北朝鮮 “初の軍事偵察衛星” 国際機関に対しても通告

北朝鮮の朝鮮労働党の幹部は、初めてとなる軍事偵察衛星が6月に入ってまもなく打ち上げられると30日、明らかにしました。アメリカや追従勢力の軍事行動をリアルタイムで追跡・監視するとしていて、北朝鮮が「人工衛星の打ち上げ」と称して事実上の長距離弾道ミサイルを発射すれば、2016年2月以来となります。

一方、北朝鮮は、5月31日から6月11日までの間に人工衛星を打ち上げる計画について、IMO=国際海事機関に対しても通告したことがわかりました。

北朝鮮の朝鮮労働党中央軍事委員会のリ・ビョンチョル副委員長は30日、国営の朝鮮中央通信を通じて談話を発表し、初めてとなる軍事偵察衛星が、6月に入ってまもなく打ち上げられると明らかにしました。

談話では、アメリカと韓国が25日から大規模な射撃訓練を始めるなど、朝鮮半島と周辺地域の軍事的緊張をさらに高めていると非難したうえで、軍事偵察衛星について、「アメリカや追従勢力の危険な軍事行動をリアルタイムで追跡・監視し、軍事的準備態勢を強化するうえで不可欠だ」と強調しています。

また、軍事偵察衛星1号機の打ち上げとは別に、「多様な偵察手段の実験を新たに行う予定だ」としていますが、具体的には触れていません。

これに先立って北朝鮮は、31日から6月11日までの間に「人工衛星」を打ち上げる計画だと、日本側に29日、通報していました。

北朝鮮が「人工衛星の打ち上げ」と称して事実上の長距離弾道ミサイルを発射すれば、2016年2月以来で、北朝鮮に対し弾道ミサイル技術を使った発射を禁じた国連安全保障理事会の決議に違反することになります。

北朝鮮の「偵察衛星」開発めぐる動き

北朝鮮のキム・ジョンウン(金正恩)総書記が、おととし1月の朝鮮労働党大会で打ち出した「国防5か年計画」には、初めてとなる軍事偵察衛星の開発が盛り込まれています。

これに基づいて、北朝鮮は去年の2月と3月、ピョンヤン郊外からICBM=大陸間弾道ミサイル級の弾道ミサイルを1発ずつ発射し、いずれも「偵察衛星の開発のための重要な実験を行った」と発表しました。

また、この年の3月には、キム総書記が国家宇宙開発局と「ソヘ(西海)衛星発射場」を相次いで視察し、今後、多くの偵察衛星を軌道に乗せると強調しました。

さらに北朝鮮は、去年12月にも「ソヘ衛星発射場」から準中距離弾道ミサイル2発を発射して、偵察衛星の開発に向けた「最終段階の実験」を行ったと発表し、国家宇宙開発局が、ことし4月までに「軍事偵察衛星1号機の準備を終える」と明らかにしました。

そして4月18日、キム総書記は国家宇宙開発局を再び視察し、軍事偵察衛星1号機が完成したとして、計画された期間内に打ち上げられるよう最終準備を急ぐ方針を示します。

さらに、アメリカの研究グループが衛星写真の分析から「ソヘ衛星発射場」で固定式発射台の近くにクレーンが設置され改修工事が進められていると指摘する中、5月16日、搭載準備が完了したとする軍事偵察衛星1号機を、キム総書記が視察し、今後の行動計画を承認していました。

浜田防衛相「警戒監視に全力を挙げる」

北朝鮮から通報があった「人工衛星」の打ち上げ計画について、浜田防衛大臣は、「衛星」と称しても、過去の例を踏まえれば弾道ミサイルと推定され、国民の安全に関わる重大な問題だとして、情報収集や警戒監視に全力を挙げる考えを示しました。

北朝鮮が5月31日から6月11日までの間に「人工衛星」を打ち上げると海上保安庁に通報したことを受けて、浜田防衛大臣は5月29日、自衛隊に対して日本の領域への落下に備え、迎撃できるようにするための「破壊措置命令」を出しました。

これについて浜田防衛大臣は閣議のあと記者団に対し「北朝鮮が『衛星』と称して発射を表明したものは過去の例を踏まえれば、弾道ミサイルと推定される」と指摘しました。その上で「北朝鮮による弾道ミサイル技術を用いた発射は国連安保理決議に違反し、国民の安全に関わる重大な問題だ。アメリカ、韓国などと緊密に連携しつつ北朝鮮に対し挑発行為の自制や安保理決議の順守を求めるとともに引き続き情報の収集、分析、警戒監視に全力を挙げていく」と述べました。

松野官房長官 「情報を入手後は速やかに発表」

松野官房長官は閣議のあとの記者会見で「北朝鮮の軍事動向に平素から重大な関心を持って情報収集、分析に努めている。防衛省・自衛隊は、各種情報を踏まえた総合的な分析評価などに基づき、適切な体制を構築しており、北朝鮮からミサイルが発射された場合、公表すべき情報を入手した場合には速やかに発表する」と述べました。

その上で「人工衛星の打ち上げには弾道ミサイルとほぼ同一で互換性のある技術が組み込まれており、北朝鮮が用いる呼称にかかわらず、今回も弾道ミサイル技術を使用すると考えている。いかなる発射も国連安保理決議に違反する」と述べました。

林外相「北朝鮮に対して自制を求める」

林外務大臣は記者会見で「北朝鮮が『衛星』と称する弾道ミサイルの発射を強行することは、わが国の安全保障に対する重大な挑発行為であり、北朝鮮に対して自制を求めている。今後の対応は予断できないが、国連安全保障理事会における対応を含め、アメリカや韓国などと緊密に連携しながら関連する国連安保理決議の順守を求めていきたい」と述べました。

消防庁が市町村にJアラート通知

北朝鮮が「衛星」と称する弾道ミサイルを、31日以降発射する構えを見せていることを受けて、総務省消防庁は、Jアラート=全国瞬時警報システムの情報を住民に確実に伝達できる体制をとるよう、全国の市区町村に通知しました。

Jアラートの情報伝達をめぐっては、過去の北朝鮮による弾道ミサイルの発射の際、情報を受けた自治体で、防災行政無線から音声が流れないなどといったトラブルがたびたび確認されています。

こうしたことも踏まえ、総務省消防庁はJアラートによる情報伝達の体制を改めて確認するよう、全国すべての市区町村に29日通知しました。
この中では、
▽Jアラートに加え
▽エムネット=緊急情報ネットワークシステムの情報を確実に受信した上で住民に伝達できるよう、関連する機器の点検を行うよう求めています。

また、消防庁は、
▽休日・夜間を含む危機管理体制の点検を行い緊急時の情報収集や伝達に万全を期すことや
▽万が一の事態に備え、消防隊の応援態勢を確認することなども通知しました。

松本総務大臣は、閣議のあとの記者会見で、「弾道ミサイルが想定される方向の県などと緊密に連携し、国民への情報伝達も含めて安全の確保に万全を期していきたい」と述べました。

海上幕僚長 「万全の態勢で臨めると考えている」

北朝鮮から通報があった「人工衛星」の打ち上げ計画について、海上自衛隊トップの海上幕僚長はイージス艦を展開させて日本に落下する場合に備える考えを改めて示しました。

北朝鮮は31日から6月11日までの間に「人工衛星」を打ち上げると日本に通報しています。酒井良 海上幕僚長は30日の記者会見で、「万が一日本の領域に落下する場合に備えて、イージス艦が所要の態勢を取っている。対応できるエリアに配備をしているので、万全の態勢で臨めると考えている」と述べました。

その上で、「北朝鮮が人工衛星と称して弾道ミサイル技術を使った発射を強行することは、日本の安全保障に対する重大な挑発行為と考えている。引き続きアメリカ軍などと緊密に連携しつつ、あらゆる事態に対応できるよう必要な態勢を取っていく」と述べました。

また、海上自衛隊の護衛艦が29日、自衛艦旗の「旭日旗」を掲げて韓国に入港したことについて、「海上自衛隊と韓国海軍の関係を改善する上で、極めて大きなステップだと捉えている。韓国海軍とはより強固な連携態勢を構築する必要があると考えており、実績を積み重ねて相互の信頼性を向上させることが重要だ」と述べ、交流を促進していく姿勢を示しました。

奄美大島の漁業者 「頭の上を飛ぶかもしれないので不安」

北朝鮮が31日から6月11日までの間に「人工衛星」を打ち上げる計画だと、日本側に通報したことを受けて、鹿児島県の奄美大島では漁業を営む人たちの間から不安の声が上がっています。

奄美大島で漁業を営む長谷川祝次さん(40)は、月に2週間ほど東シナ海でマグロ漁を行っています。6月にかけての漁の予定は台風2号の影響もあるため現段階では未定だということですが、北朝鮮の今後の動きを心配していました。

長谷川さんは「頭の上を飛ぶかもしれないので不安です。ラジオやスマホの情報を細かくチェックするしかないです」と話していました。

石垣島 PAC3到着も部隊展開の様子確認できず

「衛星」と称する事実上の弾道ミサイルが予告通りに発射された場合、沖縄の石垣島などの先島諸島周辺の上空を通過する見通しです。

石垣島には、すでに自衛隊の迎撃ミサイルPAC3が到着していますが、台風2号の接近に伴い風が強まっていて、30日夕方の時点で展開する予定となっている埋め立て地に部隊が展開する様子は確認できていません。