福島第一原発の処理水放出 韓国の視察団 きょう現地視察へ

東京電力福島第一原子力発電所でたまる処理水を、基準を下回る濃度に薄めて海に放出する計画をめぐって、韓国の専門家で構成する視察団が23日から現地を訪れ、処理水の保管状況や放出に向けた設備の工事の状況などを視察します。

日本政府は福島第一原発にたまるトリチウムなどの放射性物質を含む処理水を、基準を下回る濃度に薄めて海へ放出する方針で、ことし夏ごろまでの放出開始に向けて東京電力が準備を進めています。

この計画をめぐって日韓両政府は今月7日に開かれた首脳会談で、韓国の視察団を現地に派遣することで合意し、韓国の原子力安全委員会の幹部や海洋環境の専門家などおよそ20人からなる視察団が21日から日本を訪れています。

視察団は23日と24日の2日間、福島第一原発を訪れ、処理水の保管状況や分析結果、それに放出開始に向けた設備の工事の状況などを確認することにしています。

処理水を薄めて海へ放出する計画に対して、韓国の国内では懸念の声があがっていて、日本側としては今回の視察などを通じて計画の安全性を説明し理解を求めていく考えです。

一方、韓国政府は視察団の派遣の目的について「韓国の海や水産物にどのような影響を及ぼすか徹底的に確認し、必要な措置を直ちに実行していく」としています。

設備の工事 来月末までに完了予定

福島第一原発では、汚染水を処理したあとに残るトリチウムなどの放射性物質を含む処理水が増え続けていて、先月20日時点でタンクの容量の97%にあたる、およそ133万トンに達しています。

東京電力は、政府の方針に従い、処理水に海水を加えて基準を下回る濃度まで薄めた上で、海底に掘ったトンネルを通じて沖合およそ1キロの地点から海に流す計画です。

処理水は、あらかじめ専用の浄化設備を使ってトリチウム以外の放射性物質の濃度が基準以下まで下げられます。その上で、海水を混ぜ合わせてトリチウムの濃度を国の基準の40分の1にあたる1リットル当たり1500ベクレルを下回る濃度まで薄めて放出するとしています。

こうした水を海に放出した場合の人や環境への放射線による影響について、東京電力は、国際的なガイドラインに沿って評価しても十分に小さいと説明し、原子力規制委員会もこの評価を妥当だとしています。また、国と東京電力は、放出を始めたあとも海水のモニタリングを行い、異常な濃度の上昇がないか確認するとしています。

福島第一原発では、去年8月から放出に使う設備の本格的な工事が始まり、先月には海底トンネルの掘削が終わるなど、工事は終盤を迎えています。東京電力は、来月末までに工事を完了させる計画で、政府は、ことし夏ごろまでに放出を開始する方針を示しています。

放出計画 安全性に懸念の声も

処理水を薄めて海に放出する計画に対しては、国内外で安全性に理解を求めていますが、懸念も示されています。

国内では、全国の漁業協同組合でつくる全漁連が一貫して反対の立場を表明し、地元でも漁業者を中心に風評被害を懸念する声が根強くあります。特に、福島県漁連に対しては、2015年に政府と東京電力が「関係者の理解なしにいかなる処分も行わない」と文書で示していて、理解が得られるかが課題となっています。

海外に対しては、IAEA=国際原子力機関に要請し、去年から、中国や韓国など各国の専門家で構成する調査団の派遣を受けていて、IAEAは、来月までに放出開始の前の包括的な評価結果を公表するとしています。また、今月開かれたG7広島サミットで発表された首脳宣言では、IAEAによる評価の取り組みを支持すると明記されました。

日本の放出計画に対し、中国は強く反発していて、太平洋の島しょ国も「すべての関係者が安全性を立証するまで実施すべきでない」と訴えています。

韓国でも、国民の間で水産物の風評被害などへの懸念が根強く、ユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領は去年12月、IAEAのグロッシ事務局長に対し「韓国国民は懸念している」などと伝えていましたが、今月7日にソウルで開かれた日韓首脳会談では、韓国の専門家でつくる視察団を現地に派遣することで合意していました。

松野官房長官「視察を通じて理解が深まるよう努めていく」

松野官房長官は、午前の会見で「視察を通じて、韓国国内におけるアルプス処理水の海洋放出の安全性について理解が深まるよう努めていく。引き続き、透明性高く情報発信を行い、国際社会の理解醸成に取り組んでいく」と述べました。