東京からアンテナショップが減っていく…

東京からアンテナショップが減っていく…
テレビアニメにもなった群馬県のマスコットキャラクター、ぐんまちゃん。
しかし、東京の“家”がなくなってしまいました。

実は今、全国の自治体のアンテナショップが、次々、東京から姿を消しています。
いったい、何が起こっているのでしょうか。

(アンテナショップ取材班・松本裕樹 清水阿喜子 横山翔太)

“家”をなくした ぐんまちゃん

「ぐんまちゃん家」と名付けられた群馬県のアンテナショップは、今から15年前の、2008年に銀座・歌舞伎座の向かいという絶好の舞台にオープンしました。

2018年には銀座7丁目へと移転リニューアルし、群馬のソウルフード「焼きまんじゅう」などが人気を集めていました。
しかし、その後、コロナ禍が直撃。

特産品もネット販売が主流となる中、ぐんまちゃん家の来場者は2021年度は年間13万5000人と、ピーク時から約8割減りました。

年間の売上額も9298万円とピークの半分近くに。

銀座の賃料は約7000万円と高額で、負担も重くのしかかる中、去年の年末に閉店しました。
関西から毎年のように訪れていたという女性
「特産の野菜など生鮮食品はアンテナショップで買えば新鮮だと思い、たびたび利用していたので残念。ネットで買えるものはこれからも積極的に買いたい」
東京の家がなくなったぐんまちゃん。今は、各地のイベントに出向いたり、SNSで情報発信したりして、PRに力を入れています。
群馬県東京事務所 担当者
「例えば高崎だと、東京から新幹線で50分ほどで行き来できる。都心に店舗を構えるよりはSNSなどにも力を入れて、群馬県へ直接誘客できる施策を進めたい」

コロナで減少 アンテナショップ

東京にアンテナショップが増え始めたのは、1990年代に入ってからでした。

バブル崩壊で賃貸料が安くなっていたこともあり、1994年には沖縄が銀座に、1995年には鹿児島が有楽町にアンテナショップを開業します。

その後も数は増え続け、アンテナショップの調査を続ける「地域活性化センター」によると、2020年度には81店舗にまで増えました。
しかし、コロナ禍などの影響を受け、去年4月1日時点で67店舗まで減っています。

アンテナショップの移転や統合も増えています。
沖縄のアンテナショップは、地下鉄の銀座一丁目駅の出口の目の前で営業を続けてきましたが、ことし2月に有楽町駅前の「東京交通会館」へと移転しました。売り場の面積は以前よりも小さくなりました。
銀座わしたショップ本店 運営会社担当者
「銀座一丁目は、地価も上がっていて賃料など維持費がかかっていた。一方で、移転先の有楽町駅前のビルには、北海道をはじめ各地のアンテナショップがあり、相乗効果も出ている」
このほか、静岡県は東京に新たなアンテナショップを出すことを計画していましたが、コロナ禍で取りやめています。

大阪に熱視線

東京で減りつつある、アンテナショップ。その一方で、自治体の注目を集めているのが大阪です。

来年7月に開業予定のJR大阪駅に隣接した高層ビルに、高知県、岡山県倉敷市、それに富山、福井、石川の北陸3県合同のアンテナショップがそれぞれ出店を予定しています。
その背景にあるのが、2年後、2025年に開催される大阪・関西万博です。駅周辺の再開発も進んでいて、JR大阪駅「うめきた」エリアの地下には、この春から新たなホームが完成し、関西空港に向かう特急も大阪駅に乗り入れるようになりました。

大阪は、国内外の観光客のまさに“玄関口”として期待が高まっています。

さらに、北陸3県の出店を後押ししたのは、北陸新幹線の延伸です。
今年度末には金沢と敦賀の間が開業し、今は2時間半かかっている新大阪と金沢の所要時間が30分近く短縮される見込みです。
福井県新幹線開業課 担当者
「万博などで関西を訪れる観光客が増えることを考えると、大阪は北陸の魅力を知ってもらう重要な拠点となると思う。同じ商業圏の北陸三県で力を合わせて、PRしていきたい」

この先アンテナショップは…

しかし専門家は、立地のよさだけでは、アンテナショップは生き残れない時代に入っていると指摘しています。
地域活性化センター 畠田千鶴さん
「大事なことは、どういう客層をターゲットにするか、店舗の独自性、ネットにない商品の発掘や開発など、綿密な市場戦略が求められる時代になっています。例えば高級店が建ち並ぶ銀座の一画にある茨城県のアンテナショップは富裕層にねらいを定め、メロンを使ったパフェなどの高級食品や干し芋や納豆などの健康食品に力を入れた結果、コロナ前より売り上げを伸ばしています」

アンテナショップの看板を貸すところも

新たな形のアンテナショップ展開も見られるようになりました。宮崎県がことし2月に香港にオープンした「KONNE」。

県としては初めての海外進出です。
ただ、こちらのアンテナショップ。
県ではなく、香港に住む宮崎県出身者が運営しています。
県はアンテナショップの看板を貸し出す形をとりました。
認定する際に基準としたのは次の3点です。
1.販売品目が宮崎県産品で、10社以上かつ50品目以上あること
2.宮崎県産品のPRに寄与することが認められること
3.「KONNE」を掲げて1年以上にわたって営業する予定であること
宮崎県担当者
「今後、コロナも収束してきて宮崎県の魅力を発信していく重要な拠点になる。また、香港のケースと同じように、今後も他の国に県産品の魅力を発信してくれる人がいれば連携を検討していきたい」

岐路に立つ どうする滋賀

変わりゆくアンテナショップ。
今、強い危機感を感じているのが、滋賀県です。

6年前に東京・日本橋にアンテナショップ「ここ滋賀」をオープン。

売り手によし。買い手によし。世間によし。
「三方よし」の精神の近江商人が江戸時代、拠点としていたのが日本橋でした。
しかし、賃貸料は年間、約1億円。契約期間はあと4年。
その後、契約を更新するかどうかはこの1、2年の成果で判断することになります。
ここ滋賀 片山昇所長
「危機感はすごくあります。税金を投入しているので目に見える成果を挙げなければ県民から理解は得られず撤退につながりかねません。一方、販路拡大を目指す地元事業者にとって最高の立地で商品を試せるし、情報発信の役割も考えるとゆかりのあるこの場所で存続したい思いは強いです」
ただ特産品を売る場所から、県ならではの魅力を発信できる場所へと変われるか。アンテナショップを入り口にして、観光や移住にもつながるよう、県では移住者や地元出身のタレントを呼んで魅力を伝えるイベントも開くなど、これまで以上に情報発信に力を入れたいとしています。
ここ滋賀 片山昇所長
「物販の売り上げだけではなく、滋賀への移住者や直接、足を運ぶ人などを増やすこともアンテナショップの存在意義だと思います。税金も入っている施設なので、目に見える成果を出せるよう努めていきたい」
大きな岐路に立つアンテナショップ。
費用と効果を意識しながら、各自治体はPRに向けてアンテナを張っています。