就活の二極化?早期内定の一方で不安につけ込む高額セミナーも

来年春に卒業する大学4年生などを対象とした企業の採用面接が来月1日から始まります。
大学3年生などを対象にした企業で仕事を体験するインターンシップも来月以降、本格的に始まりますが、就職活動をめぐっては学生の不安につけ込んだトラブルも相次いでいて、関係機関が注意を呼びかけています。

“ことしの就活は2極化” 大学から指摘も

ことしの就職活動について、早期に複数の内定を得るなど順調に進めている学生と、成果がなかなか出ない学生とで2極化しているという指摘が出ています。
東京 板橋区の大東文化大学のキャリアセンターによりますと、ことしは就職活動の早期化が進んでいて、今月時点ですでに内定や内々定がある学生が多く、複数社から得ているケースも目立つということです。

一方「就職活動のしかたが分からない」とか「コロナ禍で情報が集まらない」といった相談も寄せられているということです。

大学では、コロナ禍で入学当初から講義やサークル活動が制限され、人間関係がうまく築けなかったり情報収集が十分できなかったりした学生が就職活動につまづいている可能性もあるとみています。
大東文化大学キャリアセンターの細田咲江所長は「学生の動きには開きがあり、コロナで内向き思考になった学生は活動のきっかけをつかめていない状況がある。大学としてもサポートしていきたい」と話しています。

7割の学生に内々定 民間調査

人材サービス会社の「リクルート」が今月、来年春に卒業する予定の全国の大学生や大学院生を対象に行った調査では、今月15日時点で、企業から内々定を受けた学生は72.1%と去年の同じ時期より6.7ポイント増えています。

また、学生1人当たりの内々定を受けた企業の数は平均で2.22社と、去年の同じ時期から0.04社増加し、2社以上から得ている割合は58.6%と去年より2.3ポイント上がっています。

すでに内定のある学生 ない学生は

ことしの就職活動について学生に聞きました。
まずはすでに内定を持っている学生です。

都内の大学に通う男子学生
「周囲のだいたい6割くらいは内定を持っています。自分は大学3年の11月ごろから就職活動を始めて、2社から内定をもらっています。就職活動が早期化していて、去年の秋から内定を持った人がいて不安でしたが、内定がとれてよかったです」

不動産業界への就職を希望する女子学生
「大学3年生の6月から就職活動を始めていて、すでに4社ほど内定を持っています。周りでも内定を持っていない人は少なく、内定を取りやすい流れになっている」

一方で、内定が出ていないという学生にも話を聞きました。

女子学生
「まだ内定が出ていません。コロナで人と接する機会が少なく、周りに聞きにくい状況なので不安に思うことがあります」

別の女子学生
「まだ内定を持っていませんが、同級生から内定したという話を聞くので不安な気持ちがすごくあります。自分がやってきたことに自信を持ってこれからの就職活動を頑張っていきたいです」

不安につけ込むトラブルも

就職活動をめぐっては、学生の不安につけ込んだトラブルも相次いでいます。国民生活センターによりますと「就職活動をきっかけに高額なセミナーの契約を結んでしまった」といった学生などからの相談は昨年度、全国で198件と、前の年度から46%増えました。

SNSやインターネットをきっかけに「セミナーを受ければ大手企業に100%内定する」と断定的に説明したり、「今契約しないと内定がもらえない」などと不安をあおったりして勧誘するのが特徴だということで、国民生活センターは注意を呼びかけています。

大東文化大学のキャリアセンターではスタッフが常駐して相談に応じているほか、典型例について周知したりガイダンスを行ったりして注意を呼びかけています。

大東文化大学キャリアセンターの細田咲江所長は「コロナ禍で活動量や情報量に関する学生の不安が高まり、それをあおるやり方が顕在化していると思う。就職活動で迷ったりうまくいかなかったりしたらまずキャリアセンターに相談に来てほしい」と話していました。

“うそついて就活イベントに勧誘” 学生が証言

就職活動中の学生にうそを言って、就活イベントに勧誘したことがあるという女性がNHKの取材に応じました。

この女性は20代の大学生で、みずからも就職活動中だった去年、人材関連の会社で数か月、インターンとして働いていました。

この会社が開催を予定していた就活イベントの参加者を集めるため、自身が学生であることを隠し、会社の正社員を装って勧誘するよう上司から指示されたといいます。

「イベントに参加した企業からいきなり最終面接に案内され、その場で内定がもらえる」とか、「内定の可能性が高くなる」といった誘い文句を使って、特別な選考ルートがあると呼びかけるよう指示されました。

しかし、上司からは「実際にはそうした選考ルートはなくうそだ」と説明され、理由を尋ねると「そのほうが学生の食いつきがよく、たくさん集められるからだ」と言われたということです。

イベントに学生をたくさん集めれば、その分、参加企業から高い金額を受け取れると説明されたということで、女性は罪悪感を持ちながらも逆らうことができず、10人以上の学生を勧誘したということです。

女性は当時の心境について「社員からは『何のためにインターンとして雇って金を払っているのか』と言われしたがってしまいました。自分が学生ということもあり、相手の気持ちがよく分かるので、いくつかうそも混ぜながら勧誘していたことに違和感というか、つらいなという気持ちもありました。誘った学生には申し訳なく思います」と話していました。

専門家 “有象無象の多くの情報 正解を求めてしまう”

就職活動に詳しい採用コンサルタントの谷出正直さんは「今、就職活動をしている学生は、大学に入ったタイミングでコロナの感染が拡大した世代で、縦も横もつながりを作りにくい中で就活をせざるをえない状況だ。経済の回復や人手不足を背景に企業の採用活動の早期化が進んでいるが、就職活動のやり方や情報の取り方を知る機会がある人とない人の差はすごく大きく分かれるので、売手市場になったから誰にでも内定が出るわけではなく2極化が進んでいる」と分析しています。

そのうえで、学生がトラブルに巻き込まれる背景については「誰からも就活のアドバイスをもらえない中で不安感が出てきている。SNSやインターネットでたくさん調べても、有象無象の多くの情報があって何がいいのか悪いのか分からなくて正解を求めてしまう」と指摘しています。

さらに「セミナーを悪用しようとする企業が一部であり、そうした企業にとって学生の個人情報の2次利用も利益が生み出せる。学生の個人情報を得たいと思うような企業があり、個人情報が売買される」と述べ、自分の個人情報がどう扱われるのかにも注意が必要だとしています。