北朝鮮 “ミサイルの可能性あるもの 黄海上空で消失” 防衛省

防衛省は北朝鮮から発射された弾道ミサイルの可能性があるものについて、朝鮮半島西側の黄海の上空で消失したとみられると発表しました。
宇宙空間に何らかの物体は投入されていないとみられるということです。
防衛省は弾道ミサイル技術を用いた人工衛星の打ち上げだった可能性があるとみて、詳しい分析を進めています。
一方、北朝鮮は、国営の朝鮮中央通信を通じて軍事偵察衛星の打ち上げに失敗したと明らかにしました。
原因を調査したうえで、速やかに2回目の打ち上げを行うとしています。

防衛省によりますと、31日午前6時28分ごろ、北朝鮮西岸のトンチャンリ付近から1発の弾道ミサイルの可能性があるものが南の方向に発射され、6時35分ごろ朝鮮半島西側の黄海の上空で消失したとみられるということです。

宇宙空間に何らかの物体は投入されていないと推定されるとしています。

日本の上空や、EEZ=排他的経済水域への飛来は確認されておらず、航空機や船舶への被害の情報も入っていないということです。

北朝鮮は31日午前0時以降「人工衛星」を打ち上げるとしていて、予告した方向に発射されたということですが、飛行距離や高度などについては分析中だとしています。

防衛省は、予定どおりに飛行した場合、沖縄県の上空を通過する可能性があるとして、一部が落下する事態に備えて自衛隊の迎撃ミサイルの部隊などを沖縄県に展開していますが、破壊措置は実施していないということです。

防衛省は今回の発射について、弾道ミサイル技術を用いた人工衛星の打ち上げだった可能性があるとみて、詳しい分析を進めるとともに、北朝鮮が打ち上げを予告している期間の6月11日までは、今の警戒態勢を続けるとしています。

松野官房長官「北朝鮮に挑発行動の自制など求めていく」

松野官房長官は午前の定例の記者会見で、記者団から「北朝鮮の軍事偵察衛星が実際に運用された場合、日本や地域の安全保障にどのような影響があると思うか」と問われ「北朝鮮は軍事偵察衛星の目的について、アメリカ軍などの軍事行動の情報をリアルタイムで収集することだと表明している」と述べました。

そのうえで「仮に北朝鮮がこうした軍事偵察衛星を保有するに至った場合、核、ミサイルをはじめとする軍事力の運用を強く補完し、わが国や地域、国際社会の平和と安全を脅かすおそれがある。政府として、引き続き、あらゆる事態に対応できるよう、情報収集と警戒監視に全力を挙げるとともに、今後の対応に万全を期していく」と述べました。

また松野官房長官は、北朝鮮が速やかに2回目の発射を行うとしていることについて「北朝鮮メディアの発表は承知しているが、一つ一つにコメントは控える。アメリカや韓国などと緊密に連携しつつ、北朝鮮に対し、挑発行動の自制や関連する国連安保理決議の順守を求めていく」と述べました。

北朝鮮 軍事偵察衛星の保有を目指す理由は

北朝鮮が軍事偵察衛星の保有を目指している理由について、日本や韓国の専門家からは、弾道ミサイルなどの兵器の運用と密接に関係しているとの指摘が出ています。

北朝鮮は、アメリカ本土をねらうICBM=大陸間弾道ミサイルや韓国にある軍事施設などをねらう戦術核を搭載可能な短距離弾道ミサイルなどの開発を進めています。

さらに偵察衛星によって、リアルタイムでアメリカ軍の空母打撃群などの動きを把握し、弾道ミサイルで攻撃できる能力を持つことで、有事の際、アメリカ軍が朝鮮半島に戦力を投入することをためらわせようというねらいがあるのではないかとしています。

一方で、地上の撮影や交信、管制システムなどの面で、北朝鮮の宇宙開発技術は初期段階であるほか、北朝鮮が、複数の偵察衛星が必要だとしていることから、専門家らは、今後も打ち上げを繰り返すだろうとの見方を示しています。

日本航空 パイロットに発射の情報を伝えるなどの対応

北朝鮮から弾道ミサイルの可能性のあるものが発射されたことを受けて、日本航空では旅客機のパイロットに対し、発射の情報を伝えるなどの対応に追われました。
会社では引き続き、運航の安全確保を徹底することにしています。

東京 品川区の日本航空の本社にある、オペレーションセンターでは、およそ20人の運航管理者が、24時間体制で世界中で運航している旅客機の監視などの業務に当たっています。

会社によりますと、北朝鮮から弾道ミサイルの可能性のあるものが発射された31日午前6時28分ごろ、イギリスから羽田空港を向かう便が朝鮮半島周辺の上空を、シンガポールから羽田空港に向かう便が、台湾の南の周辺を飛行していました。

そのため、運航管理者からパイロットに対して、政府からJアラート=全国瞬時警報システムが出されたことや、発射された方角などの情報を直ちに知らせたということです。

オペレーションセンターで運航管理者を務める安廣祐太さんは「今後、2発目の発射の可能性も考えられるので引き続き動向を注視していく。パイロットには、迅速に情報共有して、安全運航を維持していきたい」と話していました。

海運会社は引き続き警戒を強める

北朝鮮が速やかに2回目の発射を行うとしていることを受けて海運会社は、船舶への注意喚起を行うなど引き続き警戒を強めています。

海運大手「商船三井」は、東京 港区の本社にある「安全運航支援センター」で世界の海を運航するおよそ800隻の船舶を24時間体制で監視しています。

センターでは、北朝鮮が「衛星」と称する弾道ミサイルを発射した場合に、落下が予想される3つの海域をモニターに赤色で表示し、この海域に船舶が入らないようチェックしています。

そして31日朝、弾道ミサイルの可能性があるものが発射された際には、担当者が、赤色で表示した海域の近くを運航していた3隻の船舶と連絡をとり、安全を確認したということです。

商船三井安全運航支援センターの渡邊丈洋センター長は「予告されていた6月11日まで期間があることもあり、引き続き船をモニターして、注意喚起をしていく。ふだんから有事の際の対応は頭の中に入れているが、緊張感を持って対応していきたい」と話していました。

専門家 “失敗したとしても、2号機、3号機と次に”

北朝鮮政治に詳しい慶應義塾大学の礒崎敦仁教授は、今回の軍事偵察衛星の打ち上げをめぐる北朝鮮国内の受け止めについて「一般の国民は公式メディアが発表しないかぎり、知りうる立場にない。宇宙空間から撮影した画像を見せて堂々と誇示したかったはずだが、それができない中で、どういうふうに国内に対して説明するかを整理している最中だろう」と述べ、来月上旬に開かれる朝鮮労働党の中央委員会総会で今回の発射をどのように扱うのかが注目されると指摘しました。

一方で、北朝鮮が対外向けに国営通信を通じて打ち上げ失敗を明らかにしたことについては「日米韓にどうこう言われるよりも前に事実を発表したかったのだろう。2012年4月の失敗と非常に似通っているところがあり、失敗は失敗として認めて、その原因を究明して乗り越えろというキム・ジョンウン政権の性格がかいま見れた」と述べました。

その上で「キム総書記みずから、今回は1号機の打ち上げと言っていて、たとえ失敗したとしても、2号機、3号機と次につなげ、中長期的に軍事力全体の向上を図っていくという考え方だろう」と指摘しました。

さらに礒崎教授は、今後の2回目の打ち上げについて「2012年4月に失敗したときには、8か月後に発射に成功したと発表している。それよりはもう少し早く成功につなげたい思いがあるだろう。特に『国防5か年計画』の一環としてやっている中で、もう3年目の半ばに入っているので、早めに進められるものは進めたいところだろう」という見方を示しました。