民団事務所に脅迫状 被告に有罪判決 “差別意識”“偏見”指摘

民団=在日本大韓民国民団の徳島県の事務所に脅迫状を送った罪に問われた被告に対し、徳島地方裁判所は執行猶予をつけた有罪判決を言い渡しました。
判決は、検察が用いた「ヘイトクライム」ということばは使いませんでしたが、「差別意識を強くうかがわせ、偏見にまみれた考え方だ」と指摘しました。

徳島市の大学生、岩佐法晃被告(40)は去年9月、徳島県小松島市にある民団の事務所に「反日政策を続けるのなら実弾によって浄化する」という内容の脅迫文を送ったとして、脅迫の罪に問われました。

裁判では、検察が差別や偏見に基づく犯罪を意味する「ヘイトクライム」ということばを使って、「韓国政府や韓国人に対する差別的な感情を持ち、一方的に怒りをつのらせた『ヘイトクライム』だ」と指摘していました。

31日の判決で、徳島地方裁判所の細包寛敏裁判官は「ヘイトクライム」ということばは使いませんでしたが、「差別意識を強くうかがわせ、偏見にまみれた考えで厳しい非難に値する」などと指摘し、懲役10か月、執行猶予4年を言い渡しました。

最後に、裁判官は被告に対して「意に沿わない人を一方的に排除することは許されることではなく、世界中どこでも変わらないことだ。あなたと違う意見を持つ人の意見こそよく聞いてほしい」と語りかけました。

民団「裁判官や検事は最善尽くしてくれた」

被害にあった民団の徳島県地方本部のカン・スンムン団長は、裁判のあとの会見で、「ヘイトクライムということばは出なかったが、判決は私たちが言いたいことを述べてくれていたように思う。きょうの時点で、これがどういった社会的なメッセージになるか分からないが、二度とこういうことが起きず、私たちが安心して暮らせる社会になってほしい」と話していました。

また、民団中央人権擁護委員会のイ・クンチュル委員長は「今ある法律でしか裁けない中で裁判官や検事は最善を尽くしてくれたと思う。ただ、抑止力が強くならなければ被害者が守られない状況が続くので、ヘイトクライムを規制する法律を、我々として求める必要があると感じた」と述べました。

専門家「実質的にヘイトクライムと認定」

今回の判決について、ヘイトクライムの問題に詳しい師岡康子弁護士は、「差別的動機に基づく犯罪で被害者に強い恐怖を与えていることを認定しているので実質的にヘイトクライムと認定したと言える。今回の判決は明確に差別意識と書かれ強く非難していることから、今までの判決よりも一歩前進している」と評価しました。

一方で、「日本ではヘイトクライムを規定する法律がないため、その判断は、裁判官一人一人に委ねられてしまっている。法律の改正も必要だが、その前にできることとして、差別的な動機がある場合は量刑を重くするなど公的なガイドラインをつくっていくことも必要だ」と話していました。

「ヘイトクライム」とは

「ヘイトクライム」は、偏見や差別に基づく犯罪を意味します。

日本では、ヘイトクライムを規定する法律はありませんが、これまでも差別や偏見に基づくとみられる事件は起きています。

おととし8月、在日コリアンが多く暮らす京都府宇治市のウトロ地区で、倉庫に火がつけられ、住宅など7棟が全半焼した事件では、放火などの罪に問われた被告が裁判で「韓国人に敵対感情があった」などと述べていました。

また、差別や偏見は、人種や民族だけでなく障害などが理由となる場合も指摘されています。

ヘイトクライムの問題に詳しい師岡康子弁護士は、7年前、相模原市の知的障害者施設で入所者19人が殺害された事件についても、障害を理由にしたヘイトクライムにあたるのではないかと指摘しています。

海外では、ヘイトクライムを法律で規定している国もあります。

アメリカはヘイトクライムであれば、通常よりも重い刑罰を科すことが法律で定められています。

また、ドイツは人種差別的な動機が認められる場合、イギリスは人種や宗教、障害などに基づいて犯罪がなされた場合に刑を重くしているということです。