導入した理由を聞くと「忙しさ」を口にしました。これまでは、およそ120人の生徒の「振り返り」に1つ1つのコメントを返し、数時間かかることもあったといいます。
真木大輔 教諭
「今までは生徒の記入に赤線を引いたり、紙にハンコを押したりして返すだけで精いっぱいだったんです。でもChatGPTを使ってみると、瞬時に4つ、5つの文で返すことができ、時間短縮になりました。生徒の方は、質問するハードルが下がってきた感じがします」

間違いがないか“ダブルチェックは必要”

授業の後の休み時間、再びパソコンを開く真木教諭の姿がありました。
AIが作成したコメントに、間違いが含まれていることがあるからです。この日は「なぜ酢は黄色なのか」という質問へのコメントに誤りを見つけ、削除してわかりやすい内容に修正していました。

また生徒の疑問や学びの段階に応じた答えになっているのかどうかも1つ1つ確認していました。元素記号の覚え方のコメントには、教諭が「語呂合わせ」で覚える方法を追加しました。

生徒にはあらかじめ「AIは間違うこともある」と教えていて、修正したコメントを後日、改めて生徒に伝えています。

道徳の授業 AIに意見を聞くと…

東京にある東京学芸大学附属小金井小学校の鈴木秀樹 教諭は、4年生の道徳で生成AIを使っていました。そのテーマは。
転校した友達から届いたはがきが料金不足だったことを友人に伝えるかどうか、悩む。
鈴木教諭は子どもたちに「伝えるか、伝えないか」を考えさせたあと、AIに意見を聞きました。

回答は、どっちつかずなものになりました。
生成AI 回答
「料金不足については、人によって考え方が違います。あなたが友達に伝えるかどうかは、あなたの判断に任せます。あなたが友達との関係を大切にするなら、正直に伝えることも1つの方法です」
子どもたちは「あなたはどう考えるのですか?」「早く教えてください」など質問を続けますが、明確な回答は返ってきません。

そんな中、最初の回答にヒントを得た子どもの質問で「正直に伝える方法って、どんな方法?」と聞いてみると…
生成AI 回答
「友達に伝える方法としては、以下のようなものがあります。
▽電話で伝える
▽メールで伝える
▽SNSで伝える
▽次に会ったときに直接伝える、優しく伝える、事実だけ伝える、軽いジョークを交えて伝えるなどが考えられます」
この回答から、子どもたちは友人に伝える方法について話題を広げていきました。

最後に、AIを創造性豊かなモードに切り替えて質問し直すと…。
生成AI 回答
「私なら伝えると思います」
子どもたちから歓声があがりました。鈴木教諭は、子どもたちにこう伝えました。
鈴木秀樹 教諭
「みんなで必死に考えたから、最後にAIが出してきた答えをきちんと受け止められる。何も考えないで答えだけもらって納得するのとは違う。それはとても大切なことだよ」
鈴木教諭は、図工や国語の授業でも生成AIを使った授業に取り組み、クラスの子どもたち31人にAIのイメージについてアンケートをとりました。
AIについてのイメージは「作業が速い」「多くの情報を持っている」に続いて「できることと できないことがある」という回答が多くなりました。
鈴木秀樹 教諭
「子どもたちはAIとともに生きていくので、小学生の段階で『こういうものなんだ』と知っておいてほしい。AIを信じ込んでしまうのではなく、ツールとして安全に使えるようになってほしい」

広がる学校での“活用”

北海道の函館市立万年橋小学校の藤原友和 教諭は、学芸会の出し物として劇を行うため、学級活動の時間に台本をAIに作らせました。
AIには、朝の会で歌っている「世界に一つだけの花」の歌詞を元に内容を組み立てるように条件をつけ、配役も提案してもらいました。

この後、子どもたちがクラスで起きたエピソードを入れ込むなど、人の手で台本の改良を行い、10月に発表することにしています。
藤原友和 教諭
「劇や音楽といった構成をクラスの話し合いで決めるのは非常に時間がかかる。AIはアイデアや論理的な文章を瞬時に出すことが得意なので、その力を借りた。その後、クラスで起きた出来事というオリジナルの要素を自分たちでいかに組み合わせるかを考えれば、独自性のある劇になると思う」

高校・高専でも実践進む

高校や高専では、生徒自身がより主体的に使いこなすための模索が始まっていました。
起業家育成を目指し、ことし4月に設立された徳島県の私立・神山まるごと高専では、ChatGPTの1人あたり月20ドルのライセンスをすべての学生と教員に与えました。

最新の技術やサービスを使いこなすことでビジネスのアイデアに結び付けることが目的です。

授業でも活用を始めていて、体育の授業では2週間で健康になるための食事や栄養に関する行動をテーマに、AIと対話しながら手軽に取り組むことができる食事について考えているということです。
寺田親弘 理事長
「どういう影響が出るかわからない。ただ、使えるものを禁止したり、制限したりすることで作られる未来は大きくないという感覚があるので、どんどん使って、その中で失敗やリスクがあるかもしれないが、日々使いながら感じていくしかないと思う」
【東明館中学校・高校(佐賀県)】
希望する生徒向けに、AIから回答を引き出すための質問の工夫などを学ぶ実践的な講座を週に1時間、開いているということです。また、教員が小テストの問題や学校通信などをAIに作らせることで、生徒と触れ合う時間を増やしているということです。
【関東第一高校(東京)】
東京の関東第一高校の田中善将 講師は、みずから問いを立てて情報を集めて解決を目指す「探究」の授業で、手順を進めるサポート役として使っているということです。生徒が疑問に思ったことや先行研究、実験の設計や分析の仕方についてAIに質問することで、解決に向けた計画作りに役立っているということです。

“便利” “劇薬”教員からは期待と戸惑い

さまざまな教員に話を聞くと、革新的な技術を前に期待と戸惑いの両方の声が聞かれました。
「チャットGPTには大きな可能性を感じる一方で、無防備に導入すると、劇薬になってショック反応を引き起こしかねない」(中学校校長)
「これまで『正しい情報を得るために出典を大事にしなさい』と教えてきたが、生成AIの文章では出典がわからないことが多い。また子どもたちが自主的に使うようになると、提出された文章が生成AIかどうか教員が見抜けないおそれもある。さまざまな活用法が考えられて便利だが、どう教えるべきか悩ましい」(小学校教員)
「コロナ禍で急きょ1人1台タブレット端末が配られた時と違って、教員たちがすぐ動くとは思えないので、活用するかどうかは大きな差が出ると思う」(小学校校長)

専門家「従来の国語学習 ますます重要に」

子どもたちが課題として出された感想文や論文などをAIに書いてもらう行為も予想され、大学では利用の基準を示したり、注意喚起を行うところも出てきています。
国語の学習指導に詳しい広島大学の山元隆春 教授は「子どもが言葉をみずから使い、論理的に考える力や創造力を身につける機会が失われかねない」として、むしろ従来の国語の学習がますます重要になると訴えています。
広島大学 山元隆春 教授
「作文などでAIの生成した文章を安易にコピペするような行為が横行すると、自分で考えて書いたり話したりする能力や、言葉の感覚やニュアンスを身につける機会がなくなってしまう。国語では、言葉を使って他の人との違いや共通点を見極めたり、考え直して修正したり、持っている知識や経験と関連付けたりする能力を小中高と長い時間をかけて養っていく。むしろ、今後AIに質問する力や、回答の中で怪しい部分がないか批判的に読み解く力など、AIを使いこなすための必須の能力として国語の学習は、ますます重要になる」

ICT教育の専門家「警告も含め子どもたちに伝えるべき」

プラスの面だけでなく、マイナスの側面もあわせて、AIとどう向き合えばよいのか。教育現場のICT活用などに詳しい、東北大学大学院の堀田龍也教授に話を聞きました。
東北大学大学院 堀田龍也 教授
「生成AIはネット上にある、あらゆる情報をうまく調べて、それを答えているにすぎないので、ネット上にないことは、うまく答えられない。『AIの回答をうのみにすると人間としての能力が十分育たないかもしれない』という警告も含め、先生は子どもたちに伝えるべきだと思う」
そのうえで、堀田教授は、生成AIを子どもに「使わせない」のではなく、学校で活用能力を身につけさせるべきだと話します。
東北大学大学院 堀田龍也 教授
「やみくもに子どもから生成AIを避けさせたり遠ざけたりすると、結局、隠れて使ったり、友達が使ったりしているのを見て、ゆがんだ形で理解してしまうおそれがある。学校教育で適切な活用の場を用意して、適切に使う力を身につけさせるべきだと思う」

国は夏ごろめどにガイドライン公表へ

文部科学省は、ことし夏ごろをめどに生成AIに関するガイドラインを公表するため、専門家会議を始めました。

ガイドラインでは
▽使用に適切な年齢
▽禁止すべき場面
▽仕組みや活用法を学ぶ授業のアイデアなどを示したいということです。
永岡 文部科学相
「子どもたちの批判的思考力や創造性への影響などについてはリスクの整理が必要である一方で、学習指導要領では学習の基盤として情報活用能力を位置づけている。生成AIをどのように使いこなすかという視点や、自分の考えを形成するために生かすといった視点も重要だ」
学校はどう判断して、どう向き合っていくのか。

難しいテーマだと思いますが、その行方を引き続き追っていきたいと思います。
松山放送局 記者
荒川 真帆
新潟県上越市出身 2008年入局
長崎、大阪、社会部などを経て現所属
文部科学省など教育取材を長く担当
社会部 記者
戸叶 直宏
栃木県出身 2010年入局
福岡、横浜、首都圏を経て、現在、文部科学省を担当
徳島放送局 記者
有水 崇
福岡県出身 2017年入局
北海道での勤務を経て2021年から徳島局
現在は県政担当