「食事や睡眠もままならない…」“付き添い入院”過酷さ改善を

生まれてすぐ、病気で入院が続いた娘。

病院のみなさんは本当に一生懸命してくださっているし、つらいのはこの子だから、親の自分が弱音を吐くわけにはいかないーーそう思いながらも、プライバシーも十分になく食事や睡眠もままならない日々に、“戦場”に行くような過酷さを感じていたと親は言います。

「付き添い入院」の実態とは?環境の改善へ向けた対応は?

支援団体のきょうの動きとあわせてまとめました。

「付き添いは必須」

冒頭の写真は、東京都内に住む露木貴子さんの次女・史佳ちゃん(4歳)です。腎不全の治療で生まれてすぐのときから入院が続き、治療のために転院した病院で、親が泊まり込みで付き添う「付き添い入院」を求められました。

病院からは夜間の人手も少なく、看護が難しいことなどを理由に、小さい子どもの場合は「付き添いが必須」だと説明を受けたということです。
露木さんの頭にまっさきに浮かんだのは、当時5歳の長女のことでした。

「私が24時間病院に缶詰になれば、長女はどうしたらいいの?」

頭が真っ白になったと振り返ります。
いざ「付き添い入院」が始まると、昼夜問わず史佳ちゃんのケアに追われ、睡眠や食事を満足に取れないこともしばしばでした。

「病院のみなさんには一生懸命してもらっていた」という露木さんが、制度面でひとつどうしても納得いかなかったことがあります。

それは、病院から求められたにもかかわらず、「付き添いを希望する」という申請書を、2週間ごとに提出しなければならなかったことです。
付き添いの申請書
「同じことをやるのでも自分がいる前提になっていて、それを了解しているのと、本当はお願いされているのにこちら側がお願いした形になって許可されているというのは、心理的なところが違う。ただの紙1枚のことですが、身体的にも精神的にも苦しい生活をしているなかで、『実態』と合っていない『建前』として申請書を書くよう求められたのが、すごくきつかったです」
また、付き添いを病院から求められた露木さんは、「付き添い入院」は希望に応じて選択できるようにするなど、改善が必要だと考えています。

「仕事との両立など、家族の生活が立ちゆかなくなると子どもの治療もままならなくなるので、付き添うかどうかは希望に応じて選べるようにしてほしいです」

親たちの環境 実態は

支援団体「NPO法人キープ・ママ・スマイリング」は去年11月から12月にかけて、「付き添い入院」など病気の子どもに病院で付き添う経験した人を対象にインターネット上でアンケート調査を行い、約3600人から回答を得ました。

主な項目の結果は、以下の通りでした。

▽「付き添い入院」を希望したかどうか
「希望するしないに関わらず付き添いが必須だった」…70.8%、
「希望した」…27.7%

▽「付き添いを病院から要請されたか」
「要請された」…79.1%
「要請されていない」…20.9%

「付き添いが必須」が7割、「付き添いを要請された」も8割近くと、希望に関わらず医療機関からの要請に応じて付き添う親が多い状況がうかがえます。

▽付き添い中に子どものケアに費やした時間(1日あたり)
「21~24時間」…25.5%
「15~18時間未満」…12.7%
「12~15時間未満」…11.7%

「12時間以上」と答えた人はあわせて61.3%に上りました。

▽「付き添い中に行ったケアの内容」
「食事の介助」など身の回りの世話のほか、「吸引・吸入」や「バイタル確認」、「心電図モニターの取り付け」、「胃管交換」など、医療的ケアを含むさまざまなケアを担ったとの回答がありました。

こうしたケアの中には、「療養上の世話」として原則は看護師などが行う業務に位置づけられているものも含まれ、現場の人手不足を付き添う親が補っている現状が伺えるということです。

▽「付き添い入院中の食事の調達先」
「主に院内のコンビニや売店」…65.1%
「主に院外のコンビニや売店、スーパー」…8.5%
「主に病院から付き添い者に提供される食事」…5.6%

付き添う親への病院から食事の提供は、実施されている病院も一部あるものの、まだ少ないことがうかがえます。

▽「病室での睡眠について」
「子どもと同じベッドで寝ていた」…51.8%
「病院からレンタルした簡易ベッド」…32.9%
「ソファー、いす」…6.4%

自由記述には、モニターのアラーム音や看護師の巡回の音、同じ病室の子どもの泣き声などでゆっくり眠れないとの回答もあったということです。

また、「付き添い中に体調を崩したことがある」と回答した人は51.3%に上ったということです。

医師からも環境の改善求める声

医療現場からも環境の改善を求める声があがっています。

佐賀市にある佐賀大学医学部附属病院では、入院中の子どもに付き添う保護者に対して、支援団体から提供されるカレーやスープの缶詰や衛生用品などが入ったセットを毎月配っていて、この日も看護師がそれぞれの病室に届けていました。
受け取った母親は「入院が長くなると自分の食事に困るし、経済的にも負担になるので、こうした支援はとてもうれしいです。応援してもらっていると感じて励みになります」と話していました。

この病院では▽家族が寝るための簡易ベッドを有料で貸し出しているほか、▽親の負担を軽減するため保育士が子どもを一時的に預かるなどの対応をとっています。
一方、看護師の配置や付き添いの環境を大幅に変えることは病院だけでは難しく、制度そのものの改善が必要だということです。

「今の制度だと存在が無いことに」

小児科の松尾宗明医師は「入院中の子どもたちにとって付き添う家族は欠かせない存在にもかかわらず、今の制度だとその存在が無いことになっているのが問題ではないか」と指摘しています。

そのうえで「付き添う家族に食事を提供するなど、病院の環境を変えていく必要がある。一方、どうしても付き添えない家族もいるので、そういう子どもには付き添いがなくても安心して入院できる体制を整えていくべきで、国に対策を考えていただきたい」と話していました。

国に要請「改善へ向けて検討会設置を」

実態調査の結果をふまえ「NPO法人キープ・ママ・スマイリング」は1日、親の生活環境などの改善に取り組むよう厚生労働省とこども家庭庁に要請しました。
要望書では、▽厚生労働省とこども家庭庁の協力のもと、医療機関やNPO団体などとも連携し、親の生活の支援や経済的支援に取り組むことや、▽入院時の付き添い環境の改善に向けた検討会を立ち上げることなどを求めています。

要望書を受け取った、こども家庭庁母子保健課の山本圭子課長は「調査や要望の内容をしっかり確認し、厚生労働省とこども家庭庁で連携しながら、何ができるのか検討したい」と述べました。
要請のあと会見した「NPO法人キープ・ママ・スマイリング」の光原ゆき理事長は、「入院する子どもに付き添う親の環境は過酷で、厳しい状況にあります。国がリーダーシップをとり、病院や私たち支援団体も一緒になって、親が安心して子どもを見守り付き添える環境を作っていければと思います」と話していました。

海外の現状

一方、海外の病院での付き添いの経験をもとに「子どもの入院生活をよいものにするためにも、保護者が安心して付き添える環境づくりが必要だ」と指摘する人もいます。
佐藤麻弥さんは、去年5月に小児がんの1つ、神経芽腫で長男・玲恩くんを9歳で亡くしました。

「こうやって写真を眺めていると、きのうのことのように思い出しますね」

玲恩くんの治療のため、国内の複数の病院のほか、ベルギーやフランスの病院でも付き添いを経験しました。フランスの病院では、付き添う親にも無料で朝食が提供され、昼食や夕食も必要に応じて注文できたほか、病室には親のための備え付けのベッドもあったということです。

また、病院内で親がマッサージやカウンセリングを受けられるなど、子どもから離れて体を休めたり気分転換したりするための環境も整備されていたということです。

「付き添う私たちの健康面や食事面も一緒に考え大事にしてくれていると感じられて配慮がありがたかったし、カルチャーショックでした」
そのうえで今、親が笑顔で子どもを支えられる環境づくりは、子どもの療養環境をよりよいものにするためにも大切なことだと佐藤さんはいいます。

その理由について、かつて玲恩くんに言われたことばを思い出しながら話してくれました。
「私もはじめの頃、息子に『ママ笑って』って、『悲しい顔していないでもっと笑って』って言われたときに、いけないって思って。自分が沈んでる場合じゃないって思ったので。そこでこの病室に来る時、息子に会う時はなるべく笑っていよう、元気でいようってずっとそれだけは思ってきていました。それを支えられる環境って、あったほうが絶対にいいと思うんですよ。そのほうが子供も、保護者がリラックスしているのを見て、笑っているのを見て安心する。それが息子が私に『笑って』って言ったことだと思うんですよね」