始動!“U-39”の信用金庫チーム

始動!“U-39”の信用金庫チーム
「娘みたいな感じで話しやすくて、いろいろ相談させてもらってます」

ある信用金庫の支店で、そう話すのは50代の女性客。

従来の信用金庫のイメージとは異なる、カフェのような雰囲気の店内で働いているのは20代と30代の若手職員ばかり。

“アンダー39”だけを集めた支店を開設した信用金庫のねらいとは…

(大津放送局記者 河原愛美)

カフェのような信用金庫

びわ湖から歩いて5分ほど。

住宅や商店が建ち並ぶ滋賀県大津市膳所の静かなエリアにその支店はあります。
49年前から営業してきましたが、建物の老朽化で建て替えを行い、2022年11月、リニューアルオープンしました。

店の中に入ると、これまでの信用金庫のイメージとは異なる空間に驚かされます。
びわ湖の形をイメージしたアート作品。

金融機関によくある窓口の仕切りや長いすはありません。

代わりにおしゃれなテーブルやイスが置かれ、カフェのような雰囲気になっています。

また、地域の子育て施設の地図や地域のイベント情報を掲示した掲示板も。

職員は20代と30代だけ

働く職員も通常の信用金庫とは異なります。
この支店で働くのは、23歳から39歳までの職員7人。

このうち20代が4人。

社内公募などで集められました。

この信用金庫は滋賀や京都などに100近くの支店がありますが若手だけを集めているのはこの支店だけです。
支店を訪れていた女性客
「娘みたいな感じで話しやすくて、いろいろ相談させてもらっています。分からないことでもいろいろと勉強して教えてくださるのでとても助かります」

38歳支店長「若手の行動力と感性で」

支店長は38歳。

滋賀、京都、大阪にある支店の中で最も若い世代の支店長です。
京都信用金庫膳所支店 小寺慎吾 支店長
「職員どうしは年が近いですからどんなことも話しやすく、ざっくばらんなアイデイアが次々と出てくる。若手の行動力と感性でこの地域に新しい動きを生み出していきたい」
地域の変化にも目をつけ、自分と同じ若い世代の顧客の開拓にも力を入れていきたいと考えています。
小寺慎吾 支店長
「この地域は、長く住んできた住民が多くいる一方で、京都や大阪などへの通勤にも便利なため最近マンションが相次いで建ち、ファミリー層なども引っ越してきている。店内に貼っている子育て施設の地図は、こうした世代にアプローチしたいというねらいから。地元の幅広い世代の人たちが楽しんでくれるような仕掛けを、地域に入り込んで考えていきたい」

信用金庫トップが語る“ねらい”

なぜ、若手だけの支店を開設したのか。

京都市の本店で榊田隆之理事長に聞きました。

従来の金融業務に加えて、「地域」の課題解決に主体的に関わる人材を育てることだと言います。
京都信用金庫 榊田隆之 理事長
「まちづくりというのは10年20年かけて作っていく、非常にロングタームの仕事になってくる。その期間、しっかりと見届けられる若い人たちが、地域の方々と一緒になって、この10年後20年後を作っていく。そのためにはやっぱり若い人がいいんじゃないか」

窓口業務は“正午まで”

こうして始動した“U-39チーム”は、新たな取り組みを始めました。

窓口の業務は通常、午後3時までのところ、あえて「正午まで」としました。

窓口で“待つ”のではなく、“まちに出て”地域の人たちの話を聞く時間を増やすためです。

午後1時を過ぎると、支店の外に出かけていく職員たち。

入社5年目の田中快人さん(26)に同行させてもらいました。
別の支店で窓口業務や地域の事業者への営業などの業務を担当していましたが、「若手だからこそ挑戦してみたい」と、社内公募でこの支店への異動を希望したそうです。

地域の中小の事業者などを1つ1つ回り、声を聞きます。
めがねや時計などの販売店 店主の妻
「お客さんはコロナのときに比べるとだんだん来てくれていますが家に引きこもっている人もいるのでぼちぼち頑張っていきたいと思います」
和食料理店のおかみ
「コロナ禍ではお酒が出なかったから、客1人あたりで使ってくれる単価が全然違った。コロナ前は大勢に来てもらっていたが、いまだに戻らない」
田中さんがまちに頻繁に出るようになって痛感したのは、地域の事業者が新型コロナや高齢化の影響でいま厳しい状況に直面していることでした。

地元の商店街に昔は100以上の店舗がありましたが、いまは30店舗ほどに減ってしまっているといいます。
田中快人さん
「以前はどうしても金融業務に追われてしまったりとか金融の話メインでしていた自分がいたんですけどこっちに来てからは、まちづくりというところをまず前提に少しでもにぎわいを取り戻していきたいと思っています」

交流の場づくりに挑戦

そんな田中さんが考えたのが、地元の人が集まる交流の場を設けることでした。

3月下旬、地域の店に呼びかけてイベントを開きました。
きっかけはことし2月。

地元にあるクラフトビール店の店主から相談を受けたことでした。

「コロナ禍でオープンした店がまもなく開店1周年。感謝の気持ちを地域の人へ伝えたい。店の存在を地域の人たちに伝えるためにもイベントを開催したい」

これを聞いた田中さんは、このイベントを1つの店だけでなく、地域の事業者が集まる場にしたいと考えました。

早速、田中さんたちは、地域の事業者へ声をかけました。

アップルパイやおにぎり、焼き芋を販売する店など、6つの店が出店することになりました。

雨にもかかわらず

さまざまな準備に奔走して迎えたイベント当日。

あいにくの雨となりましたが、次々と地元の人たちが集まってきました。
その数、1日で200人以上。

出店した地元のどら焼き店は用意したおよそ100個が午前中で売り切れました。
どら焼き店の店主
「うちの店の場所を聞いてもらったり、気にしてもらったり。きょうは1日雨だったのにたくさんお客さんに来ていただいて、すごいなと思いました」
出店はしなかったものの、この地域で飲食店を営む店主も客として来ていました。

今回のイベントに励まされたということで、「クラフトビール店はコロナ禍でオープンされていてすごいなと思います。1周年迎えられておめでたいと思います。僕らも、もっと頑張らなあかんなと思いました」と話していました。

田中さんは、今回のイベントを通じて地域に根ざした信用金庫だからこそ、まちの活性化に一役買えるのではないかと手応えを感じていました。
田中快人さん
「コロナでほとんどの事業者さんが大変だった中で財務面だけじゃなくて、いち地域住民として、一緒にまちを盛り上げる仕組みというものを誰かが作らないといけないですし、まちを盛り上げるプレイヤーを増やしていって、地域みんなで、地域を自分事としてとらえて、みんなで盛り上げていく必要がある」

“おせっかいバンカー”として

信用金庫は大手の金融機関と比べて規模が小さく、より地域に密着して中小の事業者などを支援しています。

高齢化やコロナで地域の住民や中小の事業者が苦境に立たされる中で、信用金庫も新たな役割を迫られてきていると、榊田理事長も話します。
榊田隆之 理事長
「われわれ信用金庫も、コロナで本当に苦しい思いをする中小企業の皆さん方に真剣に向き合ってきたのが、この3年間だった。本質的にわれわれは、お金の融通だけではなくて、もっと事業の課題を解決していくことに対する習慣がついたんじゃないか。“事業の再構築”、こういう新しい、いわゆるイノベーションとかリノベーションとかがすごく求められている。交流の場やたまり場のようなコミュニティーが少しずつ社会から消えるというまちの課題には“おせっかいバンカー”として人と人とをつないで解決していきたい」
さらに。

職員の高齢化が進む信用金庫自身にとっても、若手がやりがいを持って働ける環境作りは必要になってきているといいます。
榊田隆之 理事長
「若い人たちにやっぱりもっと活躍できる場を意図的に作っていかないと、なかなか自分たちのやりたいことができにくいという思いにつながっていく。まずは任せてみるということ。任せてみて何が起こるかというのを、若い人のチャレンジをわれわれも一緒に見守っていきたい」

“U-39信用金庫チーム”を同じ世代の記者が取材して

“U-39信用金庫”チームでは、この記事で紹介した「食を通じたイベント」のほかにも、地域の活性化につなげようと、「次の一手」のアイデアを出し合っています。

びわ湖の湖畔にある公園に、滋賀県内外からビジネスマンや事業者を呼んで一緒にテレワークして交流を深めてもらうイベントを地元の市民グループと協力して定期的に開く予定です。

また、地域にある「空き家」や「空き地」を再利用した新たな事業者の誘致にも取り組みたいと話していました。

若手職員ならでは強みをいかし、地域の人たちと力を合わせて、まちや信用金庫をどのように変えていくのか、今後も注目したいと思います。
大津放送局記者
河原 愛美
会社員やラジオパーソナリティーを経て、2022年から記者
滋賀の地域の話題や伝統文化などを取材