“あ、これまずいな” 10代や20代も尿漏れ 1人で悩まないで

“あ、これまずいな” 10代や20代も尿漏れ 1人で悩まないで
「かがんだときに止めることができないというか、尿漏れをしてしまったときに『あ、これまずいな』と思いましたね」

実情を明かしてくれたのは、お笑いタレント、森三中の黒沢かずこさん(44)です。40歳以上の女性の3人から4人に1人が経験していると言われる「尿漏れ」。10代や出産を経験していない20代も、症状に悩んでいることがわかってきました。(スポーツニュース部記者 沼田悠里)

「トイレに行きたいと思った時にはもう遅い」

長年、尿漏れの悩みを抱えているのは、お笑いタレント、森三中の黒沢かずこさんです。

年々、症状が進んでいるようにも感じているという黒沢さん。
その不安を口にしました。
黒沢さん
「かがんだときに止めることができないというか。尿漏れをしてしまったときに『あ、これまずいな』と思いましたね。昔よりも我慢できなくなってきたというか、最近だと玄関開けたとたんに安心してなのかストップができなくなっちゃうんですよね。『トイレに行きたい』と思ったときにはもう遅いです」
「安心のため」に手放せないのが、専用の尿漏れパッド。

どうにか症状を改善させたいと思っていますが、なかなか難しいといいます。
黒沢さん
「年齢が40超えて、将来のことが不安です。症状を改善するには、骨盤底筋を鍛えることが必要だと知っていますが、なかなか続かないんですよね。ちょっと変えていかなきゃなと思います」

20代の6割弱が経験 女性の2人に1人以上が!?

40歳以上の3人から4人に1人が経験しているという「尿漏れ」。

加齢や出産の影響だと言われていますが、20代でも尿漏れに悩むケースが多いことがわかってきました。
大手日用品メーカーが20代から60代の4万人の日本女性を対象に2019年に行った実態調査の結果です。

「尿漏れの経験がある」と答えた20代は、57.1%に上りました。30代も64.4%が経験し、どの世代をみても6割前後に。

年齢に関係なく、症状が起きていることがわかります。さらに、尿漏れを経験した20代のうち、6割以上が出産を経験していませんでした。

この結果について、亀田メディカルセンター「ウロギネ・女性排尿機能センター」のセンター長、野村昌良医師に聞きました。
野村医師
「20代、30代の半数以上が尿漏れの経験を持っていて、60代まで各世代がいずれも6割前後というのは、非常に驚く結果です。このおよそ30年で、女性の尿漏れに関する外来数は劇的に増えました。もともと泌尿器科は加齢を危険因子とする男性の前立腺肥大や前立腺がんなどを治療することで知られていたため、女性が診察に来ることはほとんどありませんでした。2001年に「過活動膀胱」という尿意切迫感を重視した新しい疾患概念が提唱され、具体的な症状が報道などで知られるようになると、これらに思い当たる女性が来院するようになりました。働く女性が増え始めたことも、経済的・社会的に治療を受けたいと思う人が増加した要因といえるかもしれません。また、インターネットの普及やSNSの登場で、女性の尿漏れの仕組みや要因などの情報が徐々に世の中に広がっていったことで、女性の尿漏れが顕在化し、外来数の飛躍的増加につながったと考えています」
※ウロギネ=泌尿器科を意味する「ウロ」と婦人科を意味する「ギネ」を合わせた造語で泌尿器科と婦人科の境界領域にある病気を治療する診療科のこと。

10代でも!? 「生理がきたのかと思ったら…」

さらに取材を進めると、10代から尿漏れを経験するケースがあることもわかってきました。取材に応じてくれたのは、トランポリンの佐藤優菜選手(26)です。
15歳の頃、練習中に、思わぬ感覚に襲われたといいます。

「生理がきたのかな?」

トイレで確認すると、経血はついていないのに下着がぬれていて、不思議に思いました。その後、同じようなことがたびたび起きて、尿漏れを自覚するようになったといいます。

練習や競技の最中に、いつ症状が出てしまうのか。その不安から集中力が途切れ、危険を感じることもありました。
佐藤選手
「トランポリンはジャンプが沈んだ時に、すごくおなかに力を入れるのですが、いつ症状がくるかはわからないですし。トランポリンは特に高いところで回転するので、少しでも集中力が切れると、命につながる危険がある競技なので練習にはすごく影響していたと思います」
佐藤選手は当時、シートをつけて対処しましたが、競技でレオタードを着た時は、もれてしまうのではないかと、常に心配だったといいます。

そして、「自分の体は大丈夫なのか」。不安を抱えるようになりました。

それでも、当時は誰にも相談することができなかったといいます。
佐藤選手
「誰に言ったらいいかもわからないし、周りの選手に聞いていいのかなという思いはありました。なぜ症状が出てしまうのか。自分の体は大丈夫なのか不安でした」

指導者も戸惑い

症状が出た教え子に、どう対応すればいいか戸惑う指導者もいます。長年、大阪 八尾市の強豪トランポリンクラブで指導する、井上涼子さんです。

練習中、時にはレオタードがぬれている状況も目の当たりにしたといいます。どうすれば状況を改善し、教え子の不安を拭ってあげられるか、頭を悩ませています。
井上涼子さん
「いつもこちら側から『どうなん?』みたいな感じで、ちょっと聞いたりはするんですけど、なかなか素直には言ってもらえないです。聞くとやっぱり恥ずかしそうな顔をするので。
選手どうしでも症状がない子からしたら『え?』みたいな。コーチにしてみてもそうですし、筋力の不足とかがあるんじゃないの?みたいになるので、なかなか言えなかったりするのかなぁと。
みんなと一緒にいる時は楽しく競技をしてほしいです。言いだしにくい症状だからこそ、10代でも尿漏れの症状が出ることもあると、もっとみんなに知ってもらいたいです。原因や対策がわかれば、本人や家族も対応できるようになるし、周りももっと支えやすくなると思います」

なぜ10代20代が? カギは「骨盤底筋」

なぜ10代や20代に、症状が現れるのでしょうか。

そもそも女性は、男性より尿道が15センチほど短く、尿漏れが多いと言われています。カギは、骨盤近くのぼうこうや子宮を支える筋肉の「骨盤底筋」です。
尿道を適切に締めるもとになっています。

これが、加齢や出産をきっかけに衰えてしまうと、尿漏れが起こりやすくなると言われています。

ところが、10代や20代でも、ジャンプやランニングなどで日常的に強い腹圧がかかると、骨盤底筋がダメージを受けて弱くなってしまい、症状を引き起こしてしまうのです。

1人で悩みを抱えないで

順天堂大学女性スポーツ研究センターがおよそ400人の(平均年齢23.08歳)女性アスリートを対象に、2019年に行った対面のアンケート調査では、「スポーツをしているときに尿漏れの経験がある」と回答したのは、平均24.8%。

このうち、半数近くがパフォーマンスの低下を感じていると答えています。

順天堂大学女性アスリート外来の北出真理医師のもとには、陸上や新体操、球技など多くの選手が相談に訪れますが、最初に尿漏れの症状を訴える人は、ほとんどいないのだそうです。
北出医師
「無月経や月経困難症が強いということで来ることはあっても、よくよく聞くと尿漏れがつらかったと誰にも言えずに悩んでいるというのがすごく多いのが印象的でした。この症状はあまり見えてこないのだと思います」
そして、1人で抱え込まず、周囲に相談して欲しいと呼びかけています。
北出医師
「恥ずかしくておよそ9割の女性アスリートは、コーチに相談しないということも言っていますので、もう少しフランクに話せるような環境作りも重要なのかなと思います。また、尿漏れをどう知ってもらってどう予防・改善したらいいかを知ってもらうのが一番重要かなと思います」

尿漏れ 改善法は?

尿漏れの症状が出てしまったら、どうすればいいのでしょうか。

症状に詳しい、理学療法士の半田瞳さんに教えてもらいました。家事や仕事の合間に簡単にできる体操を紹介します。
四つんばい

▽まず、ひじをついた四つんばいの姿勢になります。その時、腰をそらないように背中がまっすぐになるよう意識しましょう。

▽そして、お尻をかかとにゆっくりと近づけます。息を吸いながら、かかとのほうに近づけて息を吐きながら、前に移動していきます。

▽息を吐きながら、前に移動するときは、お尻の穴を締めることがポイントです。
立ったまま

▽次は、立った姿勢でできる体操です。骨盤は、そったり、倒れたりしないよう、真ん中のポジションを保ちましょう。

▽まっすぐな骨盤のまま、お尻を下に下げて、上に戻すというスクワットのような動きを繰り返します。このとき、息を吸いながらお尻を下げて吐きながらお尻の穴を締めながら上に上がります。

半田さんにポイントを聞くと、大切なのは正しい呼吸と教えてくれました。
半田さん
「呼吸の基本は、鼻呼吸です。吸う・吐くに合わせて、横隔膜が正しく上下に動くのが理想の呼吸です。鼻呼吸をすることで、インナーユニットの1つである横隔膜をしっかりと上下させると、骨盤底筋など他のインナーユニットの筋肉も同時に動かすことができます」

「トレーニングで、症状の改善が期待されます。習慣化することが大事なので、毎日が望ましいです。1日50回ずつ、朝起きて25回、夜寝る前に25回とするなど、朝晩2回を目安に、それぞれの生活パターンに合わせて、是非続けてください」

知ることが大切

10代で尿漏れの症状が出た時、自分の体に何が起きたかわからず不安だったというトランポリンの佐藤選手。同じような悩みを抱える人たちへのヒントになればと、みずからの経験を打ち明け、「知ることが大切だ」と話してくれました。
佐藤選手
「知ってるのと知らないのとでは大きく違います。生理痛などもそうだと思いますが、症状に個人差がありますし、そもそもそうした症状があることを、まず理解してもらえると、相談しやすくなると思います。そして、寄り添ってもらえるような環境があると良いかなと思います」
スポーツニュース部 記者
沼田 悠里
2012年入局
金沢局、岡山局を経て2018年から現職
現在は体操やスキーなどの競技取材に加え、ジェンダーや環境など社会的な視点でもスポーツを取材